QPU は量子プロセッサとも呼ばれ、量子コンピューターの頭脳の役割を果たします。電子や光子といった粒子の振る舞いを利用することで、ある種の計算を従来のコンピューターのプロセッサよりもはるかに高速に実行します。
現在、アクセラレーテッド コンピューティングを実現している GPU や DPU は、新型チップの QPU が量子コンピューティングの可能性を引き出す上でも貢献しています。
QPU (量子プロセッシング ユニット) を手にしてみると、GPU (グラフィックス プロセッシング ユニット) や DPU (データ プロセッシング ユニット) と見た目や感触が似ているでしょう。これらはすべて一般的にはチップ、あるいは複数のチップを搭載したモジュールですが、QPU の内部はまったく異なっています。
QPU とは一体何か
QPU は量子プロセッサとも呼ばれ、量子コンピューターの頭脳の役割を果たします。電子や光子といった粒子の振る舞いを利用することで、ある種の計算を現在のコンピューターのプロセッサよりもはるかに高速に実行できます。
QPU は、量子力学と呼ばれる比較的新しい物理分野で説明される、粒子が一度に複数の状態をとることのできる「重ね合わせ」といった性質を利用します。
一方、CPU や GPU、DPU はどれも、古典物理学の原理を電流に応用したものです。そのため、現在のシステムは古典コンピューターと呼ばれています。
QPU には、暗号化、量子シミュレーション、機械学習の発展や、最適化をめぐる難題の解決への期待が寄せられています。
QPU | GPU |
---|---|
量子プロセッシング ユニット | グラフィックス プロセッシング ユニット |
量子物理学に基づく | 古典物理学に基づく |
0 と 1 だけでない状態をとり得る量子ビットを使用 | 0 か 1 かの状態をとるビットを使用 |
亜原子粒子 (原子よりも小さい粒子) の状態を利用 | トランジスタでオン/オフされる電気を利用 |
暗号化や量子効果のシミュレーションに最適 | HPC、AI、古典シミュレーションに最適 |
量子プロセッサのしくみ
CPU や GPU がビット (0 か 1 を表す電流のオン/オフ状態) で計算を行うのに対し、QPU は Qubit (多様な量子状態を表現できる量子ビット) で計算を行うことでその独自の能力を発揮します。
量子ビットとは、コンピューター サイエンティストが QPU 内の粒子の量子状態に基づいてデータを表すのに使用する抽象概念です。時計の針のように、量子ビットは確率の球面上の点のような量子状態を指し示します。
QPU の能力はよく QPU 中の量子ビット数で表されます。研究者は、QPUの全体的な性能のテストや測定を行うための新たな方法を開発中です。
多様な量子ビットの生成方法
企業や学術機関の研究者は、QPU 内で量子ビットを生み出すにあたって多種多様な手法を利用しています。
昨今もっともよく使われるアプローチは、「超伝導量子ビット」と呼ばれるものです。基本的に 1 つ以上の小さな金属のサンドイッチ構造である「ジョセフソン接合」から成り、電子が 2 つの超伝導体間の絶縁層を通過する現象を利用します。
この最先端技術は、1 つの QPU にそのような接合を 100 以上生成します。同アプローチに基づく量子コンピューターは、ハイテク シャンデリアのような強力な冷却装置によって絶対零度近くまで温度を下げることで電子を分離します。(以下の画像を参照)
光の量子ビット
企業によっては、量子プロセッサで量子ビットを形成するのに電子ではなく光子を使っています。そのような QPU には、電力消費量の多い高額な冷却装置が不要な代わりに、光子を管理するための高度なレーザーとビーム スプリッターが必要になります。
研究者たちは、QPU 内で量子ビットを生み出して接続するために、他の手法を使って開発しています。たとえば、「量子アニーリング」と呼ばれるアナログ プロセスが使われている場合がありますが、そのような QPU を採用しているシステムの用途は限られています。
量子コンピューターの黎明期に当たる今、どのような QPU が今後普及するかはまだ明確になっていません。
シンプルなチップとエキゾチックなシステム
理論上、QPU は古典プロセッサよりも必要な電力や生成される熱を抑えられるかもしれませんが、QPU を搭載する量子コンピューターは、消費電力が大きく、価格も高くなるかもしれません。
なぜならば、量子システムは通常、粒子を正確に操作するうえで専用の電子制御または光学制御サブシステムを必要とするためです。また、ほとんどが粒子に適した環境づくりのために、真空エンクロージャーや、電磁シールド、あるいは高度な冷却装置を必要とします。
こうした理由もあって、量子コンピューターはスーパーコンピューティング センターや大規模データセンターに設置されることが予想されます。
QPU に期待される役割
こうした複雑な科学や技術によって、研究者は量子コンピューターに搭載された QPU が驚くべき成果をもたらすと見込んでいます。特に、4つの有望な可能性に期待を寄せています。
まず、コンピューター セキュリティをまったく新しいレベルへと引き上げる可能性です。
量子プロセッサは、暗号化の中核機能となる膨大な数の因数分解を高速に実行できます。つまり、今日のセキュリティ プロトコルを破壊してしまうばかりでなく、これまでにない、格段に強力なものを開発することも可能になります。
また、QPU は原子レベルでの物質の振る舞いについて量子力学のシミュレーションを行うのに理想的です。化学や材料科学の根本的な進歩を可能にするため、航空機の軽量化設計からより効果的な薬の開発まで、あらゆる分野でドミノ効果が生まれることが期待されます。
ほかにも研究者は、金融や物流といった分野において、古典コンピューターでは手に負えない最適化の問題を量子プロセッサによって解決できると期待しています。さらに、機械学習の進化まで期待できるでしょう。
では QPU の実用化はいつ?
