シリコンバレーの気候を愛する石橋 知博氏。
「問題は、ゴールデンステート (カリフォルニア州) の穏やかな気候が天気予報の精度を向上させる方法を確立するのにまったく不向きだという点です」と、GPU テクノロジ カンファレンスに登壇した同氏は、ほほえみながら開口一番こう説明しました。
そして、それこそが日本に拠点を置く株式会社ウェザーニューズが実現を目指していることでもあります。同社は、東京拠点のスタートアップ、デエイアイグノシス株式会社 (dAIgnosis)と提携し、一般市民からの報告や、日本の地上レーダー基地局の優れたシステムを利用して、より精度の高い降雨予報を出せるように AI 活用モデルのトレーニングを行うことにしました。
その方法は、従来型の天気予報モデルを覆す理想的な方法です。ウェザーニューズの執行役員である石橋氏によると、従来型のモデルとは高性能の衛星システムと地上レーダー システムを用いた気象庁の天気予報サービスを利用するもので、出された予報は各種メディアに送られ、そこから一般の人々に伝えられます。
問題はこのモデルの精度が 20 年もの間、目に見えて向上していない点です。同氏はそれを 100 メートル競争になぞらえ、「一流レベルの短距離走者でもここ 20 年もの間、コンマ数秒を超えるほどタイムを縮めていない」と言います。
劇的な向上を図るには、新たなアプローチが必要になります。「何らかのマシンを装着できれば、たとえばロケット パックを背負ってもいいなら、100 メートルを 6 秒台、あるいは 5 秒台で走れるかもしれません」と、同氏は言います。
ディープラーニングは、まさにそのロケット パックにあたります。
1 億 5,000 万ドルの収益をあげ、世界 21 か国に 800 人の従業員を擁するウェザーニューズが、従業員 10 人規模の企業、dAIgnosisと提携したのはそのためです。dAIgnosis はAI、モバイルネットワーク、自律型デバイスなどを活用し、まさに天気予報の精度改善のような、新たな問題の解決を専門としています。
ウェザーニューズとの提携に伴い、dAIgnosisは衛星画像を使って雨雲が形成される場所を予測するために、NVIDIA DGX-1 システムと NVIDIA DGX-2 システムを実行する敵対的生成ネットワーク (GAN) を開発しました。
衛星画像の利点は、3 基の衛星によって上空から世界の天候の大半を確認できることにありますが、衛星画像では地上レーダー システムの精度で雨雲を検知することはできません。その上、地上レーダー システムの開発と運用には多大なコストがかかります。日本には高性能の地上レーダー網がありますが、世界のほとんどの国にはありません。
その反面、気象状況に関するユーザーからの報告やツイッターに挙げられる情報と、地上レーダー網を組み合わせると、「地上検証」の優れたソースとなります。それを利用することで、DGX によって衛星データから雨雲モデルを構築するために、ある種の GAN をトレーニングすることができます。そのデータがなければ、モデルの改善 (つまり、トレーニング) を行って、予報の精度を向上させることはできません。
このことから、四季と突然の降雨がある日本の気候は、世界の他の国々の気象モデルを作成し、予測精度を向上させる方法の確立を目指す企業にとってうってつけと言えるでしょう。