NVIDIAは、本日、自律走行のリードをシフトアップしました。
CES 2016のプレス・イベントで、NVIDIAは、自動車自身が周囲を認識し、安全な経路で自ら走行できるようにする人工知能テクノロジを発表したのです。
このイベントでは、トレードマークとなっている黒いレザー・ジャケットを着たNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン(Jen-Hsun Huang)が、自動車メーカの社員や報道関係者、アナリストなど400人ほどに対し、DRIVE PX 2を発表しました。DRIVE PX 2は自動車用のスーパーコンピューティング・プラットフォームで、ディープラーニングの演算を1秒あたり24兆回も行うことができます。DRIVE PXは第1世代の製品が世界50社あまりの自動車メーカーに採用されていますが、DRIVE PX 2のパフォーマンスはその10倍に達しています。
新しいDRIVE PX 2の処理能力は8テラフロップスで、これは、MacBook Proなら150台分に相当します。大きさはお弁当箱程度。ほかの自律走行技術では、中型セダンのトランクが満杯になってしまいます。
今回の講演の冒頭、フアンは、次のように述べています。「自律走行の自動車で社会は一変するでしょう。そして、NVIDIAは、自律走行車の実現を可能にしたいと考えているわけです。」
ボルボ、DRIVE PX 2で自動運転SUVを開発
交通事故による死者をなくそうと、ボルボは、他社に先駆けてDRIVE PX 2を採用しました
ボルボと言えば安全性と信頼性で世界的に知られたスウェーデンの自動車メーカですが、そのボルボが自動車メーカとして初めてDRIVE PX 2を採用したとフアンは発表しました。
ボルボは、来年、世界初となる自動運転の路上試験を行うため、ラグジュアリSUVのXC90、100台にDRIVE PX 2テクノロジを搭載し、顧客にリースするとしています。DRIVE PX 2テクノロジにより、この車は、ボルボの本社があるイェーテボリ周辺の道路では自動運転、その他の地域では半自動運転で走行する予定です。
DRIVE PX 2では、たくさんのセンサを使い、自動車全周の映像を取得することができます。
「バックミラーなど、もう時代遅れなのです」とフアンは指摘しました。
運転しないことで安全に運転する
ほんの少し前まで、自動車に使うテクノロジとして安全性に疑問があると専門家から疑問の声が上がっていました。いまでは、交通事故による死者をなくすために自律型ビークルを投入するとボルボが計画するなど、状況は180度転換しました。人間の運転より自動運転のほうがずっと安全かもしれないのです。
自動車事故は、その93%が人為的ミスによって起きているとされており、その死者は年間130万人にのぼります。米国ティーンエージャーの死亡原因の1位は、携帯でメッセージを打ちながらの運転です(飲酒運転より多い)。
生産性の問題もあります。テキサスA&M大学のUrban Mobility Reportによると、米国人が渋滞で無駄にしている時間は年間55億時間、金額換算で1210億ドルに達するそうです。また、道路の利用効率低下は、インフラストラクチャ投資という形でさらに多額の無駄を生みます。
路上に出るディープラーニング
コンピュータビジョンによる自律走行も、問題をある程度は解決してくれます。しかし、ふらっと出てくるペット、急に曲がる車、たたきつけるような雨、道路工事の作業員など、運転者が対応しなければならないことは無限にあり、そのすべてに対応するプログラムを開発するのはとても無理です。
このような課題に対処できるのが、NVIDIAのテクノロジが可能にしたディープラーニングです。ディープ・ニューラル・ネットワークをクラウドのスーパーコンピュータに置いて十分にトレーニングすれば、何万時間にもわたる路上走行の経験を取り込むことができるのです。
すでに複数の自動車メーカがNVIDIAのディープラーニング・テクノロジを導入し、他の技術に比べて30倍から40倍という高速でネットワークのトレーニングをしているとフアンは報告しました。たとえば、BMWやダイムラー、フォードなど、また日本の革新的なPreferred NetworksやZMPといったスタートアップ企業もです。アウディでは、他社のソリューションで2年かかったトレーニングを4時間ですますことができたそうです。
NVIDIA DRIVE PX 2は、ディープラーニングを路上に持ち出すエンドツーエンドのプラットフォームを構成する要素のひとつです
NVIDIAが提供するエンドツーエンドのディープラーニング・ソリューションと言えば、まず、NVIDIA DIGITSを挙げるべきでしょう。このスーパーコンピュータを使えば、デジタルのニューラル・ネットワークを路上で収集したデータに触れさせ、トレーニングすることができます。その反対のエンドにあるのが、このトレーニングで推論の能力を獲得し、自動車が安全な走行経路を取れるようにするDRIVE PX 2です。両者の中間に位置するのが、自律型ビークルの開発や試験をスピードアップできるソフトウェア・ツール、ライブラリ、モジュールのスイート、NVIDIA DriveWorksです。
DriveWorksを使えば、DRIVE PX 2に搭載された専用プロセッサと汎用プロセッサで複雑なアルゴリズムのパイプラインを走らせ、センサの較正や周囲データの取得、同期、記録、そして、センサ・データ・ストリームの処理までを行うことができます。
フアンは、コンピュータには不可能だと言われていた画像認識などのタスクで人間以上の成績を収められるマシンが登場しつつあることも、今回、指摘しました。ディープラーニングでトレーニングしたシステムなら、画像の分類を96%以上と、人間を超える精度で行えたりするのです。
今回のイベントでは、自律型ビークルにディープラーニングをどう応用するのかを取りあげました。
この説明に使ったのが一連のデモです。DRIVE PX 2がLIDARやレーダ、カメラ、超音波センサなどの各種センサをコントロールし、リアルタイムに周囲の世界を理解して、安全かつ効率的な走行経路を判断するという3ステップを示したのです。
世界最大のインフォテインメント・システム
巨大なNVIDIAのセンサ・フュージョン・デモ
デモの見せ場は、世界最大のインフォテインメント・システムとフアンが呼ぶものです。それなりに大きい寝室くらいの壁に横長のスクリーンと縦長のスクリーンがひとつずつ取り付けられたシステムです。
もっと大きなスクリーンもあって、そちらには運転している人が目にするシーンが表示されます。横長のデモ用スクリーンには、ディープラーニングとセンサ・フュージョンにより、車にはそのシーンがどう「見える」のか、各種センサからの情報をリアルタイムにどうまとめているのかが表示されます。右側の縦長スクリーンには、詳しい地図と車の走行経路が示されます。
このデモを見れば、今週、運転の未来についていろいろなことが聞けるのだろうと期待がいやが上にも高まるはずです。