編集部注: 本稿は、2017 年の NVIDIA グローバル インパクト アワードの最終候補 5 組のプロフィールを紹介する記事の 1 つです。このアワードでは、社会的な問題、人道的な問題、環境問題に対処するための革新的な研究を NVIDIA の技術を利用して行った研究者に、賞金 15 万ドルを授与します。
1 世紀以上にわたり、病理医は染色された組織スライドを顕微鏡で調べることでがんを診断してきました。しかし、エイミット・セチ (Amit Sethi) 氏はそろそろ手法を変えるべきだと考えています。
インド工科大学グワハティ校 (Indian Institute of Technology (IIT) Guwahati) の教授であるセチ氏は、人間の専門家をサポートする「AI 病理医」の開発を進めています。これにより、最も多く見られるがんの種類のうち、女性特有の乳がんと男性特有の前立腺がんの 2 種類に対する、より正確な診断と効果的な治療につながることが期待されています。
「患者がそれぞれに適した治療を受けられるようにしたいのです」と、同氏は言います。
この研究によって、セチ氏と IIT グワハティ校の研究者チームは、2017 年の NVIDIA グローバル インパクト アワードの最終候補 5 組の 1 つに選ばれました。NVIDIA は毎年、社会的な問題、人道的な問題、環境問題に対処するための革新的な研究を NVIDIA の技術を利用して行った研究者に、賞金総額 15 万ドルを授与しています。
AI が専門家に匹敵する診断を下す
病理医の診断はがん治療を決めるうえで不可欠な要素ですが、非常に主観的で時間のかかるものでもあります。
セチ氏は次のように説明します。「私たちの目標は、病理医が 1 人で診断するよりも的確な結論を導き出せるようにすることです。通常、病理医が数人いれば、正しい判断が下せるようになりますから。」
同氏は、GPU アクセラレーテッド ディープラーニングを利用して、2 種類の最も進行の速い乳がんと関係するパターンのスライドを分析するアルゴリズムを開発しました。そのうち 1 種類に対するテストでは、同氏の AI 病理医が 90% の確率で専門家集団と同意見を示しました。
次に、同氏は、患者を救うための取り組みにその AI 病理医を採用しました。
乳がんを克服せよ
多くの場合、乳がんにかかった患者は同一の腫瘍内に複数の種類のがんを抱えているにもかかわらず、通常、病理医の報告では最大の要因と思われる種類しか特定されていないと、セチ氏は指摘します。また、その理由として、1 つの腫瘍内に複数の種類のがんが存在する可能性があるという考えが比較的最近のものであることを挙げています。
たとえ、医師が腫瘍細胞のゲノミクスを分析しても、腫瘍全体ではなくいくつかの組織サンプルを調べるだけにすぎないので、複数の種類のがんが存在する兆候を見逃す恐れがあります。
「治療後にがんが再発した場合、その多くは処置されなかったがん細胞によるものです」と、セチ氏は言います。
たとえば、進行の速い種類の HER2 陽性がんにかかった患者の 4 分の 1 にはハーセプチン (その治療に最も一般的に用いられる薬剤) が効きません。これはたいていの場合、「トリプルネガティブ」と呼ばれるもう 1 つの種類の進行の速いがんが腫瘍内に存在するために、エストロゲン、プロゲステロン、HER2 タンパクの受容体が欠乏するからです。この種類の異なる 2 つのがんには異なる治療が必要になります。
セチ氏とそのチームは、HER2 陽性がんとトリプルネガティブがんの存在を示す染色された組織スライド画像内のパターンを発見するために、NVIDIA の GPU とディープラーニングを利用することにしました。組織のパッチごとの確度は、HER2 陽性に対して 84%、トリプルネガティブに対して 91% でしたが、患者の組織サンプルをすべて組み合わせた場合には 100% の確度を達成しました。重要なのは、このアルゴリズムが両方の種類のがんを同一の腫瘍内に見つけることもできたという点です。
セチ氏は次のように述べています。「これらの患者を特定できれば、より良い治療を提供できるようになります。」
がんの再発を見極める
Prostate Cancer Foundation によると、前立腺がんの治療を受けた男性のおよそ 20 ~ 30% で、がんが再発します。男性が前立腺の除去手術を受けた場合でも、患者の 6 人に 1 人以上が再発に苦しんでいる、とセチ氏は言います。しかし、がんが再発するかどうかを予測するための検査は常に正確とは限りません。
セチ氏はその問題を克服することを目指しています。そこで同氏は、NVIDIA の Tesla GPU アクセラレーターを採用し、染色された組織画像に基づいて再発の可能性の低いがんから再発の可能性の高いがんを見分けられるようにニューラル ネットワークにトレーニングを行いました。これによって、医師がより効果的に前立腺がんを治療できるようになることが期待されています。
セチ氏は、次のように説明します。「がんが再発する可能性が高いことを医師が知っていれば、積極的に化学療法や放射線治療によって治療することができるでしょう。一方、再発するリスクが低い場合、私たちはそれらの治療を患者に施したいとは思いません。」
2017 年のグローバル インパクト アワードの受賞者は、5 月 8 ~ 11 日にシリコンバレーで開催される GPU テクノロジ カンファレンスで発表されます。カンファレンスへの登録は、GTC 登録ページで行うことができます。
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