ゴードン ベル賞ファイナリスト、NVIDIA の技術を活用したスーパーコンピューターでオープン サイエンスの境界を押し広げる

ハイ パフォーマンス コンピューティング分野における権威ある賞のファイナリスト 5 組が、Alps、JUPITER、Perlmutter などのスーパーコンピューターを活用した気候モデリングや流体シミュレーションなどで画期的な成果を挙げる
投稿者: Dion Harris

ハイパフォーマンス コンピューティング (HPC) の分野で卓越した業績を称えるゴードン ベル賞のファイナリスト 5 組は、気候モデリング、材料科学、流体シミュレーション、地球物理学、電子設計といった重要な分野の研究に NVIDIA のテクノロジを搭載したスーパーコンピューターを活用しています。

本日の SC25 で発表されたファイナリストのプロジェクトでは、物理シミュレーション、高精度演算、その他先進的なスーパーコンピューティング技術を活用した科学分野での AI と HPC を推進しており、気象予測、半導体設計、宇宙探査などの分野で画期的な発展を促進しています。 研究結果は ArXiv で公開されており、誰でもアクセスが可能です。

以下に挙げられるスーパーコンピューターが、それらの研究に大きく貢献しています。

  • Alps — スイス国立スーパーコンピューティング センター (CSCS) がホスティングしており、1 万基以上の NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip を搭載しています。
  • Perlmutter — 米国国立エネルギー研究科学コンピューティング センター (NERSC) がホスティングし、NVIDIA アクセラレーテッド コンピューティングを採用しています。
  • JUPITER — ユーリッヒ スーパーコンピューティング センター (JSC) でホストされる欧州初のエクサスケール スーパーコンピューターであり、NVIDIA Grace Hopper プラットフォームと Quantum-X800 InfiniBand ネットワーキングを搭載しています。

NVIDIA Grace Hopper プラットフォームを搭載した JUPITER スーパーコンピューター ラックのレンダリング画像。 ビデオ提供: ユーリッヒ研究センター / Sascha Kreklau

CSCS のディレクターである Thomas Schulthess 氏は次のように述べています。「CSCS では、オープン サイエンスを支援するだけでなく、それを高速化しています。今年のゴードン ベル賞ファイナリスト 5 組の気候モデリング、材料科学、流体力学、デジタル ツイン分野における驚異的な進歩は、『Alps スーパーコンピューターなしにはこれらの科学的発見を成しえなかっただろう』という意見を強固に裏付けています。計算の限界を押し広げることで、大胆な目標が現実のものとなり、私たちの世界を再定義する科学革命がもたらされます」

ファイナリスト 5 組のプロジェクトの詳細については、以下をご覧ください。

ICON: キロメートル規模の地球モデリング

マックス プランク気象研究所、ドイツ気候コンピューティング センター (DKRZ)、CSCS、JSC、チューリッヒ工科大学、NVIDIA の研究者が開発した ICON 地球システム モデルの新しい構成は、より正確な天気予報と惑星の仕組みの理解を深めることを可能にしようとしています。

地球全体のシステムをキロメートル スケールの解像度でモデル化することで、ICON は大気、海洋、陸地におけるエネルギー、水、炭素の流れを非常に詳細に捉え、前例のない時間圧縮でキャプチャできます。これにより、24 時間あたり約 146 日分のシミュレーションが可能になり、数十年先まで予測できる効率的な気候シミュレーションを実行できます。

ICON モデルを活用した二酸化炭素フラックスのシミュレーション

マックス プランク気象研究所の計算インフラおよびモデル開発グループリーダーの Daniel Klocke 氏は次のように述べています。「前例のない 1 km 単位の解像度で、地球システムの必須構成要素をすべて ICON モデルに統合することで、研究者は地球システム情報を局所的な規模で確認し、将来の温暖化が人間と生態系の両方に与える影響についてより多くを学ぶことができます」

ORBIT-2: 天候・気象モデリングのためのエクサスケール ビジョン基盤モデル

オークリッジ国立研究所や NVIDIA などが共同で開発し、Alps スーパーコンピューター上で実行される ORBIT-2 は天候および気象のダウンスケーリング向け AI 基盤モデルであり、比類のない拡張性と精度を発揮します。

エクサスケール コンピューティングとアルゴリズムの革新を活用した ORBIT-2 は、低解像度のデータから高解像度データを生成する空間的超解像度ダウンスケーリングによって、従来の気候モデルが直面する課題を克服します。これにより、チームは都市のヒート アイランド現象、極端な豪雨、季節風のパターンの微妙な変化など、より局所的な現象を観測および予測することができます。

