アクセラレーテッド コンピューティングとは?

投稿者: Rick Merritt

アクセラレーテッド コンピューティングは、並列処理によってAI、データ分析、シミュレーション、ビジュアライゼーションなどの要求の厳しいアプリケーションの処理を高速化

アクセラレーテッド コンピューティングは、人々が自宅で静かな夜を過ごしているときも、よりよい暮らしを実現するために人知れず働いています。

動画配信サービスで映画を購入する際に、クレジット カードの不正使用を未然に防ぎます。また、あなたが気に入りそうな夕食を紹介してくれたり、素早い配達を手配してくれたりします。もしかすると、映画監督が見事な映像でアカデミー賞を受賞する力になっているかもしれません。

アクセラレーテッド コンピューティングとは?

アクセラレーテッド コンピューティングとは、専用ハードウェアを使用して作業を大幅に高速化するものであり、多くの場合は頻繁に発生するタスクをまとめて並列処理を行います。また、通常は逐次処理を実行するプロセッサである CPU をダウンさせる可能性がある要求の厳しい処理の負荷を軽減します。

PC の世界で生まれたアクセラレーテッド コンピューティングは、スーパーコンピューターの分野で成熟してきましたが、現在ではスマートフォンやあらゆるクラウド サービスにも生かされています。そして今、データを活用してビジネスを変革するために、この技術をあらゆる業種の企業が採用しています。

アクセラレーテッド コンピューターは、CPU と他のプロセッサを対等に組み合わせたアーキテクチャで、ヘテロジニアス コンピューティングと呼ばれることもあります。

アクセラレーテッド コンピューター: その中身とは?

GPU は、最も広く使用されているアクセラレータです。DPU (データ プロセッシング ユニット) は、ネットワーキングの強化や高速化を実現するものとして急速に普及しています。どちらもホスト CPU と共に役割を果たし、バランスのとれた統合システムを実現します。

アクセラレーテッド コンピューターは、CPU のみのシステムに比べて全体的なコスト削減、パフォーマンス向上、エネルギー効率化が可能です。

現在、商用システムと技術システムのどちらも、機械学習データ分析、シミュレーション、ビジュアライゼーションなどのジョブに対応するために、アクセラレーテッド コンピューティングが採用されています。アクセラレーテッド コンピューティングは、高いパフォーマンスとエネルギー効率を実現する最新のコンピューティング スタイルです。

PC によってアクセラレーテッド コンピューティングが普及した経緯

ホスト CPU の処理を高速化するために、古くからコプロセッサと呼ばれる専用ハードウェアがコンピューターに搭載されていました。最初に注目されるようになったのは、PC に高度な演算能力を追加する浮動小数点プロセッサが登場した1980 年頃でした。

その後の 10 年間でビデオ ゲームやグラフィカル ユーザー インターフェースが台頭し、グラフィックス アクセラレータの需要が高まりました。1993 年の時点で、約 50 社の企業がグラフィックス チップやグラフィックス カードを製造していました。

1999 年、NVIDIA は 3D 画像レンダリングの主要タスクを CPU からオフロードする初めてのチップとして、GeForce 256 を発売しました。これは、4 本のグラフィックス パイプラインを使って並列処理を行う初めてのチップでもありました。

NVIDIA はこれをGPU(グラフィックス プロセッシング ユニット)と呼び、新しいカテゴリのコンピューター アクセラレータとしての地位を確立しました。

研究者が並列処理を利用した経緯

2006 年、NVIDIA は GPU 出荷数 5 億個を達成し、わずか 3 社になったグラフィックス ベンダーのトップに立つと共に、次の大きな流れを予見していました。

一部の研究者は、CPU の力の及ばないタスクに GPU の力を応用するために、独自コードの開発をすでに行っていました。例えば、イアン バック (Ian Buck) 率いるスタンフォード大学のチームは、一般的な C 言語を並列処理に対応できるように拡張するプログラミング モデルとして「Brook」 を公開し、初めて広く採用されました。

バックは NVIDIA でインターンとして働き始め、現在はアクセラレーテッド コンピューティング担当バイス プレジデントを務めています。2006 年には、GPU 内部の並列処理エンジンをあらゆるタスクに活用するためのプログラミング モデルである 「CUDA」 の立ち上げを指揮しました。

2007 年、G80 プロセッサと CUDA を組み合わせた新しい NVIDIA GPU ラインが誕生し、幅広い産業用途や科学技術用途にアクセラレーテッド コンピューティングをもたらしました。

HPC + GPU = アクセラレーテッド サイエンス

このデータセンター向けの GPU ファミリーは、Tesla から Fermi、Kepler、Maxwell、Pascal、Volta、Turing、Ampere まで、革新者にちなんで名付けられた最新アーキテクチャを次々と発表し、一定の周期で拡大してきました。

1990 年代のグラフィックス アクセラレータと同様に、これらの GPU にも Inmos のトランスピュータといった新規の並列プロセッサなど、多くの競合製品が存在していました。

