グローバル・インパクト: 手術室で眼科外科医が良く見えるようにするのをGPUが支援

投稿者: Tonie Hansen

編集部注:本稿は、2016年のNVIDIAグローバル・インパクト・アワードの最終候補5組のプロフィールを紹介するシリーズの1つです。このアワードでは、社会的な問題、人道的な問題、環境問題に対処するための革新的な研究をNVIDIAのテクノロジを利用して行った研究者に、賞金$150,000を授与します。

眼球の顕微鏡手術の執刀は、言葉の印象から感じられるとおり、非常に困難です。最近まで、眼科外科医は、手術室で何も見えずに飛行していたも同然でした。

医師は患者の目の上に吊るした外科用顕微鏡を使用して、失明につながるような、角膜や網膜の状態を矯正します。しかし、顕微鏡では奥行きの感覚がつかみにくく、外科医は間接照明の手がかりを頼りに、繊細な目の組織に対して器具が今どの位置にあるか判別しなければなりません。

しかし、こうした状況は、デューク大学の工学教授ジョゼフ・アイザット(Joseph Izatt)氏と、彼が指導する大学院生のチームにより変わりつつあります。このチームではNVIDIAのテクノロジを使用して、執刀中の外科医に3Dの立体ライブ映像をフィードバックしています。

アイザット氏は次のように述べています。「これは外科手術の中でも最も難しいものです。手術でメスを入れる組織は非常に繊細で、また患者にとって特に重要なものなのです」

デューク大学は、2016年のNVIDIAグローバル・インパクト・アワードの最終候補5組のうちの1つです。この15万ドルの交付金は、毎年、社会的な問題、人道的な問題、環境問題に対処するための革新的な研究をNVIDIAのテクノロジを利用して行った研究者に授与されます。

 前眼部の従来のレンダリング(左)と、レイキャスティングの画質を上げノイズ除去したもの(右)の比較

前眼部の従来のレンダリング(左)と、レイキャスティングの画質を上げノイズ除去したもの(右)の比較

標準的な手法の二歩先へ

目の顕微鏡手術では通常、患者に術前スキャンを受けてもらいます。これにより画像を生成し、この画像に外科医が患部をマッピングして手術計画を立てます。術後、患者の目を再びスキャンして、手術が成功したことを確認します。

最先端の顕微鏡手術はもう一歩進んでおり、光干渉断層法(OCT)を使用します。これは高度な画像撮影法で、5~6秒で3D画像が生成されます。しかし、アイザット氏の取り組みはさらに一歩踏み込んでいます。完全な3D容積測定画像を取得し、10分の1秒ごとに更新しながら2つの異なる角度からレンダリングして、顕微鏡の両方の接眼レンズにリアルタイムで立体表示するのです。

OCTの手法に20年以上も取り組んでいるアイザット氏は、「私はこれまでずっと、テクノロジを人間の生活の向上にいかに適用できるかを確かめることに、とても興味を持っていました」と述べています。

アイザット氏のチームでは、GeForce GTX TITAN Black GPUCUDAプログラミング・ライブラリ、および3D Visionテクノロジをソリューションに使用しています。このソリューションにより外科医は、術前と術後の画像で手術の成功を判断するのではなく、手術中に即座にフィードバックを得られます。

マイクロメートル単位の解像度の3D画像

全層角膜移植での虹彩の異常癒着の分離。上の行は、異常な虹彩の癒着(赤色の矢印)を、手術用顕微鏡を通じて正面から見た通常の手術画像(左)、容積測定OCT(中央)、断面スキャン(右)。下の行は、粘弾性の物質を注入して異常な癒着(緑色の矢印)を分離する手術を行った結果。

全層角膜移植での虹彩の異常癒着の分離。上の行は、異常な虹彩の癒着(赤色の矢印)を、手術用顕微鏡を通じて正面から見た通常の手術画像(左)、容積測定OCT(中央)、断面スキャン(右)。下の行は、粘弾性の物質を注入して異常な癒着(緑色の矢印)を分離する手術を行った結果。

単一のTITAN GPUがOCTの未処理のデータ・ストリームを取得、処理して、3D容積測定画像をレンダリングします。これらの画像の解像度は数マイクロメートルで、顕微鏡の接眼レンズに投影されます。CUDAのcuFFTライブラリと特殊関数ユニットは、リアルタイムでの画像処理、ノイズ除去、およびレンダリングに必要な演算能力を提供します。NVIDIA 3D Vision対応のモニターと3Dメガネがあれば、顕微鏡を使用している外科医と、手術をその場で見学しているグループの両方に、ライブ立体データを表示でき、トレーニングとデモンストレーションに有効なツールとして使用できます。

アイザット氏は次のように述べています。「手術の前後にこの種のデータを得るのに使用される、現世代のOCT画像撮影装置では、通常、1枚の容積測定画像のレンダリングに5~6秒かかります。私たちのチームでは現在、同様の画像を約10分の1秒で得ており、そのスピードはまさに、これまでの50倍になります」

アイザット氏のソリューションはこれまで、デューク大学アイ・センターとクリーブランド・クリニック・コール眼科センターの90件を超える外科手術で使用されてきました。医療市場ではまだ、各企業がリアルタイム2D表示の商用化にしのぎを削っています。アイザット氏は、自分たちのチームの3Dソリューションは数年で商用化できるだろうと予測しています。

アイザット氏は、こう述べています。「現在、最も複雑な外科手術は、こうした大規模なセンターで行われていますが、患者の中には、最適なセンターで受診するため、何百キロも何千キロも行かなければならない方もいらっしゃいます。こうしたツールがあれば、より多くの地域で手術が受けられるだろうと期待しています」

2016年のグローバル・インパクト・アワードの受賞者は、4月4~7日にシリコンバレーで開催されるGPUテクノロジ・カンファレンスで発表されます。

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