研究から往診まで、米国のヘルスケア機関で AI エージェントの展開が加速

米国の数々のヘルスケア組織が、デジタルヘルスエージェントを採用し、研究室から臨床現場まで全面的に AI を活用しようとしています。

今週、ワシントン D.C. で開催された NVIDIA AI Summit では、AI で加速された最新のツールが紹介されました。これには、AI モデルの展開と実行を支援するクラウドネイティブのマイクロサービスのコレクションである NVIDIA NIM と、事前トレーニング済みでカスタマイズ可能な AI ワークフローのカタログである NVIDIA NIM Agent Blueprint が含まれています。

これらのテクノロジはすでに公的機関で使用されており、医用画像の先進的な分析や、新たな治療法の探索の支援、テキストや表、グラフを含む膨大な PDF データベースからの情報抽出に活かされています。

例えば、米国立衛生研究所 (NIH) の一部門である国立がん研究所は、医用画像処理のための NVIDIA MONAI で構築した数種類の AI モデルを使用しています。これには 3D CT 画像のセグメンテーションとアノテーション向けの VISTA-3D NIM 基盤モデルが含まれています。NIH 傘下の国立先進トランスレーショナル科学センター (NCATS) のチームは、生成 AI によるバーチャルスクリーニング向けの NIM Agent Blueprint を使用し、新規薬物分子の開発にかかる時間とコストを削減しようとしています。

NVIDIA NIM と NIM Agent Blueprint を使って公的機関の医学研究者は、最適化された最先端の AI モデルを迅速に採用し、研究を加速できます。事前トレーニング済みモデルは、組織の独自データを基にカスタマイズでき、ユーザーのフィードバックを踏まえて継続的に改良が可能です。

NVIDIA NIM と NIM Agent Blueprint は ai.nvidia.com で入手でき、幅広いクラウドサービスプロバイダーやグローバルなシステムインテグレーター、テクノロジソリューションプロバイダーからアクセスできます。

NIM Agent Blueprint を使った構築

多くの NIM マイクロサービスと、続々と拡充されている NIM Agent Blueprint のセットは、開発者が無料で検証、ダウロードできます。これらは、NVIDIA AI Enterprise ソフトウェアプラットフォームを使って本番環境に展開できます。

創薬向け生成バーチャルスクリーニングのブループリントは、3 種類の NIM マイクロサービスを組み合わせ、低分子ライブラリを検索、最適化し、標的タンパク質に結合する有望な候補化合物の特定を支援します。
マルチモーダル PDF データ抽出ブループリントは、NVIDIA NeMo Retriever NIM マイクロサービスを使用して企業文書から洞察を抽出し、強力な AI エージェントとチャットボットの構築を支援します。
デジタルヒューマンブループリントは、顧客サービス向けの AI を活用した対話型アバターの作成を支援します。このアバターは、遠隔医療の他、診療予約、問診票の記入、処方箋の管理など、非臨床面での患者ケアに適用できる可能性を秘めています。

また、創薬向けの 2 種類の新 NIM マイクロサービスが、ai.nvidia.com で入手可能となりました。創薬デザインの重要なステップとして、タンパク質がどのように標的分子に結合するかを研究者が理解するのを支援します。こうした前臨床研究をデジタルで実施する機会が増えれば、ラボでの試験の前に新薬候補を絞り込めるようになり、創薬プロセスが効率化し、コスト削減が可能となります。

AlphaFold2-Multimer NIM マイクロサービスは、数分でアミノ酸配列からタンパク質の構造を正確に予測できるため、時間のかかるラボでの検査の必要性を減らします。RFdiffusion NIM マイクロサービスは生成 AI を活用し、標的分子と結合する可能性があり、有望な創薬候補となる新規タンパク質を設計します。

NCATS は創薬研究を加速

NCATS の ASPIRE 研究所は、バーチャルスクリーニングのための NIM Agent Blueprint を評価中で、GPU で加速されるデータサイエンス向けのオープンソースソフトウェアライブラリスイートである RAPIDS を使用し、創薬研究を加速しています。同ラボの研究者はグラフデータ分析向けの cuGraph ライブラリおよびデータフレームを加速する cuDF ライブラリを用いることで、広大な未知の化学空間で化学反応をマッピングできます。

