グローバル・インパクト: ハイチの地震を機に生まれた、GPUによる構造安全性の新たなマッピング方法

投稿者: Tonie Hansen

編集部注: 本稿は、2016年のNVIDIAグローバル・インパクト・アワードの最終候補5組のプロフィールを紹介する記事の1つです。このアワードでは、社会的な問題、人道的な問題、環境問題に対処するための革新的な研究をNVIDIAの技術を利用して行った研究者に、賞金$150,000を授与します。 

2010年にハイチで起きた壊滅的な地震では、首都のすべての病院、すべての交通システム、すべての主要通信システムなど、災害対応に不可欠なインフラの多くが崩壊しました。

橋、病院、住居の損傷度を評価するため地震の直後に現地入りした構造工学技術者のデビッド・ラッタンジ(David Lattanzi)氏は、これに大きな衝撃を受けました。より速やかな検査により、重要な施設の安全性に関する意思決定もより速やかに行えることに気付いた同氏は、高性能コンピューティングを使用した新たなアプローチを開発しました。

米国バージニア州フェアファックスのジョージ・メイソン大学助教授であるラッタンジ氏は、次のように述べています。「災害後の検査に時間がかかればかかるほど、人々が家や仕事に戻れるまでの時間も長引きます。病院は運営できず、基本的なサービスも機能しません。これは社会的にも経済的にも多大なコストとなります」


橋を検査するドローン、ジョージ・メイソン大学

ラッタンジ氏は、ドローンなどのロボットによる検査システムを使用し、定期的な、また災害後の安全性評価のため、土木構造物の仮想3Dモデルを作成しています。

この取り組みにより、ラッタンジ氏と彼のチームは、2016年のNVIDIAグローバル・インパクト・アワードの最終候補5組の1つに選ばれました。NVIDIAは、社会的な問題、人道的な問題、環境問題に対処するための革新的な研究をNVIDIAの技術を利用して行った研究者に、賞金$150,000を授与しています。

位置合わせの評価

ラッタンジ氏の視野を広げるきっかけとなったのはハイチでしたが、構造が元の位置からどれだけ移動したかなど、評価の際に技術者が直面する最大の問題への対処に焦点を絞る決断をするのに役立ったのは、高性能コンピューティングです。

ラッタンジ氏は次のように述べています。「私たちが探す損傷の範囲は非常に小さい場合があり、そうしたものを見つけるための大量データの処理は容易なことではありません。GPUを使用しない限り、計算はとても不可能です」

SFM(Structure-from-Motion)と呼ばれる、マッピングや調査のための、写真ベースの従来の方式による大きな構造物の3D再構成では、分析に必要な解像度が得られない場合があります。ラッタンジ氏のチームでは、従来の方法の原理を採用しつつ、ドローンで撮ったデジタル画像からキャプチャした3D構築にそれを応用しました。

欠点があるとすれば、それは、無人ロボットによって生成される、巨大かつ圧倒的な量のデータセットです。長さ100メートルの橋の評価には、10,000枚もの高解像度画像が必要になることもあります。

重要な詳細のキャプチャ

細部の詳細をキャプチャするため、ラッタンジ氏のチームでは、ドローンの画像から「クラウド・ポイント」を集め、それをマージして最終モデルにする方法を開発しました。

高解像度での検査には、何十億ものクラウド・ポイントを使用したモデルが必要なため、チームは、階層ポイント・クラウド生成(Hierarchical Point Cloud Generation: HPCG)を考案し、構造の全体的な形状を表しつつ、正確なスケールで詳細を再現しました。HPCGにより、技術者は、100倍改善された解像度により、極小な細部に焦点を絞り、構造の損傷度と位置合わせを評価できます。

ドローンのフライトごとに、一連の画像キャプチャ「ネットワーク」が構築されました。フライト計画ごとに、構造は、全体的な形状も含め、異なるスケールで画像化されます。個々のフライトで、広い範囲の画像だけでなく、より小さく重要な詳細もキャプチャされます。ドローンが実際に橋を調査する様子をご覧ください。

高性能ハードウェア

大量のデータを処理するため、チームが大いに頼ったのは、NVIDIA TeslaアクセラレータによるGPUアクセラレーションです。演算を10倍も高速にしたこのGPU高速化なしでは、1つの建物や橋の3Dモデルの構築に何週間もかかるでしょう。


フル・ポイント・クラウド・モデルによるアラスカの橋、
ジョージ・メイソン大学

チームは昨年アラスカで、米国林野局のために橋の検査を行いましたが、ドローンを用いたこの検査で、自分たちのプロセスをテストしました。ドローンの正確なパイロット操作により、人を危険にさらすことなく、データを効率よくキャプチャできました。「結果は驚くべきものでした」とラッタンジ氏は語っています。

彼のチームでは、最終モデルでの視覚化において、NVIDIA QuadroとGeForceのカードも使用しています。一般に、モデルのサイズが10億クラウド・ポイントを超すと、高性能ハードウェアが必要になります。

GPUアクセラレーションによって全体的な評価プロセスがより実用的になる中、パイプライン管理や、空港管理、土地の測量といった場面で、安全かつ低コストな評価ツールとして利用することも可能となってきています。

2016年のグローバル・インパクト・アワードの受賞者は、4月4~7日にシリコンバレーで開催されるGPUテクノロジ・カンファレンスで発表されます。

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