米国屈指のがんセンターの科学者たちがAIの力を活用し、データへのアプローチを再構築
真の洞察をデータから引き出すためには、AIとデータサイエンスの研究は組織の外にあるべきではありません。組織のコア戦略の一部となるべきものです。
米国のトップランクのがんセンターであるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターは、まさにこれを実行中です。データ ガバナンスに新たな焦点を当てており、数十人の研究者が AIによって高速化された腫瘍学プロジェクトを推進し、患者のケアの改善を追求しています。
「私たちはコンテキストの中でのデータに焦点を当てています。調整されたメタデータ サプライチェーンを確保して、臨床現場で真価を発揮するAIモデルを構築するための現在の課題に対処しています」と語るのは、 MDアンダーソンの最初のチーフデータ役員に最近任命されたキャロライン チョン (Caroline Chung) 博士です。「より優れた、より堅牢な予測モデルを構築するには、データ生成から機械学習の洞察の臨床使用までのあらゆる段階を網羅する、統合された戦略が必要です」。
このデータ ガバナンス戦略は、洞察を生成するための病院データの収集と利用方法に影響を与え、データの検索性、アクセス性、相互運用性、再利用性を可能にします。チョン博士は、MDアンダーソンの最高技術責任者 兼 デジタル オフィサーであるデビット ジャフレイ (David Jaffray) 博士と共同執筆した『Cancer Research』に最近掲載された記事の中で、AIのメタデータ サプライチェーンの重要性について考察しています。
「それは大きなカルチャー チェンジです」とチョン博士は言います。 「コンテキスト情報を含むデータをより多く取得できるほど、より複雑な質問をすることが可能になります。また、機械学習の洞察を使用して、臨床医が患者とのやり取りを改善し、ケアの目標に沿った最良の患者の転帰を伴うデータ主導の治療決定を導くのに役立つ可能性が高くなります」。
研究者が必要とする高品質のデータを収集し、安全に保管し、その使用状況を追跡するパイプラインを構築することで、MDアンダーソンは臨床医が放射線データを分析し、がん治療を提供し、敗血症などの合併症を予測するのに役立つプロジェクトをより適切にサポートすることを目指しています。
これらのプロジェクトの多くはすでに進行中であり、NVIDIA DGX システムなど、GPUを利用した新たなテクノロジによって加速されています。MDアンダーソンによる新たな投資により、研究者は何千基もの追加のGPUコアにアクセスし、センター全体のAIプロジェクトをサポートできるようになります。
画像診断へのAIの応用
腫瘍学の最初のステップは腫瘍を検出することであり、早いほど効果的です。MDアンダーソンでは、5年生存率がわずか10%の膵臓がんの患者を診断するのに貢献する、早期検出AIアプリケーションを開発しています。
「膵臓がんは他の臓器へ転移後に診断されることがよくあります」と語るのは、MDアンダーソンの消化管放射線腫瘍学の共同ディレクターであるユージン コアイ (Eugene Koay) 博士です。「私たちは、患者の診察予約が膵臓に関連しているかどうかにかかわらず、CTスキャン、MRI検査、または超音波内視鏡検査で膵臓が写るたびに、膵臓を分析する AI モデルを作成しています」。
すべての膵臓腫瘍が同じというわけではありません。進行が遅いものもあれば、急性もあります。膵臓の嚢胞に由来するものもあれば、そうでないものもあります。
コアイと彼のチームは、Early Detection Research Network (早期発見研究ネットワーク) と協力して、どの症例が悪性がんに発展する可能性が最も高いかを特定する畳み込みニューラルネットワークに取り組んでおり、臨床医がリスクのある患者をより適切にサポートできるようにしています。
洞察の画像化による治療計画への情報提供
がん細胞を治療するための放射線療法を準備する際に、腫瘍医は放射線治療の対象となる腫瘍を追跡するためにコンツーリング (輪郭作成) という作業を行います。
これは時間のかかる作業であり、腫瘍医は患者用に作成する放射線治療計画の残務をためていることがよくあります。 MDアンダーソンの放射線物理学准教授であるローレンス コート (Laurence Court) 博士は、AIツールを使用して手動でのコンツーリングの負担を軽減することで、病院が毎年治療できる患者を数千人以上増やしたいと考えています。
特に彼は、これらのAI臨床ツールが、放射線科医と腫瘍医の不足により、命を救う放射線治療の提供が困難なリソースの少ない環境に与える影響に期待しています。
コンツーリングは、MRI支援放射線手術の計画にも使用されます。これは、埋め込んだ線源を介して放射線をがん組織に照射する、高度な小線源治療です。MDアンダーソン放射線腫瘍医のスティーブン フランク (Steven Frank) 博士は、この治療法を使用して前立腺がんを治療しています。
MRIでの前立腺と周囲の臓器の正確なコンツーリングにより、放射線線源が適切な領域に送られ、隣接する組織に害を与えることなくがんを治療できます。
「GPUテクノロジの進歩を利用したAIモデルを採用することで、MDアンダーソンの腫瘍医は近接照射療法の治療計画と治療の質を評価するためのコンツーリングの質を改善しました」と語るのは、フランクのラボで翻訳AIを開発しているMDアンダーソンの医用画像物理学フェロー、ジェレミア サンダース (Jeremiah Sanders) 博士です。
サンダースとフランクは、近接照射療法の手順の後に使用するモデルにも取り組んでいます。前立腺のMRI検査を分析して放射線照射の質を判断するAIアプリケーションです。このモデルからの洞察は、臨床医が追加の治療が必要かどうか、そして治療後の患者を管理する方法を決定するのに役立ちます。
AIモデル精度の維持
AIモデルが臨床現場で成功するためには、医療研究者がニューラル ネットワークが苦戦しているケースを把握し、アプリケーションのパフォーマンスを向上させるため再トレーニングする必要があります。
MDアンダーソンの画像物理学および放射線物理学の教授であるクリスティ ブロック (Kristy Brock) 博士は、異常を検出するプロジェクトに取り組んでおり、CTスキャンから肝腫瘍のコンツーリングを行う AI モデルが失敗するケースを特定しようとしています。たとえば、患者が肝臓や臓器周辺の体液にステントを入れている稀なケースの画像などです。
これらの稀な失敗を特定することにより、研究者はニューラル ネットワークが過去につまずいたケースに近いトレーニング サンプルを追加で導入できます。この継続的なトレーニング方法は、トレーニング データを選択的に強化して、モデルのパフォーマンスをより効率的に向上させます。
「最初の150回のスキャンと同じように見えるデータを収集し続けたくありません」とブロック氏は言います。「サンプル データセットの変動性を高めるケースを特定し、モデルの精度と汎用性を高めたいと考えています」。
MDアンダーソンは、医学研究と患者ケアを改善するためにAIを採用している主要な医療機関の1つです。11月11日までオンラインで開催されているNVIDIA GTCで、ヘルスケアにおけるAIの詳細をご覧ください。
11月10日(水)午前3時30分 (日本時間) に、NVIDIAのヘルスケア担当バイス プレジデントであるキンバリーパウエルによるヘルスケアの特別講演が予定されています。 NVIDIAの創業者/CEOであるジェンスン フアンの基調講演は11月9日にストリーミングされ、リプレイでも視聴可能です。NVIDIAのヘルスケア関連のニュースレターはこちらから購読いただけます。