NCATS の情報科学チームは、CPU ベースのインフラでは何時間もかかっていたプロセスが、NVIDIA AI により数秒で完了できるようになったと報告しています。

研究論文や画像診断報告書、患者記録など大量のヘルスケアデータは、構造化されておらず、PDF 文書に固定されているため、研究者が情報を即座に検索することは困難です。

NCATS が運営する遺伝性希少疾患情報センターは、PDF データ抽出ブループリントを利用し、これまで検索不能だったデータベースからの情報収集機能を高める生成 AI ツールの開発に取り組んでいます。こうしたツールにより、希少疾患の患者からの質問に答えることが可能となります。

NCATS の最高情報責任者である Sam Michael 氏は次のように述べています。「当センターは、患者の質問に答えるため、米国立医学図書館や Orphanet データベース、NIH 傘下の他研究所やセンター内のデータソースを分析しています。AI を活用した PDF データ抽出により、以前は検索不能だったデータベースから貴重な情報を抽出することがきわめて容易になります」

最小限の労力で最大限の利益を：NIM を始める

NVIDIA NIM マイクロサービスと NIM Agent Blueprint を自社のプラットフォームやサービスに組み込むスタートアップや、クラウドサービスプロバイダー、グローバルシステムインテグレーターの数は増加し続けており、連邦政府のヘルスケア研究者は研究に着手しやすくなっています。

NVIDIA Inception プログラムのメンバーであり、NVentures の投資先でもあるスタートアップの Abridge は最近、米退役軍人省から契約を受注しました。診療内容の文字起こしと要約の作成を支援することで、医師が各患者とのやりとりを文書化する負荷を軽減します。

同社は、AI 推論を加速する NVIDIA TensorRT-LLM と音声のテキスト化と内容の要約モデルを大規模に展開するための NVIDIA Triton Inference Server を使用しています。これらは、NIM マイクロサービスが提供しているテクノロジの一部と同じものです。

バーチャルスクリーニングのための NIM Agent Blueprint はすでに AWS HealthOmics から利用可能です。AWS HealthOmics は生物学的データ分析をオーケストレーションするのを支援する専用サービスです。

Amazon Web Services (AWS) は、NIH の STRIDES (Science and Technology Research Infrastructure for Discovery, Experimentation, and Sustainability：発見と実験、持続可能性のための科学技術研究インフラ) イニシアティブのパートナーです。この取り組みは商用クラウドサービス利用に対する経済上、プロセス上の障壁を軽減し、生物医学研究のエコシステムを近代化することを目指しています。NVIDIA と AWS は、NIM Agent Blueprints が生物医学研究のコミュニティで幅広く利用可能になるよう協力しています。

ConcertAI も NVIDIA Inception のメンバーであり、研究と臨床での標準治療ソリューションを中核とするオンコロジー領域の AI テクノロジ企業です。大規模な臨床データ処理とマルチエージェントモデル、臨床用基盤モデルのために、NIM マイクロサービスと NVIDIA CUDA-X マイクロサービス、NVIDIA NeMo プラットフォームを自社の AI ソリューションスイートに統合しています。

NVIDIA NIM マイクロサービスは、同社の CARA AI プラットフォームを通じて、ConcertAI の高パフォーマンスで低遅延の AI モデルをサポートしています。ユースケースには、臨床試験の設計、最適化、患者者のマッチングだけでなく、標準治療を強化し、臨床判断を補強するソリューションが含まれます。

グローバルシステムインテグレーターである Deloitte は、バーチャルスクリーニングのための NIM Agent Blueprint を世界中の顧客に提供しています。Deloitte Atlas AI により、連邦保健機関のクライアントが容易に NIM を使い、最新の生成 AI による創薬パイプラインを採用、展開できるよう支援しています。

NVIDIA NIM マイクロサービスと NIM Agent Blueprint は今すぐご体験いただけます。