「しかし、生き残ったのは GPU だけでした。他の競合製品にはソフトウェア エコシステムがなく、それが致命傷でした」と、Tirias Research のアナリストであるケビン クレウェル (Kevin Krewell) 氏は解説します。

世界中のハイパフォーマンス コンピューティングの専門家が、科学を切り開くために GPU を搭載したアクセラレーテッド HPC システムを構築しました。今や、その研究分野はブラックホールの天体物理学からゲノム配列の解析にまで様々な分野に及んでいます。

InfiniBand がアクセラレーテッド ネットワークを促進

スーパーコンピューターの多くは、GPU の大規模分散ネットワークを構築するのに最適な低遅延の高速リンクとして、InfiniBand を使用しています。アクセラレーテッド ネットワーキングの重要性を認識した NVIDIA は、2020 年 4 月に InfiniBand のパイオニアである Mellanox を買収しました。

そのわずか 6 カ月後、NVIDIA は新たなレベルのセキュリティ、ストレージ、およびネットワーク アクセラレーションを定義するデータ プロセッサである DPU を発表しました。BlueField DPU のロードマップは、すでにスーパーコンピューター、クラウド サービス、OEM システム、サードパーティー ソフトウェアの分野で注目を集めています。

2021 年 6 月に発表されたスーパーコンピューターの性能ランキング「TOP500」では、342 システムが NVIDIA のテクノロジを使用しており、しかも新規システム全体の 70%、上位 10 システム中 8 システムまでを占めています。

NVIDIA の Selene は、2021 年 6 月の TOP500 リストで 6 位にランクされたアクセラレーテッド コンピューターです。

これまでに、CUDA エコシステムは 700 を超える高速化アプリケーションを生み出し、創薬、災害対応、さらには火星探査計画といった大きな課題に取り組んでいます。

その一方で、アクセラレーテッド コンピューティングは、グラフィックスにおけるさらなる大きな飛躍も実現しました。2018 年、NVIDIA の Turing アーキテクチャを搭載した GeForce RTX GPU は、ビジュアル テクノロジの究極の目標であるレイトレーシングを初めて実現し、ゲームやシミュレーションに迫真のリアリズムを与えました。

AI はアクセラレーテッド コンピューティングのキラー アプリ

2012 年、テクノロジ業界にビッグバンが起き、これまでにない強力な形のコンピューティングが到来しました。それが AI です。

AI の内部は、並列処理ジョブです。そのため、ディープラーニングの黎明期から、研究者やクラウドサービス プロバイダーは GPU アクセラレーテッド コンピューターを使って、ニューラルネットワークのトレーニングや実行を行ってきました。

あらゆる業種の主要企業が、アクセラレーテッド コンピューターにおける AI の重要性にすぐに気付きました。

いつの日か、すべての企業がデータ企業になり、すべてのサーバーがアクセラレーテッド コンピューターになる時代が来るでしょう。

それは、VMware や Red Hat など、アクセラレーテッド コンピューティングに合わせた製品開発を行っている主流の IT ソフトウェア企業のリーダーが共有するビジョンです。すでに、システム メーカーはあらゆる企業がすぐに使えるアクセラレーテッド コンピューターである NVIDIA-Certified Systemsを数多く提供しています。

NVIDIA-Certified Systems は、企業がアクセラレーテッド コンピューティングへの道のりを歩むための手段となります。NVIDIA は、お客様が始めやすくために、NVIDIA AI EnterpriseBase CommandFleet Command、既製アクセラレーテッド アプリケーションなどの製品からなるフル スタック ソリューションを NGC カタログで上で提供しています。

エネルギー効率に優れた未来

ジョン ヘネシー (John Hennessey) 氏やデイビッド パターソン (David Patterson) 氏などのコンピューティング界のベテランは、アクセラレーテッド コンピューティングは「進むべき唯一の道である」と言っています。彼らは、コンピューティング界のノーベル賞と言われるチューリング賞の 2017 年受賞記念講演の中で、「Domain-Specific Architectures」(領域特化型アーキテクチャ)への移行と述べました。

そのアプローチが未来を表す大きな理由はエネルギー効率にあります。例えば、GPU は AI 推論において CPU の42 倍のエネルギー効率を発揮します。

実際、世界中で稼働している CPU のみの AI サーバーをすべて GPU アクセラレーテッド システムに切り替えた場合、毎年 10 兆ワット時ものエネルギーを節約することができます。これは、140 万世帯の一般家庭が 1 年間に消費するエネルギーを節約するようなものです。

アクセラレーテッド コンピューティングの専門家は、すでにそうした恩恵を受けています。

スーパーコンピューターの省エネ性能ランキング「Green500」では、上位 40 システム中 35 システムが NVIDIA のテクノロジで動作しており、しかも上位 10 システム中 9 システムまでを占めています。加えて、NVIDIA GPU を使用しているスーパーコンピューターは、そうでないものに比べて 3.5 倍もエネルギー効率に優れています。この傾向は一貫して高まっています。

詳しくは、GTC でのアクセラレーテッド コンピューティングに関する講演のハイライトや、以下のエンタープライズ アクセラレーテッド コンピューティングに関するビデオをご覧ください。