オークリッジ国立研究所の AI プログラム ディレクター兼データおよび AI システム担当セクション責任者である Prasanna Balaprakash 氏は次のように述べています。「NVIDIA の先進的なスーパーコンピューティング技術により、ORBIT-2 は、NVIDIA プラットフォーム上で AI とハイパフォーマンス コンピューティングの接点で優れた拡張性、信頼性、インパクトを達成することができました」

QuaTrEx: ナノスケール デバイス モデリングによるトランジスタ設計の発展

チューリッヒ工科大学のチームは、次世代トランジスタの設計を強化できるアルゴリズム パッケージである QuaTrEx を活用したナノスケールの電子デバイスのモデリングを推進しています。

NVIDIA GH200 Superchip を搭載した Alps スーパーコンピューター上で実行される QuaTrEx は、FP64 パフォーマンスと極めて高い並列コンピューティング効率により、45,000 個以上の原子を持つデバイスのシミュレーションを実行できます。これにより、半導体業界にとって不可欠な NREFT と呼ばれるトランジスタを、より高速で正確に設計できるようになります。

ナノリボン トランジスタにおける電子の流れのシミュレーション。動画提供: チューリッヒ工科大学。

チューリッヒ工科大学の計算ナノエレクトロニクス教授である Mathieu Luisier 氏は次のように述べています。「Alps を利用することは、QuaTrEx の開発に重要な役割を果たしました。これにより、ほんの数か月前には扱うことさえ想像できなかったデバイスをシミュレーションできるようになりました」

MFC フロー ソルバーを活用して記録的規模で宇宙船をシミュレーション

特に多くの小型エンジンを搭載した宇宙船の設計においては、エンジンを密集して配置する都合、排気の相互作用によりロケットの基部が加熱される可能性があるため、綿密なシミュレーションが必要になります。

Alps スーパーコンピューター上で実行されるオープンソースのソルバーである MFC は、ジョージア工科大学と NVIDIA をはじめとする企業と共同で開発されました。これは、流体解析シミュレーションを従来の世界記録と同じ精度を維持しながら 4 倍高速で、なおかつ 5 倍以上エネルギー効率を向上させて実行できます。Alps でのフルスケールの演算に基づく場合、MFC は JUPITER で以前の世界記録の 10 倍の規模で実行できると期待されています。これにより、宇宙探査に不可欠なコンポーネントをより高速で正確に設計する道が開かれます。

数値流体力学を活用したロケット エンジンのシミュレーション。動画提供: ジョージア工科大学。

ジョージア工科大学の計算科学および工学助教授である Spencer Bryngelson 氏は次のように述べています。「私たちの新しい情報幾何学的正則化の手法を、NVIDIA GH200 Superchip の統合仮想メモリおよび混合精度機能と組み合わせることで、複雑な数値流体の動作のシミュレーション効率を劇的に向上させ、ロケット エンジンの噴流を前例のない規模でシミュレーションできるようになりました」

津波早期警報のためのデジタル ツイン

テキサス大学オースティン校、ローレンス リバモア国立研究所、カリフォルニア大学サンディエゴ校は、完全物理モデルに基づくリアルタイムでの確率的な津波予報を発令できる世界初のデジタル ツインを構築しました。

太平洋北西部のカスケード沈み込み帯に適用されたデジタルツインは、通常 512 基の GPU で通常 50 年かかる複雑な計算を、Alps と Perlmutter スーパーコンピューター上でわずか 0.2 秒で完了し、100 億倍の高速化を達成しました。

テキサス大学オースティン校機械工学教授である Omar Ghattas 氏は次のように述べています。「史上初めてリアルタイムのセンサー データと完全物理モデリングと不確実性定量化を迅速に組み合わせ、災害が起こる前に人々に行動する機会を提供できるようになりました。このフレームワークは、さまざまな危険性に関する物理学に基づく予測的な緊急事態対応システムの基盤となるものです」

津波デジタル ツイン、ICON、MFC プロジェクトでは、NVIDIA CUDA-X ライブラリが複雑なシミュレーションのパフォーマンスと効率を最大化する上で重要な役割を担いました。ICON は NVIDIA CUDA Graphs も活用しており、これにより作業を単一の操作ではなくグラフとして定義することが可能になります。

最新のスーパーコンピューティングの進歩に関する詳細については、11 月 20 日 (木曜日) まで開催される SC25 の NVIDIA セッションで紹介されます。