フィジカル AI の開発者が NVIDIA Jetson Thor モジュールを活用することで、世界中のロボットは一層賢くなります。このモジュールは、さまざまな研究や産業でロボット システムの中枢として機能する新しいロボティクス コンピューターです。
ロボットには、豊富なセンサー データと低遅延の AI 処理が必要です。リアルタイム ロボット アプリケーションを実行するには、複数のセンサーから同時に送られるデータ ストリームを処理するために膨大な量の AI コンピューティングとメモリが必要になります。一般提供が開始された Jetson Thor は、その前世代のモデルである NVIDIA Jetson Orin と比較して、7.5 倍の AI コンピューティング性能、3.1 倍の CPU パフォーマンス、2 倍のメモリを提供し、これがデバイス上で実現できます。
この飛躍的なパフォーマンス向上により、ロボット技術者はセンサー データを高速で処理し、エッジ環境で視覚リーズ二ングを行えるようになります。このワークフローは、これまで動的な実世界の環境で実行するにはスピードが足りませんでした。これにより、ヒューマノイド ロボティクスなどのマルチモーダル AI アプリケーションの新しい可能性が開かれます。
ヒューマノイド ロボティクスのリーダーである Agility Robotics は、NVIDIA Jetson を自社の第 5 世代ロボットである Digit に統合しており、第 6 世代に搭載するコンピューティング プラットフォームとしてJetson Thorを採用予定です。この移行により、Digit のリアルタイム認識と意思決定能力が向上し、ますます複雑になる AI スキルと動作をサポートします。Digit は商業的に展開されており、倉庫や製造環境での物の積み重ね、荷積み、パレットへの積載などの物流タスクを実行しています。
Agility Robotics の CEO である Peggy Johnson 氏は次のように述べています。「Jetson Thor が提供する強力なエッジ処理は、Digit を次のレベルへ引き上げてくれます。リアルタイムでの応答性を向上させ、その能力をより幅広く複雑なスキルへと拡張します。Jetson Thor を活用することで、最新のフィジカル AI の進化を提供し、お客様の倉庫や工場での業務を最適化できます」
30 年以上にわたり業界で最も先進的なロボットを構築してきた Boston Dynamics は、Jetson Thor を同社のヒューマノイド ロボット、Atlas に統合します。これにより Atlas は、以前サーバーで行っていたレベルのコンピューティング、AI ワークロードの高速化、高帯域幅のデータ処理、大容量のメモリをデバイス上で利用できるようなりました。
ヒューマノイド ロボットだけでなく、Jetson Thor は、手術支援、スマート トラクター、配送ロボット、産業用マニピュレーター、視覚 AI エージェントなどさまざまなロボット アプリケーションを高速化します。これは、より大規模で、より複雑な AI モデルに向けたリアルタイム推論をデバイス上で実行することにより実現します。
リアルタイム ロボット リーズ二ングのための大きな飛躍
Jetson Thor は、生成リーズ二ング モデル向けに構築されています。これにより、大規模な Transformer モデル、視覚言語モデル、視覚言語アクション モデルを搭載した次世代のフィジカル AI エージェントを、エッジでリアルタイムに実行し、クラウドへの依存を最小限に抑えることができます。
Jetson Thor は、実世界でのアプリケーションに必要な低遅延とパフォーマンスを実現するために Jetson ソフトウェア スタックで最適化され、一般的な生成 AI フレームワークおよび AI リーズ二ング モデルすべてを、比類のないリアルタイム パフォーマンスでサポートします。これには、Cosmos Reason、DeepSeek、Llama、Gemini、Qwen モデルや、Isaac GR00T N1.5 などのロボティクス向けの特定分野用モデルが含まれており、開発者は誰でも簡単に検証し、ローカルで推論を実行することできます。

そのライフサイクルを通じて NVIDIA CUDA エコシステムがサポートされるため、Jetson Thor は将来のソフトウェア リリースに伴い、一層優れたスループットとより高速な応答を実現すると期待されます。
Jetson Thor モジュールは、NVIDIA AI ソフトウェア スタック全体も実行し、ロボティクス向けの NVIDIA Isaac、ビデオ解析 AI エージェント向けの NVIDIA Metropolis、センサー処理向けの NVIDIA Holoscan を含むプラットフォームを活用して、あらゆるフィジカル AI ワークフローを高速化します。
