シドニーのスタートアップ企業が AI を活用して体外受精の成功率を向上

投稿者: Isha Salian

不妊の一般的な治療法である体外受精 (IVF) では、超音波検査や血液検査、排卵誘発剤の注入などがあるため、患者はかなりの時間を費やさなければなりません。このプロセスが妊娠という成功に至らないと (こういうことも往々にしてあります)、精神面にも金銭面にも大きな痛手となりえます。

シドニーにある医療系のスタートアップ企業である Harrison.ai は、ディープラーニングを活用して数千人の体外受精の治療成功率を上げようとしています。その AI モデルである IVY は、生殖補助サービスの世界的なプロバイダーである Virtus Health によって採用されており、医師がどの胚候補を移植すれば成功率が最も高くなるのかという評価をするのに役立ちます。

オェングス トラン (Aengus Tran) とディミトリ トラン (Dimitry Tran) の兄弟が2017 年に設立した Harrison.ai は、カスタマイズ可能な予測アルゴリズムを構築し、医療上の重要な決定を知らせ、患者の転帰を改良する、既存の臨床治療ワークフローに組み込んでいます。

体外受精の 1 つのサイクルでは、10 以上の卵子が 1 人の患者から採取される場合があります。胚は検査室で 5 日間培養され、その後、最も見込みのある候補(複数の場合もあります)が母親の子宮に移植されます。アメリカ疾病管理予防センターによれば、5 日間培養された胚の移植成功率は、それでも 50% 未満であり、40 歳を超えた女性の場合は成功率が 25% 程度です。

Harrison.ai の共同創業者で、医療 AI 担当ディレクターであるオェングス トラン (Aengus Tran)は「過去には、人々は、3 つまたは 4 つの胚を移植しなければならず、そのうちの1 つがうまくいけばいいと思っていました」と語っています。彼は、NVIDIA Inception 仮想アクセラレーター プログラムのメンバーでもあり、このプログラムは、業界に革命をもたらそうとしている、AI 関係のスタートアップ企業に製品化のためのサポート、専門知識およびテクノロジを提供しています。「しかし、少しうまくいきすぎることもあり、両親が双子または三つ子を得るということもあります。おめでたいと思われるかもしれませんが、妊娠中の危険性が高まる可能性があります」

オンプレミスおよびクラウドNVIDIA V100 Tensor コア GPU を活用している IVY は、検査室で成長している受精卵の低速度撮影映像を処理し、好ましい結果を最も生み出しそうなものを予測しています。

目標は、1 つの胚の移植で 一人の妊娠を成功させることです。

フレームごとの処理

胚培養士は、胚成長の低速度撮影映像を手動で分析し、最も成功率の高そうな候補を選び出します。これは主観的なプロセスであり、共通の評価システムがなく、専門家間で一致するケースもあまりありません。全ての胚の 5 日間の映像において、医師がすべてのフレームを見るのは、ほとんど不可能です。

Harrison.ai の IVY ディープラーニング モデルは、胚子鏡からの 5 日分の映像をすべて分析しており、静止画像をもとにした洞察を提供する AI ツールの性能を上回ることができています。

オェングスは以下のように述べています。「現在、私たちが目にしている、視覚的な AI ツールのほとんどは、画像認識です。しかし、初期の複数細胞の胚では、発育プロセスが 5日間を経たあとの見た目よりもはるかに重要となります。重要な出来事がその前に起こっていた可能性があり、すでに損傷している場合もあるのです」

Harrison.ai は、4 つの国の 8 つの IVF 研究所にあった 1 万以上のヒトの胚から得られた、Virtus Health のデータセットを使って、ディープラーニング モデルのトレーニングを行いました。胚の詳細な形態学的な特徴のアノテーションをそれぞれの映像に付ける代わりに、チームは、ポジティブまたはネガティブな結果という、共通のラベルを使ってそれぞれの胚を分類しました。ポジティブな結果とは、患者の 6 週間目の超音波検査により、胎児の心拍が確認されたことを意味します。これは、生命の誕生が成功する、主要な予測因子となります。

最近の研究によれば、IVY はどの胚が心拍を持つように発育するのかを 93% の精度で予測することができました。オェングスとディミトリは、医師間での評価の不一致を減らせば、ツールによって胚の選択を標準化できるようになると述べています。

増え続ける Harrison.ai のトレーニング用データセットに対処するために、チームは GPU クラスタを 4 枚の GeForce カードから、世界最速のディープラーニング用ワークステーションである NVIDIA DGX Station にアップグレードしました。Tensor コア GPU でトレーニングを行うことによって、チームは、混合精度演算ができるようになり、トレーニングの時間を 4 分の 1 に短縮できるようになりました。

「指先を使うだけで、これほどの膨大なパワーを得られるなんて、現実のこととは思えません」とオェングスは述べています。DGX Station を使うことによって、Harrison.ai では、より大きなデータセットでトレーニングができるようになり、生産性を高め、ディープラーニング モデルを向上できるようになりました。

同社は、デスクサイドで使える DGX Station で、実験、研究および開発を行っています。最も大きなデータセットのトレーニングでは、同社は、Amazon EC2 P3 のクラウド インスタンスで NVIDIA V100 GPU のクラスタへ拡張し、NGC コンテナを活用してワークフローをオンプレミスのシステムからクラウドへとシームレスに移行させています。

IVY は、これまで Virtus Health のクリニックの数千の診断例を使用してきました。Harrison.ai は、大手の胚子鏡メーカーである Vitrolife とも提携して、同社のニューラル ネットワークを診療のワークフローによりスムーズに統合させようとしています。

Harrison.ai の最初のプロジェクトは体外受精についてのものですが、同社は他の医療アプリケーション向けのツールも開発しています。