半導体製造は AI の「理想的なアプリケーション」、NVIDIAのCEOが語る

投稿者: Brian Caulfield

半導体業界のリーダーたちに向けた ITF World 2023 の講演で、アクセラレーテッド コンピューティングと AI の役割について NVIDIA の創業者/CEO、ジェンスン フアンが概説

NVIDIA の創業者/CEO であるジェンスン フアンは、米国時間の 5 月 16 日、半導体製造は NVIDIA のアクセラレーテッドおよび AI コンピューティングにとって「理想的なアプリケーション」であると明かしました。

ベルギーのアントワープで開催された半導体カンファレンス、ITF World 2023 にて、フアンは最新のコンピューティングの進歩が「世界で最も重要な産業」をいかに加速させているかについて語りました。

半導体、テクノロジや通信における業界のリーダーたちが集う中、フアンはビデオ スピーチを行いました。

「NVIDIA のアクセラレーテッド コンピューティングと AI が世界の半導体製造業界に貢献していることを大変嬉しく思います」と述べ、コンピューティングと AI、および半導体製造におけるそれぞれの進歩がいかに交差しているかを詳しく説明しました。

AI とアクセラレーテッド コンピューティングが業界を変革

CPU の指数関数的な性能向上は、40 年近くにわたってテクノロジ産業の支配的な原動力であったとフアンは述べています。

しかし、ここ数年、CPU の設計は成熟してきたと彼は言います。半導体がより強力で効率的になる速度は、コンピューティング能力に対する需要が急増しているにもかかわらず、減速しているのです。

「結果として、クラウド コンピューティングに対する世界的な需要が、データセンターの電力消費の急増を招いています。ネットゼロを目指す一方で、コンピューティング能力の向上という『かけがえのない恩恵』をサポートするためには、新しいアプローチが必要です」

この課題に対して、GPU の並列処理能力を CPU と結合させたアクセラレーテッド コンピューティングのパイオニアである NVIDIA が挑戦することは、自然な流れであると言えるでしょう。

このアクセラレーションが、ひいては AI 革命の火付け役となりました。10 年前、Alex Krizhevsky 氏、Ilya Sutskever 氏、Geoffrey Hinton 氏などディープラーニングの研究者は、GPU が費用対効果の高いスーパーコンピューターであることを発見しました。

それ以来、NVIDIA はディープラーニングのためのコンピューティング スタックを再発明し、ロボティクス、自動運転車、製造業等において数兆ドル規模の機会を開拓したと、フアンは言います。

また、NVIDIA は、負荷の高いアルゴリズムをオフロードして高速化することで、アプリケーションの処理速度を通常の 10 ~ 100 倍に向上させ、電力とコストを大幅に削減しています。

AI とアクセラレーテッド コンピューティングは、共にテクノロジ業界を変革しています。「私たちは、アクセラレーテッド コンピューティングと生成 AI という 2 つのプラットフォームの移行を同時に経験しています」

AI とアクセラレーテッド コンピューティングが半導体製造で活躍

フアンは、高度な半導体製造には 1,000 以上の工程が必要であり、生体分子サイズの特徴を作り出すということを解説しました。各工程が完璧でなければ、機能的な出力は得られません。

「パターン化する機能を計算し、インライン プロセス制御のための欠陥を検出するめに、高度な計算科学がすべての段階で実行されています。半導体製造は、NVIDIA のアクセラレーテッドおよび AI コンピューティングにとって最適なアプリケーションです」

フアンは、NVIDIA GPU が半導体製造にますます不可欠になっていることを示すいくつかの例を紹介しました。

D2S、IMS Nanofabrication、NuFlare などの企業は、電子ビームマスク描画装置 (フォトマスクを作成し、パターンをウェハーに転写する機械) を構築しています。NVIDIA GPU は、これらの描画装置のパターン レンダリングとマスク作成プロセスにおける補正という計算負荷の高いタスクを加速させます。