これらのソフトウェア ツールを活用することで、開発者はライブ カメラ ストリームを分析して作業員の安全をモニターできる視覚 AI エージェント、構造化されていない環境での操作タスクが可能なヒューマノイド ロボット、複数のカメラからのデータに基づいて外科医を誘導するスマート手術室などのアプリケーションを、簡単に構築および展開できます。
Jetson Thor が研究イノベーションを推進
スタンフォード大学、カーネギーメロン大学、チューリッヒ大学の研究ラボは、Jetson Thor を活用して、有望な多くのアプリケーションに向け、認識、計画、ナビゲーション モデルの限界を押し広げます。
カーネギーメロン大学の Robotics Institute では、研究チームが NVIDIA Jetson を活用して、複雑で構造化されていない環境内を移動し、医療トリアージや捜索と救助を行う自律型ロボットを実現しています。
同大学の准研究教授であり、AirLab のトップである Sebastian Scherer 氏は次のように述べています。「私たちは、利用可能なコンピューティング能力に依存しています。数年前、コンピューター ビジョンとロボティクスの間には大きな隔たりがありました。それは、コンピューター ビジョンのワークロードのスピードがリアルタイムの意思決定には不十分だったからです。しかし現在、モデルとコンピューティングが十分に高速化したため、ロボットは一層複雑なタスクを処理できます」
Scherer 氏は、チームの既存の NVIDIA Jetson AGX Orin システムを Jetson AGX Thor 開発者キットにアップグレードすることで、受賞歴のある、エッジでのロボット認識用の MAC-VO モデルを含む AI モデルの性能が改善し、センサーフュージョン機能が向上し、ロボット フリートの実験が可能になると期待しています。
Jetson Thor の強みを活かす
Jetson Thor ファミリーには、開発者キットと量産モジュールが含まれます。開発者キットには、Jetson T5000 モジュール、豊富な接続性を備えたリファレンス キャリア ボード、ファン付きのアクティブ ヒートシンク、電源が含まれます。

Jetson エコシステムは、さまざまなアプリケーション要件、高速産業用自動化プロトコル、センサー インターフェースをサポートしているため、企業の開発者は市場投入までの時間を短縮できます。Advantech、Aetina、ConnectTech、MiiVii、TZTEK などのハードウェア パートナーは、柔軟な入出力とカスタム構成を備えた量産対応の Jetson Thor システムをさまざまなフォーム ファクターで構築しています。
Analog Devices, Inc. (ADI)、e-con Systems、Infineon、Leopard Imaging、RealSense、Sensing などのセンサーおよびアクチュエーター企業は、センサー フュージョンとデータ ストリーミングを簡素化するプラットフォームである NVIDIA Holoscan Sensor Bridge を活用し、カメラ、レーダー、LiDAR などからのセンサー データを超低遅延で Jetson Thor の GPU メモリに直接接続します。
数千社ものソフトウェア企業が、Jetson Thor 上で実行される複数の AI エージェント ワークフローを活用して、従来のビジョン AI とロボティクス アプリケーションを向上できるようになります。主要な採用企業には、Openzeka、Robotnix、Solomon、Vaidio が含まれます。
200 万人を超える開発者が NVIDIA のテクノロジを活用し、ロボティクス ワークフローを高速化しています。NVIDIA 技術ブログを読み、以下の開発者キットの解説チュートリアルを視聴し、Jetson Thor の使用を始めましょう。
NVIDIA Jetson AGX Thor 開発者キットは、現在 3,499 ドルから販売されています。NVIDIA Jetson T5000 モジュールは、1,000 ユニットで 2,999 ドルから販売されています。日本国内においては、菱洋エレクトロ株式会社と株式会社マクニカが、取り扱いを開始しています。
また、NVIDIAは、自動運転車およびモビリティ ソリューションの開発プラットフォームであるNVIDIA DRIVE AGX Thor 開発者キットのプリオーダーを開始したことを発表しました。日本国内においては、株式会社マクニカと株式会社ネクスティエレクトロニクスより販売されます。出荷は9月に開始予定です。