シミュレーションが自律走行の鍵を握る――トヨタのエグゼクティブがその理由を説く

投稿者: Brian Caulfield

想像してみてください。巨大なVRヘッドセットが装着された車――それが、フットボール競技場ほどの大きさの施設内に置かれ、あらゆる種類の動きがシミュレートされる様子を。 

トヨタ・リサーチ・インスティチュートのCEOであるギル・プラット(Gill Pratt)氏が、木曜日にシリコンバレーで開催されたGPUテクノロジ・カンファレンスの基調講演に登壇。3,000人を超える参加者を前に、その驚くべき施設内の様子を語りました。

また、同氏は、トヨタが米国ミシガン州アナーバーに自律走行の研究施設を新設することも発表しました。同施設には約50人の研究者を配し、日本、シリコンバレー、マサチューセッツ州ケンブリッジ(マサチューセッツ工科大学の近く)で進めている同社の取り組みを補完する予定です。

プラット氏は、ロボット工学の世界では伝説的な人物です。昨年、米国防総省の新技術研究開発機関である米国防高等研究計画局(DARPA)から身を転じ、トヨタの一員となりました。今年1月、世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、向こう5年間で10億ドルを人工知能に投資すると発表しました。

NVIDIA GPUによるビジュアルを備えたトヨタのシミュレーションは、これらの研究チームによって開発されたテクノロジを採り入れ、同社の膨大な数の車両に展開するうえで鍵となります。

GPUを利用した自律システム向けディープラーニング・テクノロジが、大量の実環境データからの学習を後押しします。

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「1兆マイルの課題」――同社の課題をそう呼ぶプラット氏は、1月にトヨタ・リサーチのCEOに正式指名された後、眠れなかったと言います。なぜなら、約1億台のトヨタ車が道路を走り、1台あたりの走行距離が年間1万マイルに上ることを考えたとき、彼は、トヨタ車が毎年約1兆マイル運転されている事実に気付いたのです。

1兆マイル。それだけの距離が運転されていれば、わずかな欠陥でさえ、「社の存続の危機」を招きうる事故につながるでしょう。それが、新たなテクノロジ、特に「運転を代行するテクノロジ」の展開を難しくしています。

その解決策の1つが、GTCでプラット氏が紹介したような施設でのシミュレーションです。また、自律を新たな視点でとらえることも、その答えの1つとなるでしょう。

これは、運転手がハンドルから完全に手を離して自動車に運転を代行させる場合、その運転が人間の運転手と同様、完璧に行われることを確信できなければならないためです。ほかにも、いわゆる「引継ぎの問題」もあります。つまり、運転手が居眠りしている間や、スマートフォンをチェックしている間に自動車が対応しきれなくなった場合、運転手が即座に運転を代われるかが問われるわけです。

一方、ロボット工学の研究者らが長年追求してきたアイデアである「並列の自律性(Parallel Autonomy)」なら、そこまで完璧でなくても、自律システムによって安全性を高めることが可能です。そのようなシステムは「常時オン」の状態なので、運転手が問題に直面した場合にいつでも運転を代わることができます。「大人が子どもにゴルフ・クラブのスイングを教えるようなものだと考えてください」と、プラット氏は説明します。

同氏は、これを「Guardian Angel」モデルと呼びます。テクノロジは、ここぞというときにだけ運転を代わってハンドルを切り、衝突を避けることができますが、普段はバックグラウンドで待機します。そのため、「運転代行(Chauffeur)」モデルほど完璧さを求められません。

また、「Guardian Angel」モデルには、研究者らが「主体性」と呼ぶもの(つまり、運転手の「自分がテクノロジをコントロールしているんだ」という感覚)が失われないという利点もあります。「それは、運転が楽しいと人々が感じるためにこれまでも必要とされてきた要素です」と、プラット氏は述べています。

しかし、このような機能の導入が進むほど、自動車と運転手の連携方法を理解するうえで、シミュレーションが重要になります。そのため、NVIDIAを利用したトヨタのシミュレーション施設は、シミュレーションにおける両社の取り組みの始まりに過ぎません。

発想としては、GPU、そしてディープラーニングを利用して自律システムのトレーニングを行い、実際の路上に出す前に現実に即した状況を体験させるというものです。

プラット氏は、次のように述べています。「Guardian Angelモデルとは、運転手に運転を任せ、場合によっては音や光で警告しながらも、最終的にはGuardian Angelがハンドルを握るというものだと考えられます。車がスリップし始めた場合、皆さんならどう反応し、どのような行動を取りますか」

危険に対しては、用心しすぎるということはありません。安全性におけるわずかな改善でさえ、トヨタの膨大な数の車両、ひいては自動車業界全体に広がれば、大きな違いを生むでしょう。

同氏は、「自動車事故で毎年120万人が亡くなっている」と指摘し、「その状況を少しでも改善していかなければならない」と強調しました。