異常気象に対して地域社会が十分に備えるためには、まず気象予報士が影響範囲を正確に予測する必要があります。
そのために、世界各地の気象機関や気候科学者が、風、気温、降水の種類や量をキロメートル単位で予測できる NVIDIA の生成 AI 気象モデル、CorrDiff を活用しています。CorrDiff は、気象、気候条件をシミュレーションする NVIDIA Earth-2 プラットフォームの一部です。
CorrDiff に関する論文が、Nature 系列の科学誌「Communications Earth and Environment」に掲載されました。容易に導入できる NVIDIA NIM マイクロサービスとして提供されているこのモデルは、すでに気象テクノロジ企業、研究者、政府機関で予測精度の向上のために利用されています。
異常気象が頻発化する今、気象現象を迅速かつ高解像度で予測できれば、リスク評価、避難計画、災害対応、異常気象に強いインフラ整備に利用して、人、地域社会、経済へのリスクを軽減することが可能になります。
世界中の気象機関やスタートアップ企業が、異常気象現象、再生可能エネルギーの管理、農業計画のために、CorrDiff やその他の Earth-2 のツールを導入して予測の解像度と精度の向上を図っています。
高精度気象予測の実現が目前に
CorrDiff は、生成 AI を活用し、粗い解像度の気象モデルの精度を高めます。具体的には、テキストから画像を生成するサービスに現在使用されているのと同じ種類の拡散モデルという AI モデルアーキテクチャにより、25 キロメートル単位の大気データを 2 キロメートル単位まで高解像度化します。
CorrDiff は、画像の解像度を高めるだけでなく、入力データに含まれていない関連変数を予測することもできます。たとえば、降雨の地域と強度を示す指標として利用されるレーダー反射率などを予測できます。
CorrDiff は、WRF (Weather Research and Forecasting) モデルの数値シミュレーションを使用してトレーニングされており、従来比 12 倍の高解像度で気象パターンを生成できます。
CorrDiff の初期モデルは、NVIDIA GTC 2024 で発表され、科学誌「Communications Earth and Environment」に詳しい論文が掲載されました。このモデルは、台湾の中央気象署との協力の下で、台湾の気象データを使用して最適化されました。
その後、NVIDIA の研究者とエンジニアが、モデルを効率的に拡張して地球のより広い地域を対象とできるように取り組みました。Supercomputing 2024 で NVIDIA NIM マイクロサービスとして公開されたバージョンは、米国の気象データを使用してトレーニングされており、米国本土を対象としています。トレーニング データには、ハリケーン、洪水、冬の嵐、竜巻、寒波など、実際の自然災害の事例を含むサンプル データセットが含まれています。
この米国の気象データ用に最適化された CorrDiff NIM マイクロサービスは、CPU を使用した従来の高解像度数値気象予測と比較して、処理速度が 500 倍、エネルギー効率が 1 万倍向上しています。
モデルの性能向上に取り組み続ける CorrDiff の研究チームは、新たに生成 AI の拡散モデルをリリースし、モデルの改良によって、さまざまな環境で細かい解像度の情報を正確に生成し、稀少現象または異常気象現象をより正確に予測することが可能になることを示しました。
また CorrDiff は、ダウンウォッシュ現象の予測にも役立つ可能性があります。ダウンウォッシュとは、都市部の建物間の通路を吹き下ろす強風が、建物や歩行者に被害を与える現象を指します。
気象機関が CorrDiff の活用を拡大
世界各地の気象機関や企業が、地域の気象予報、再生可能エネルギーの管理、災害対応に CorrDiff を利用して予測を加速しようとしています。
たとえば、台湾の国家災害防救科技中心は、CorrDiff を導入し、地域の防災警報を支援します。NVIDIA の AI プラットフォーム上で稼働する CorrDiff の高いエネルギー効率により、約 1 ギガワット時のエネルギー削減が実現されています。CorrDiff の予測情報が同センターの災害監視サイトに組み込まれ、台湾の気象予報士がより的確に台風への備えを強化するのに役立っています。
NVIDIA GTC で Earth-2 を学ぶ
3 月 17 日から 21 日まで米国カリフォルニア州サンノゼで開催された世界規模の AI カンファレンス NVIDIA GTC で、Earth-2 を活用した AI アプリケーションについて詳しく学ぶことができます。以下、関連セッションのご紹介です。
- Applying AI Weather Models With NVIDIA Earth-2 (NVIDIA Earth-2 を活用した AI 気象モデルの応用): 本トレーニング ラボでは、参加者が、グローバルな AI 気象予測モデルを実行する方法を紹介。
- Earth to AI (地球を AI に): 業界のリーダーたちが、AI と気候科学が持続可能な未来のためのビジネス戦略をどう変革するかを探るパネルディスカッション。
- Enhancing Photovoltaic Power Predictions With High-Resolution Weather Forecasting from NVIDIA Earth-2 (NVIDIA Earth-2 の高解像度気象予測による太陽光発電の予測精度向上): 本セッションでは、Earth-2 モデルで太陽光発電量を予測するという NVIDIA、北京大学、電力会社 GCL の共同プロジェクトを紹介。
- Global Atmospheric Downscaling by Improving CorrDiff Process (CorrDiff プロセスの改良による全球気象のダウンスケーリング): 本ポスター セッションでは、韓国のスタートアップ企業 NoteSquare が、改良した CorrDiff を韓国気象庁の地域気象データに利用したプロジェクトを紹介。
- Transform Natural Catastrophe Risk Simulations With Advanced Computational Tools (先進的な計算ツールによる自然災害リスク シミュレーションの変革): NVIDIA、Amazon Web Services、多国籍保険会社 AXA からの登壇者が、AXA が Earth-2 を活用して異常気象をシミュレーションしている方法を紹介。
また、AI による気候科学の変革について、NVIDIA の気候シミュレーション研究ディレクターであるマイク プリチャード (Mike Pritchard) が TEDx Talks で語りました。