Entos、NVIDIA の AIを活用した分子シミュレーションで新薬の発見と設計を変革

投稿者: Abraham Stern

NVIDIA Clara Discovery が、サンディエゴのスタートアップによる次世代治療法の開発に向けた新たな機械学習アプローチを可能に

「知識が多いほど、より多くの情報に基づいた予測が可能になる」—これは、カリフォルニア州サンディエゴを拠点とするスタートアップ Entos が、分子特性の予測を 1,000 倍加速することができる AI アプローチで、新薬の設計に革命的変化をもたらすために適用している指針です。

創薬が時間のかかるデータ集約的なプロセスであることはよく知られていますが、それは Entos の OrbNet アーキテクチャによって変わろうとしています。このアーキテクチャが分子創薬モデルのトレーニングを量子精度で行うのに必要なデータは、従来の 30 分の 1です。そして、有望な薬剤化合物の発見に要する実験回数が 100 分の 1 で済むようになります。つまり、従来の治療薬発見手法に伴う待ち時間や複雑さが解消されるということです。

AI やデータ サイエンス分野の先進技術を駆使して業界に革命をもたらそうとしているスタートアップを支援するプログラム、 NVIDIA Inception のメンバーである同社では、NVIDIA Clara Discovery を活用して研究を進めています。NVIDIA Clara Discoveryには、何十億個もの薬剤候補分子がいかに人間の体内で相互作用するかについて洞察を引き出すためにつくられた、最先端のフレームワーク、アプリケーション、事前トレーニング済みのモデルが含まれます。

「当社の物理ベースのアプローチでは、基礎をなす量子力学に関する性質をより多く機械学習モデルに採用しています」と、Entos の CEO であるトム ミラー (Tom Miller) 氏は説明します。「これにより、少ないデータでも予測精度を上げることができます」

Entos は、特定の種類のがんに関連するタンパク質を不活性化する作用が期待される薬物分子の割り出しに取り組んでいます。機械学習ワークフローに量子力学的な計算を取り入れることで、それらの標的タンパク質に結合する候補分子群の絞り込みを迅速化しています。

創薬プロセスに AI を導入

気候科学から創薬まで、分野を問わず、機械学習が科学者のアプローチの仕方に変革をもたらしています。今や AI と機械学習の融合が新たな科学手法へとつながり、創薬のあり方を変えるディープラーニングと物理学ベースのハイブリッド型シミュレーションを生み出しています。

創薬とは、研究者が分子やタンパク質の相互作用をシミュレートして適切な治療法を割り出すためにコンピューティング集中型の計算を行う、データ集約的なプロセスです。従来、このような形態の量子計算にはきわめて高いコストがかかるうえ、完了までに数週間から数か月を要してきました。

これらの計算実験では、AI とアクセラレーテッド コンピューティングを取り入れることで、研究者が薬剤とタンパク質の相互作用を量子精度でシミュレートできるようになるという恩恵があります。この手のシミュレーションは、従来の量子力学的な計算では計算コストが高すぎて実行できません。

そこで Entos は、独自の OrbNet 創薬ソフトウェアを NVIDIA DGX A100 Tensor コア GPU 上で最適化しました。Entos の CEO であるトム ミラー (Tom Miller) 氏と NVIDIA の機械学習リサーチ担当ディレクターであるアニマ アナンドクマー (Anima Anandkumar) によってカリフォルニア工科大学 (Caltech) で共同開発された OrbNet の AI モデルは、治療法の設計を加速させるロボットによる合成と高スループットの実験を可能にします。

「OrbNet では、原子間の相互作用を考慮した分野特有の機能に基づいて構築されたグラフ ニューラルネットワークを使用します。さらに、3 次元回転などの対称性も考慮しています」と、アナンドクマーは話します。「こうした設計上の考慮事項により、OrbNet  を 40 個未満の原子から成る小さな分子のみでトレーニングさせ、そのモデルを大きなタンパク質分子に高い精度で直接適用することが可能になりました」

ミラー氏は、NVIDIA のエキスパートと連携することで、同社の研究者チームが高スループットの実験を行い、「今後の研究に向けて新たな扉を開くことが可能になった」と述べています。

共有結合の可能性を開く

昨今の機械学習の発展が化学データベースのサイズとスケールを変え、研究者が有望な薬剤化合物をより広く探せるようになりつつあります。また、AI モデルにより、科学者が新たな方法で体内での酵素の無数の化学反応を研究できるようにもなっています。

これらの進歩により、以前の手法では調査できなかったまったく新しいクラスの薬物の研究が可能になっています。

たとえば有望な手法の 1 つに、標的タンパク質との共有結合を形成する薬物分子の開発があります。もし、標的タンパク質とだけと共有結合が形成できる治療法が実現すれば、患者に処方される薬の量が減って、副作用が軽くなることが期待されます。Entos の研究者チームは、この手法をがんや糖尿病、嚢胞性線維症などの疾病分野に応用する予定です。

Entos は、製薬、素材、化学といった業界のリーダー企業との提携を重ね、7 月には高い精度を備えた有益な治療法の開発に向けた同社の取り組みを支える資金として 5,300 万ドルを調達しました。同社は NVIDIA のヘルスケア チームとの積極的なコラボレーションにより、NVIDIA のハードウェア アーキテクチャ上で自社のアプリケーションを最適化する際の技術的リソースや支援を得ることができたと考えています。

NVIDIA GTC で公開された Entosその他 Inception スタートアップによるセッション、またNVIDIA のヘルスケア担当バイス プレジデントであるキンバリー パウエル (Kimberly Powell) のヘルスケアに関する特別講演をオンデマンドでぜひご視聴ください。