半導体メーカーの TSMC と装置プロバイダーの KLA およびレーザーテックは、マスク検査に EUV と呼ばれる極端紫外線と DUV と呼ばれる深紫外線を使用しています。ここでも NVIDIA GPU は、古典的な物理モデリングとディープラーニングを処理して合成参照画像を生成し、欠陥を検出するという重要な役割を担っています。

KLA、Applied Materials、そして日立ハイテクは、電子ビームや光学式ウェハーの検査、レビュー システムで NVIDIA GPU を使用しています。

そして 3 月、NVIDIA は TSMC、ASML、Synopsys と共に、計算リソグラフィを加速させることを発表しました。

計算リソグラフィは、光学系を通過し、フォトレジストと相互作用する光の挙動に関する Maxwell の方程式をシミュレーションしていることをフアンは説明しました。

計算リソグラフィは、半導体の設計と製造における最大の計算負荷であり、年間数百億の CPU 時間を消費しています。大規模なデータセンターは、新しい半導体のレチクルを作成するために 24 時間 365 日稼働しています。

3 月に発表された NVIDIA cuLitho は、GPU アクセラレーションによる計算リソグラフィのための最適化されたツールとアルゴリズムを備えたソフトウェア ライブラリです。

フアンは次のように述べています。「我々はすでに処理を 50 倍高速化しています。数万台の CPU サーバーを数百台の NVIDIA DGX システムで置き換えることができ、電力とコストを大幅に削減することができます。この節約によって、二酸化炭素の排出量の削減や、2 ナノ メートル以降の新しいアルゴリズムを可能にします」

AI の次の波は?

AI の次の波とは?この質問に対し、フアンは、新しい種類の AI、すなわち物理的世界を理解、推論、対話することができるインテリジェント システムについて解説しました。

その例として、ロボティクスや自動運転、さらには物理的な世界を理解することでより賢くなるチャットボットなどを挙げました。

フアンは、具現化されたマルチモーダル AI である NVIDIA VIMA を視聴者に紹介しました。VIMA は「このシーンに合わせてオブジェクトを再配置する」など、視覚的なテキスト プロンプトからタスクを実行することができると説明しました。

「これはウィジェットだ」「これはモノだ」「このウィジェットをあのモノに入れよう」というように、概念を学習し、それに従って行動できるのです。また、デモンストレーションから学び、指定された範囲内にとどまることもできるとフアンは言います。

VIMA は NVIDIA AI 上で動作し、VIMA のデジタル ツインは 3D 開発および、シミュレーション プラットフォームである NVIDIA Omniverse 上で実行することができます。「物理 AI は、物理学を模倣し、物理法則に従った予測ができます」

研究者たちは、現実世界と仮想世界の情報を膨大なスケールでメッシュ化するシステムを構築しています。

また、NVIDIA は、Earth-2 と呼ばれる地球のデジタル ツインを構築しており、最初は天候を予測し、次に気象の長期予報、最終的には気候を予測する予定です。NVIDIA の Earth-2 チームは、世界の気象パターンのエミュレートを 5 ~10 万倍高速化する物理 AI モデルである FourCastNet を開発しました。

FourCastNet は NVIDIA AI で動作し、Earth-2 のデジタル ツインは NVIDIA Omniverse 上で構築されています。

このようなシステムによって、安価でクリーンなエネルギーに対する需要など、現代における代表的な課題の解決が期待されます。

例えば、英国の原子力庁とマンチェスター大学の研究者は、核融合炉のデジタル ツインを作成し、物理 AI でプラズマ物理をエミュレートし、ロボティクスで反応を制御し、燃焼プラズマを持続させようとしています。

フアンによると、科学者は物理的な原子炉を起動する前にデジタル ツインで仮説を検証することで、エネルギー収率の向上、予測的なメンテナンスを行い、ダウンタイムの削減が可能になるといいます。「原子炉プラズマ物理 AI は NVIDIA AI 上で動作し、デジタル ツインは NVIDIA Omniverse で動作します」

このようなシステムは、半導体産業のさらなる進化を約束します。「物理 AI、ロボティクス、そして Omniverse ベースのデジタル ツインが、半導体製造の未来を前進させるのに貢献することを期待しています」とフアンは語りました。