AIの第一人者であるフェイフェイ リー氏は、介護者のスキルをAIで拡張することが、よりよい患者ケアにつながるとの考えを示す
現代医学の進歩にもかかわらず、毎年25万人もの米国人が医療ミスで死亡しており、その数は交通事故での年間死亡者数の6倍以上だといわれています。
AI研究の世界的権威であるフェイフェイ リー (Fei-Fei Li) 氏は、コンピューター ビジョンを用いた運転支援システムが路上での安全性を高められるように、ヘルスケアでのこうした死亡事故の一部をスマート ホスピタルAIによって回避できると考えています。
「手術器具の抜けや誤った薬剤処方、臨床医不在時の患者の安全問題のどれを取っても、過ちを回避するための医療手順が組まれているにもかかわらず、あらゆる種類のミスが意図せず発生し存在してしまうのです。」コンピュータサイエンスの教授であり、「人間中心のAI研究所」 (HAI、Stanford Human-Centered AI Institute) の共同ディレクターであるリー氏は、2021年11月に開催されたNVIDIA GTCでの講演でこのように語りました。「人間は、人間のままなのです。」
リー氏は、ヘルスケア空間にスマート センサーや機械学習アルゴリズムを導入することで、医療ミスを削減し、よりよい患者ケアを提供することができると述べています。
「(取得したセンサーデータから) 私たちが感じ取ることを活用できなければなりません。そこで機械学習やディープラーニングのアルゴリズムを導入すれば、感知したデータを患者の安全を守る非常に重要な医学的洞察へと変換することができるのです。」
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センサー ソリューションが臨床医へ環境知能を提供
リー氏がヘルスケアのためのAIに興味を持ったのは、10年前に病気の親の介護をしていたときのことでした。
「ICUや病室で過ごす時間、さらには病気の家族の世話をしながら自宅で過ごす時間が増えるほど、自動運転技術とヘルスケア提供との類似性が見えてくるようになりました。」
リー氏は、 英科学誌ネイチャーの論文で、病院と家庭の両場面を網羅する、センサーを用いた「環境知能 (ambient intelligence)」のビジョンの概要を説明しています。論文の内容は、手術室のみならず慢性疾患患者の日常生活の場においてヒントを与えるものとなっています。
例えば、ICU患者の回復には、ある程度の体の動きが必要です。患者が適切な運動量を確保できているかを確認するために、患者の動きを自動識別し、クリティカル ケアを受ける患者の運動レベルを把握できるスマートセンサー システムが研究者たちによって開発されています。
別のプロジェクトでは、深度センサーと畳み込みニューラルネットワークを用いて、臨床医が病室への入退室時に手指消毒剤を適切に使用しているかどうかの評価をおこないました。
病院の外では、世界的に高齢化が進むなか、ウェアラブル センサーで、移動性、睡眠、服薬の遵守状況などをモニタリングすることで、高齢者が健康的に年齢を重ねていけるようにサポートできます。
次なる課題は、コンピューター ビジョンを進化させ、より複雑な人間の動きを区別することだとリー氏は述べています。
「歩く、眠る、といった大まかな活動で満足するわけにはいきません。臨床的な観点で重要なのは、患者の細かい活動なのです。」
患者と介護者のプライバシー保護
リー氏は、スマート ホスピタル テクノロジを設計する際、開発者が患者、臨床医、介護者のプライバシーとセキュリティを優先することが重要だと述べています。
「コンピューター ビジョンの観点から、人間の信号情報に関しては、ぼかしやマスキングを入れることがますます重要になってきています。このような方法は、意図しない個人情報や個人のアイデンティティの流出を防ぐ上で非常に重要です。」
リー氏は、データ プライバシーの分野では、機密情報を保護するにあたり、連合学習 (Federated Learning) も有望なソリューションであると述べています。
同氏はさらに、ヘルスケア用AI開発の全過程において、患者、臨床医、生命倫理学者、政府機関などを巻き込んだマルチステークホルダー アプローチを開発者が導入するべきだとの考えを示しています。
「結局のところ、ヘルスケアとは人間が人間をケアすることです。このテクノロジは、介護者や家族、看護師や医師に取って代わるものではありません。人間の能力の拡張、強化をおこない、患者が尊厳を取り戻すためのものです。」
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