「これは素晴らしい」
「こんなものは見たことがない」
「どうしたら手に入れることができるんだ」
才能ある技術者がこんなふうに思わず彼女に話しかけたくなるような秘密兵器を、NVIDIA の採用担当者、リサ カルデロン (Lisa Calderon) は持っています。それは長さ 1 フィート、幅 1.5 インチで、電子部品になじみのない人々にとっては奇妙に見える金色のマーキングで覆われています。
「誰もが同じことを尋ねます。1 つもらえますか。それから、もちろん友人のためにもう 1 つ。」とカルデロンは言います。
これは NVIDIA の定規です。多くの NVIDIA の従業員の経験によると、この地味なプリント回路基板を適切な場所へ持って行って、適切な人々に見せると、ただちに反応が返ってきます。
「これを見せたすべての電気技術者は、その瞬間に『今すぐこれが欲しい』と言いました」と、NVIDIA ASIC アーキテクトのジョッシュ (Josh) は述べています。彼は、業界の関係者に沢山の NVIDIA 定規を郵送しました。
この定規は NVIDIA の社内ストアに入荷されるたびに、数分で売り切れます (このストアでは、今までに 5,000 本の定規が売れました)。
NIPS (長期にわたって開催されているディープラーニング カンファレンス) などの業界カンファレンスでも、さらに数千本が売れ、ソーシャル メディアで大きな話題となりました。
業界イベントでは競合企業の従業員が NVIDIA のブースに並び、自分のお金を払って定規を買っていきます。
これは市販されたことがありません。しかし、イベント後即座に eBay にアクセスすれば、従業員専用の安い価格である 3.5 ドルの 10 倍で出品されている定規を見つけることができる場合があります。
確実に入手する唯一の方法は、NVIDIA の従業員と友達になることです。
NVIDIA の定規は、NVIDIA の従業員専用の部品ストアで
特に人気の高い商品の 1 つです。
技術者が技術者向けに製作
この NVIDIA 製品のストーリーは、2016 年に、ハードウェア エンジニアリング担当副社長であり、勤続 15 年のベテランであるアンドリュー ベル (Andrew Bell) から始まりました。ベルは、技術者が後ろのポケットに差して、設計会議に持ち込むことができる何かを求めていました。
ベルは次のように説明しました。「モチベーションとなったのは、NVIDIA が採用する多くのインターンと新卒者が、モノの物理的なサイズを把握することが困難なデジタル世界で研究していたことです。
基板に網目状に張りめぐらされた誘導子、コンデンサー、ダイオード、水晶の中に GPU を組み込むには、労力、集中、そして良質なはんだごてが必要です。
この定規は、技術者のデジタル世界を現実世界に合わせて調整し、大きすぎる、または小さすぎる構成部品を設計に使用するのを避けるためのトレーニング ツールとなります。」
「このツールの製作は、すぐに楽しい作業になりました」と、技術者が部品を調達し、組み込むために使用する多くの複雑なツールの管理を担当している NVIDIA の技術者、ジョンは説明します。
ジョンは、ベテランのシステム エンジニアであるアンディー (Andy) と協力しました。アンディーは、NVIDIA の他製品の構築に使用するのと同じ電子設計ツールを使用して、この定規の回路図を設計し、オスカー (Oscar) がレイアウトをデザインしました。
NVIDIA の定規の独自性は、一般に使用されている部品を参考にした他の定規とは異なり、NVIDIA の技術者が当社の製品を組み立てるために特に頻繁に使用する部品がプリントされている点にあると、ジョンとアンディーは説明します。
製作者: ジョンとアンディーはいずれも NVIDIA の技術者で、
当社の技術に関する詳細を詰め込んだ定規の製作を支援しました。
このような部品には、ゲーマー向けの当社のグラフィックス カードに搭載されている高性能な GP104 GPU やモバイル プロセッサ Tegra X1 および Tegra K1 (業界用語では SoC と呼ばれています) などがあります。
この定規は、技術者が各部品のサイズを一目で確認できるようにするだけでなく、動作させるために各プロセッサの後ろのピンと慎重に位置を合わせる必要がある多数のボール グリッド アレイ (BGA) の配置などの重要な詳細を示します。
NVIDIA の主力製品は、細かいものが詰め込まれたこの定規の上でまさに目立っています。これらの製品についてジョンやアンディーと話すと、それぞれの技術に関する興味深い説明を詳しく聞くことができます。
定規の片方の端にある表の中央には、下部から上部にかけてサイズが大きくなる一連の穴が空いています。検証担当技術者のアンディーは、ワイヤーの直径を測るためにこれを利用できると説明しました。
次に、技術者は長さの単位当たりの抵抗を計算するために、便利な公式が示されている定規上の別の表を参照できます。これにより、技術者は基板に必要なワイヤーの直径を決定し、そのワイヤーに特定の電流を流した場合に、電圧がどの程度下がるかを確認できます。
この定規はそれ自体、熟練技術者による卓越した作品でもあります。これは、プリント回路基板、ほとんどすべての電気製品内の電子構成部品を接続する多層のファイバーグラスと銅箔から構成されています。
金色のマーキングには、多くの電子構成部品で使用されているものと同じ金めっきプロセスである無電解ニッケル/置換金めっき処理 (ENIG) が用いられています。最終製品は、カスタム回路基板の生産に長い実績を有するシリコン バレーの小規模な工場で製造されます。
2016 年 9 月に NVIDIA の活発な「職務の垣根を越える議論」向けのメール グループで、この定規が初めて投稿されたとき、社内ですぐに熱狂的な関心が寄せられ、「私にとって完璧な定規だと思う」、「最高に上出来な定規」などの意見が書き込まれました。
噂が広まるのは早く、優秀な学生が集まる東海岸の技術学校で初めて公開した数時間後に、定規の画像がインターネットに投稿され、78,000 回以上閲覧されました。「欲しい」というコメントが最も多く、「これで『クライシス』をプレイできる?」という質問が特に多く寄せられました。
製品を組み立てる細かい作業とは大きく異なり、コンピューター支援設計ツールで作業している人が多い NVIDIA の数千人の技術者の間で、数百人規模の作業を支援するために設計されたツールに人気が出た理由を尋ねると、ジョンは次のようにシンプルに説明しました。
「ある従業員は、この定規を見て、『このチップの製造に関わったんだ。どうしてもこれが欲しい』と言いました。いずれかのチップに携わったことのある当社の従業員なら皆、この定規を、手に入れたいお土産だと思うでしょう。」
要するに、この定規は 12 インチに込められた NVIDIA の魂なのです。
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