GPUテクノロジで「Hollywood」という有名な看板が壊れたり、津波がゴールデンゲートブリッジに押しよせるシーンが、この夏に公開された人気映画『カリフォルニア・ダウン』で話題を呼びました。でも、これは映画の話です。
現実世界については、南カリフォルニア地震センターの研究者がGPUによるハイパフォーマンス・コンピューティングを活用し、CyberShakeというモデルの開発を進めています。地球の3Dモデルを地震波がどう伝わっていくのかを計算する複雑なものです。このモデルが完成すれば、地震の予知が可能になったり、危険性の評価精度が向上したりすると期待されています。
南カリフォルニア地震センターがまず対象としたのは、本物のロサンゼルス地域でした。太平洋プレートとアメリカ・プレートのせめぎ合いから、カリフォルニア州を貫き、近隣の州にまで広がる有名なサンアンドレアス断層が生成している場所です。
今年前半に得られた成果をもとに、南カリフォルニア地震センターなどと協力したサンディエゴ・スーパーコンピューター・センターがNVIDIAのグローバル・インパクト・アワードとその賞金15万ドルを獲得しました。
そして、この春には、アメリカ国立科学財団とエネルギー省のスーパーコンピュータ――Blue WatersとTitan――を使い、南カリフォルニア地域でかつてないほど精巧な地震可能性の予測が行われました。
地震波
対象地域内の336カ所についてシミュレーションを行い、シミュレーションの最大周波数も0.5ヘルツから1ヘルツと倍増しました。このように細かく検討すると、想定される被害も増えますし、シミュレーションも複雑になります。ビルや橋などの建造物が被害を受けやすいのは、1ヘルツから10ヘルツの地震波なのです。
このとき大きな問題になるのが必要となる科学計算の量です。CyberShakeによる1カ所あたりの計算量は、0.5ヘルツを1ヘルツにしただけで33倍になってしまいます。今回は、GPUの並列処理効率がとても高いおかげで、7倍のノード時間ですみましたが。
南カリフォルニア大学にある南カリフォルニア地震センターは、トーマス・H・ジョーダン(Thomas H. Jordan)氏が所長として率いています。共同研究のチームには、カリフォルニア大学サンディエゴ校にあるサンディエゴ・スーパーコンピューター・センター、ハイパフォーマンス・ジオコンピューティング・ラボラトリのディレクタであるイーフェン・クイ(Yifeng Cui)氏も参画しています。
クイ氏は次のように述べています。「地震活動が活発な地域の都市に住む人が増えているため、大地震による経済的なリスクが高くなっていますし、今後、ますます高まるものと思われます。GPUの能力と高レベルのGPUプログラミング言語であるCUDAとを組み合わせれば、膨大な計算処理を必要とする3Dシミュレーションを高速化できるだけのコンピューティング・パワーが得られます。」
白い三角で示した336カ所をもとにしたロサンゼルス盆地のCyberShake Study 15.4ハザード・マップ(左側の図)。50年間に2%の確度で予想される地震の激しさが表示されています。色が赤くなるほど危険性が高い地域であることを示します。
ハザード・マップ
最終的な目標は、地震の発生可能性をシミュレーションし、なるべく正確なハザード・マップを作ること――つまり、米国地質調査所(南カリフォルニア地震センターの仕事もサポートしている)が提供しているようなマップを作ることです。ハザード・マップは、コードの構築を担当するエンジニアだけでなく、地震学者や公益企業にとっても役に立つものです。
クイ氏とともに今回の研究を進めた南カリフォルニア地震センターのフィリップ・マーチリング(Philip Maechling)副所長は、次のように述べています。「世間はすぐに地震が起きるのかどうかを知りたがりますが、そのような予測が行える科学的手法はまだ確立されていません。天気予報のようにもうすぐ雨が降るから雨具を用意しておいたほうがいいよと言えるわけではないのです。」
GPU採用のスーパーコンピューティング・アーキテクチャなら、複雑な地震シミュレーションを高い効率ですばやく行うことができます。構造物の反応は、構造物によっても、また、地震波の周波数によっても大きく異なります。ハイウエイのオーバーパスや高層ビルにとって危険なのは長周期振動で、小さなビルはもっと高い周波数の振動が危険なのです。
さまざまな建造物に適用可能な情報を得たいとマーチリング氏は考えているそうです。作成したモデルはカリフォルニア州の他地域にも応用できるはずですし、世界の他地域にも応用できるはずです。つまり、映画館以外で『カリフォルニア・ダウン』のような被害を目の当たりにせずにすむ時代がそのうち来るかもしれないわけです。
NVIDIAでは、2016年のグローバル・インパクト・アワードについて、10月末まで申請を受け付けています。