気鋭の映像企画制作会社が業界に先駆け次世代のリモート制作環境を導入
株式会社カラーは、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズを制作し、「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」などの制作にも関わった、映像企画制作会社です。映像制作業務は、その性格上、作業に関わる人員や必要なリソースの変動が激しいため、2019年より柔軟にリソースを変更できる新たなシステムの導入の検討を開始しました。翌2020年春に、新型コロナウイルスの流行が始まり、出社率を下げるように要請されたことで、画面転送型のリモート デスクトップ ソリューションを急遽導入し、大半の業務をリモートから行える環境を実現しました。
「コーポレート系の管理職については、問題はありませんでした。クリエイティブ職の方は、さらにモデラーとアニメーターに分けられますが、モデラーの方々もそんなに問題ありませんでした。シビアになるのは動きのあるアニメーションですね。だからアニメーションの方々に関しては会社に出社して作業をしてもらっていました。」とカラーで技術管理統括を務める鈴木慎之介氏は当時の様子を語りました。
画面転送型のリモートデスクトップソリューションの導入が一定の効果をあげたことで、鈴木氏と同社のシステム エンジニアの三澤一樹氏は、さまざまな職務の人が自由に働き方を選べるパフォーマンスの高いリモート基盤を導入したいと考えていました。リモートでの作業については、セキュリティの担保も重要だと、鈴木氏は語ります。「映像制作全般に言えることですが、上映前や情報解禁前の制作物の取り扱いというのはすごく慎重に考えています。漏れてしまってはとんでもないことになりますので。セキュリティに関しては力を入れて取り組んできました。」
そうした同社の要望に応えるためには、NVIDIAの仮想GPU (以下、NVIDIA vGPU) テクノロジを採用したVDI環境の構築が必要でした。鈴木氏は以前からVDIについて関心を持っていて、次のように語りました。「なぜ仮想デスクトップを選んだかというと、画面転送型のソリューションをどうしても使いたかったからです。我々は3DCGを取り扱っていますが、その3DCGを作るにはいろいろなソフトウェアが必要になります。会社で業務を行う際は、ライセンスは会社だけ持っていればよかったのですが、自宅や外出先でも作業を行うことになった場合、そのライセンスを拠点ごとに用意するのはとてもコストがかかります。それなら、画面転送で会社にある仮想デスクトップに対してリモート接続するソリューションのほうがコストパフォーマンス的にもよいと判断しました。」また、作業によってデスクトップ環境を分けたいという要望もあり、管理面でも仮想デスクトップは高い利便性がありました。
まず、提案されたシステムは、仮想化ソフトとしてVMware vSphereを採用し、サーバーにはNVIDIAのハイエンドGPUのNVIDIA A40を搭載、そしてNVIDIA vGPU と組み合わせることによりGPUメモリを仮想的に分割して、GPUコア性能は最大限効率的にシェアしながら、複数台の仮想デスクトップで仮想GPUを利用することが可能になりました。仮想デスクトップツールとしては、VMware Horizonを採用しました。A40を選んだ理由について、三澤氏は次のように語っています。「保守期間が5 年ありますので、その間性能が不足しないように、それに見合った性能のものを選びました。」
仮想基盤は、2021年末に導入が完了し、順次業務をVDI上に移行しています。「まずは、マシンスペックを必要としない管理マネージメント系、我々のシステム系が先行してVDIに移行しました。次に、Adobe Creative CloudなどもVDI上で利用を開始してクリエイティブな作業にも十分に使える感触を得ています。移行もスムーズに進んでいて、利用者からの反応も良好です。」と鈴木氏は話します。
今回のシステムの導入は、クリエイター、マネージメント、エンジニアのそれぞれにメリットがありましたが、中でも大きいのがエンジニア、管理者側のメリットだと二人は声を揃えています。「PCのキッティングが不要で、セキュリティも担保されており、リモート作業ができるということを考えると、我々管理者のコストを大幅に下げるという意味では最高のソリューションだと思います。」と鈴木氏は強調しました。
今後は、クリエイターもVDI上で作業を行うように順次移行を予定しています。クリエイターは、MayaやMax、Blenderなどのクリエイティブ ツールを使って業務を行いますが、こうしたツールは処理の負荷が高く、GPUによって高速化されます。カラーが導入したVDI環境には、NVIDIA vGPU テクノロジが採用されているため、こうしたクリエイティブ ツールが快適に動く環境を実現できます。カラーは、本システムの本格導入の前に試験的な導入を行い、クリエイティブ ツールの動作検証においても、十分満足できるパフォーマンスを得ることができました。
鈴木氏は今回実現したリモート制作環境の次の目標として、レンダリングを行うレンダーノードの統合と集約化、リモートでの共同作業を加速するクリエイティブ バーチャルワークスペースの実現の二つを挙げ、次のように語りました。「我々は映像を作る際にレンダリングを行いますので、その処理を行うレンダーノードを保有していますが、その数も変動させたいという要望があります。NVIDIAのソリューションとして、GPUを複数枚搭載したGPUレンダーサーバーがあると伺っております。GPUレンダーノードを統合し、今回採用したNVIDIA vGPUを活用して、時期によってはリソースを変動することも可能です。そして、今回のvGPUのVDI環境と一緒に利用すれば、リモートでデータを外部に出さずにより高速にレンダリングを行えるようになると思います。絵作りでは一度出してみて、それを見てまた直すということが多いので、時間短縮により制作期間中に何度もレンダリングを実行できる機会を増やせるということがとても重要です。それによってクリエイティブのクオリティが向上します。」
クリエイティブ バーチャルワークスペースとは、リモートで複数のクリエイターが同じ仮想空間に入り、リアルタイムで共同作業を行うというものであり、NVIDIA Omniverseを利用することでそうした環境が実現できます。
バーチャルワークスペースは様々な業界で使われるようになってきており、アニメ業界、映像制作業界でも注目を集めています。「アニメ業界、映像制作業界では、どういうイメージでこういったものが、使えるようになるのかとても興味がありますので、業界の人たちと一緒に推進していきたいですね。」と鈴木氏はその大きな可能性について最後に語りました。
カラーの取り組みに関する詳細はこちらをご覧ください。