アウディでは、VRテクノロジの急速な発展に後押しされ、自社の自動車販売アプローチの変革を進めています。
しかし、これまでの道のりは必ずしも平たんなものではありませんでした。
このドイツの自動車メーカーが4年前に小売の場でVRの取り組みを開始した当初は、不十分なフレームレートとレイテンシが原因で障害に何度もぶつかり、現実味のある体験を実現することができませんでした。
しかし現在、フレームレートが当初の毎秒50フレームから90フレームまで向上し、レイテンシが45ミリ秒からわずか20ミリ秒にまで低下したことで、ようやく(仮想)公道を走る準備が整いました。
アウディでは、VR体験の試験運用を間もなく開始する予定です。これにより、最高のエンジンを誇るR8クーペから、快適な居住空間を誇るQ7 SUVまで、購入者はアウディのあらゆる車種をまるでそこにあるかのように体験し、さまざまなオプションやカラーを組み合わせて確認できるようになります。また、同社は、年内にディーラーにもVRを展開する予定です。
アウディのデジタル・リテール・ソリューションズ・チームを率いるトーマス・ズックトリーゲル(Thomas Zuchtriegel)氏は、「お客様にとってディーラーへの訪問をより魅力的なものにすること」が同社の目標だと語ります。同氏は、先月開催されたGPUテクノロジ・カンファレンスで多くの参加者を集めたセッションに登壇しました。
ズックトリーゲル氏は、次のように続けます。「ディーラーにお越しいただくお客様にとって、その体験は感動的で楽しいものであるべきです」
それは、単に現実味のある画像を提供するというだけではありません。アウディのパートナーであるZeroLightがその可視化システムにGPUを採用したことで、アウディは、さらに希望どおりの改良を加えることができました。
たとえば、アウディは、最初に目標とするフレームレートとレイテンシを達成した後、潜在顧客が車両の下部構造を確認できるように、X線効果を取り入れたいと考えました。VRに必要な鮮明さを実現するには、車両を4回レンダリングしなければなりませんでしたが、ZeroLightは、フレームレートとレイテンシを維持しながらも、アウディの要求に応えることができました。
プロジェクト・リーダーのマーカス・クーン(Marcus Kuehne)氏は、次のように振り返ります。「しかし、自動車の隠れた構造を確認できるだけではだめでした。アウディの目指す体験は、それよりも一歩先を行くものだったのです」
「現実には不可能なことを視覚的に実現できれば、顧客を惹きつけることが可能になります」と、クーン氏は述べています。
近い将来、顧客がアウディのディーラーを訪れると、VRヘッドセット(Oculus RiftとHTC Viveの両プラットフォームで動作するシステム)を装着し、美しい山道や、月明かりの風景のなかでさえ、アウディの車両を体験できる日が来るでしょう。また、このシステムは、車を見ることさえなく月明かりのなかを歩き回ったり、アウディのレーシング・カーを運転するといった、純粋なエンターテイメント体験を提供することも可能です。そうした細かい部分は、各ディーラーに一任される予定です。このシステムは拡張できるように設計されているため、ディーラーが提供したい体験を決めることができます。
ズックトリーゲル氏は、VRによって、ゆくゆくはディーラーをまったく通さなくても、アウディが消費者に直接車両を販売することが容易になることも認めています。
しかし、現在のところ、同社はVR体験をディーラーに導入することに重点を置いており、それがクーン氏の創造力を大いに刺激しています。
クーン氏は、次のように述べています。「これは私が今までに経験した中で最もやりがいのあるプロジェクトです。とはいえ、本番はまだまだこれからです。アイデアはまだたくさんありますからね」