量子分野の研究者にとって、QPU の実用化はまだ先の話になりそうです。一方、課題はあらゆる領域に及んでいます。
ハードウェア レベルでは、QPU に現実世界の仕事の多くに対応できるほどの性能と信頼性はまだありません。ただし、初期段階の QPU、そしてそのシミュレーションを NVIDIA cuQuantum などのソフトウェアで行う GPU が、研究者の役に立つ成果を見せ始めています。特に、より高性能な QPU の構築と量子アルゴリズムの開発方法を探るプロジェクトで顕著です。
研究者は、Amazon、IBM、IonQ、Rigetti、Xanadu をはじめ各社から提供されているプロトタイプ システムを利用しています。また、この技術の可能性に気付き始めている世界中の政府機関が、これまでより大規模かつ野心的なシステムの構築に向け多額の資金を投じています。
量子プロセッサをプログラミングするには
量子コンピューティング用ソフトウェアはまだ初期の段階です。
その多くは、プログラマが古典コンピューターの黎明期に苦労を強いられたアセンブリ言語のコードのようなもので、開発者は各自のプログラムを実行するうえで基盤となる量子ハードウェアの詳細を理解する必要があります。
しかしここでも、あらゆるスーパーコンピューターで機能する単一ソフトウェア環境 (一種の量子 OS) の実現という究極の目標に向けた、進展の兆候が見られるのも確かです。
いくつかの初期プロジェクトが進行しています。どのプロジェクトも現在のハードウェアの制約に悪戦苦闘しており、なかには企業のコード開発における限界がネックとなっているケースもあります。
たとえば企業によっては、エンタープライズ コンピューティングの深い専門知識がありながらも、量子コンピューティングの科学技術研究の大半が行われるようなハイパフォーマンス環境における経験が不足していたり、量子コンピューティングとの相乗効果を発揮する AI の専門知識が不足していたりします。
ハイブリッド量子システムの導入
研究コミュニティは、しばらくは古典コンピューターと量子コンピューターが併用されるだろうという見解を明らかにしています。つまり、ソフトウェアは、QPU、CPU、GPU のどれにおいても問題なく動作する必要があります。
量子コンピューティングを前進させるため、NVIDIA はハイブリット量子システムのプログラミングに対応したオープン プラットフォーム「NVIDIA Quantum Optimized Device Architecture (QODA)」を最近発表しました。
QODA には簡潔かつ表現豊かな高水準言語が含まれているため、優れたパフォーマンスと使いやすさを誇ります。QODA を利用することで、開発者は量子コンピューターの QPU 上と古典システムで QPU のシミュレーションを行う GPU 上で動作するプログラムを作成できるようになります。
QODA では、あらゆる種類の量子コンピューターとあらゆる種類の QPU をサポートする予定です。
リリース時には、Pasqal、Xanadu、QC Ware、Zapata といった量子システムとソフトウェアのプロバイダーが、QODA のサポートを表明しました。ユーザーには、米国および欧州の主要なスーパーコンピューティング センターが含まれます。
QODA は、科学や技術分野、そして企業ユーザーの HPC および AI ワークロードを加速する CUDA ソフトウェアで培った NVIDIA の幅広い専門知識に基づいています。
年内には QODA のベータ版リリースが予定されており、2023 年以降の QPU の展望は明るいといえます。
– 本稿の調査にあたっては、カリフォルニア大学バークレー校で量子コンピューティングを専門とする博士論文提出志願者、ユンチャオ リュ ー (Yunchao Liu) 氏にご協力いただきました。