自律動作マシンの開発者やエンジニアに向けたコンテンツを提供するNVIDIA Jetson Channelでは、製品や業界情報をお届けするほか、Jetsonを活用するゲストをお招きしたインタビューシリーズも好評を博しています。最新のエピソードではトヨタ技術会のメンバーをゲストに迎え、同技術会が開催し、約400名の会員が参加したラジコンカーコンテストの取り組みをご紹介しています。
AIやプログラミングのスキルアップを支援する人気企画
トヨタ技術会は、技術分野の発展に寄与することを目的とした、トヨタ自動車株式会社の有志技術団体です。1974年に発足し、会員数は約27,000名にのぼります。この団体では、プログラミングをはじめ、画像認識やAIといった技術を楽しく学ぶことを狙いとし、「自動運転ミニカーバトル」と称したイベントを2019年から毎年開催しています。
イベントはプログラミング部門と無制限部門の2部門制であり、プログラミング部門はトヨタ技術会オリジナルの超音波センサーを用いた自律走行マシン、無制限部門は参加者がレギュレーション内で自由に制作したマシンで規定コースでのタイムを競います。
「自動運転ミニカーバトル」は6月に参加者が決まり、講習会や走行練習を経て、予選を勝ち抜いたチームが10月の本戦に進みます。約半年もの期間で参加者のスキルアップをサポートするため、プログラミングや機械学習、ディープラーニングに関する講習会が定期的に開催されます。
イベントの規模は毎年拡大しており、2021年度は過去最多の計126チーム(約430名)が参加しています。このうち、予選を勝ち進んだ27チームが10月末に愛知で行われたレース本戦に出場しました。2021年度はタイムアタック制で上位勝ち抜けとし、準決勝よりバトル形式で対戦するルールが設定されました。トヨタ技術会会員の他に、特別ゲストとして社外からは株式会社タミヤ、株式会社FABOからのチームも参戦し、その高いスキルで無制限部門の戦いを盛り上げました。
無制限部門で活躍したJetRacer
無制限部門で多くのチームが活用したのが、NVIDIAがオープンソースで公開するロボットカーのリファレンスモデル、JetRacerです。そのため、本戦前の特別プログラムとして、NVIDIA本社でJetsonのテクニカル プロダクト マーケティングを担当し、JetRacerの開発にも携わった矢戸知得が参加者に向けてオンラインで講演を行いました。JetRacerの誕生秘話や、速く走行するため試行錯誤した経験等を紹介したほか、参加者との質疑応答を通じて、参加者たちにエールを送りました。
2020年度の「自動運転ミニカーバトル」の優勝者であり、2021年度も本戦で大健闘したトヨタ技術会の田中 裕貴氏もJetRacerを採用しています。その理由として、導入の手軽さや学習のしやすさ、カスタマイズ性などを挙げました。「チームメンバーの中には、まず回路のつなぎ方から学ぶ人もいましたが、組み立て方からソフト準備、動作チェックなどはNVIDIAのGithubで公開されているので、それを読みながら日々進めることができます。JetRacerは、NVIDIA Jetsonという非常に強力なコンピューターを搭載しているので、撮影した画像から自分でアノテーションを作成し、Jetson上で学習させ、どこにもデータを移動せずにそのまま推論して走らせることができます。その手軽さが何よりもの魅力です。与えられた画像に対する最適なステアリング値を学習するので、ラジコン操作が下手でも速く走れるようになるのも大きなポイントでした。実際、私の場合はJetRacerの走行タイムは手動での走行タイムより圧倒的に速い結果となりました。」
田中氏のチームのほか、無制限部門では上位に入賞した5チームのうち、4チームがJetRacerを活用したロボカーで、白熱した戦いを繰り広げました。
コースにあわせてマシンのハード、ソフトを最適化
走行コースは2部門のどちらも、缶を壁材にして制作され、ショートカット部には色の異なる缶を設ける等、細かな細工が施されています。田中氏は2021年度のコースの特長を踏まえたうえで、ハード、ソフト共に2020年度よりパワーアップを目指しました。Jetson NanoからJetson Xavier NXにバージョンアップすることで自己位置推定とディープラーニングによるステアリングを共存させたほか、大幅な学習速度のアップを実現しています。また、Formula E用のシャーシを採用し、急なUターンを攻略するなどの工夫もこらしました。
ソフトウェアとしては、入力カメラでコースの写真を数回に分けて約1,250枚撮影し、Jetson内で学習させ、Resnet18の学習モデルを作成することでステアリング値として出力します。また、トラッキングカメラによる位置情報の入力により、コースの場所にあわせて複数の速度セットも用意し、ステアリング値に合わせてスロットル値を設定しました。何時間も走行させながら転移学習を重ね、さらに速度セットの調整も繰り返すことで走行タイムを縮めていくことに成功しました。
田中氏はイベントを振り返り、以下のようにコメントしています。「AIカーの制作を通じて、AIがどういうものかを実感しながら学んでいくことができます。特にJetRacerだと自分で学習データを用意し、学習させ、その結果をすぐに目の前で見ることができるので、どのようなノイズがあるとダメで、どのように学習データを作ればいいかというのがどんどんわかるようになります。学びにつながり、実際、去年参加したメンバーでは仕事に活用しているメンバーもいました。また、イベントを通じて社外の方含め、技術者の輪が広がりました。」
2021年度の「自動運転ミニカーバトル」企画委員である前田 秀旭 氏は、以下のように述べています。「参加者からは、プログラミングやAIを学び、実装する経験ができて本当によかったという声が寄せられました。学んだ知識を業務改善や新しい業務のチャレンジに活かしている方も多いようです。AIを学習するコミュニティは数多くありますが、今回のような企画と運営がひとつの参考になり、業界がどんどん盛り上がりを見せるとうれしいです」
「自動運転ミニカーバトル」の様子や結果の詳細は、ぜひJetson Channelでご覧ください。