「マシンは芸術家になれるのか」――今年のGPUテクノロジ・カンファレンス(GTC)のもっとも美しいデモの1つが、その判断に役立つかもしれません。
DCGAN(Deep Convolutional Generative Adversarial Networks)のデモでは、たとえばヴィクトリア時代のさまざまな画家による海の絵など、同様の特徴を持つ何千枚もの芸術作品をコンピュータに読み込ませます。そして、それらをディープラーニングによって処理し、同じスタイルの新しい画像を生み出します。これは、はるか昔に亡くなった画家のファンにとって朗報でしょう。ただし、DCGANが生み出すのは、単なる「美しい絵」をはるかに超えるものです。
「美しい絵」をはるかに超える
DCGANは、Facebookのスーミス・チンタラ(Soumith Chintala)氏の研究に基づき、多くの人が真のAIの追求における至高の目標だと考える「教師なし学習」を実現します。
DCGANのデモを作成するにあたり、当社は、何千枚ものラベルなし画像を使用してディープラーニング・システムのトレーニングを行いました。システムは、画像を分析し、データに含まれる特徴を識別することで、画像間(たとえば、風景画と静物画)の違いを、それらのラベルを認識せずに理解できるようになりました。
さらに、DCGANは、次の段階に進みます。学習した絵画のさまざまな特徴の理解を基に、独自の芸術作品を生み出すようになったのです。
これは、急速に成長するディープラーニングの分野にたずさわる人々にとって、重要な出来事です。ディープラーニングとは、従来型のプログラミングには複雑すぎる問題をコンピュータに解決させる、人工知能の一分野です。
ディープラーニングのしくみを理解するヒントは、「システムは人間のように経験から学ぶ」という言葉の中にあります。ディープラーニングは、グラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)の並列アーキテクチャに対する親和性を持つおかげで、GPUによって大幅に高速化されています(「GPUによるAIの高速化――新たなコンピューティング・モデルの誕生」を参照)。
人が注目しないつながりを見つける
画家のフィンセント・ファン・ゴッホのスタイルで描かれた絵の詳細
では、教師なし学習は、なぜそれほど重要な出来事なのでしょうか?それは、どのディープラーニング・システムにトレーニングを行う場合でも、膨大な量のデータをフィードする必要があるためです。
「教師あり学習」では、人間がすでにラベルを付けたデータを使用しますが、「教師なし学習」では、だれもラベルを付けていないデータを使用します。
たとえば、猫の画像を認識させるため、ディープラーニング・ベースのシステムのトレーニングを行うとします。教師あり学習を利用すると、どれが猫でどれがそうでないかを判別するためのトレーニングをシステムに行うために、ユーザーが対象画像にラベルを付けなければなりません。
一方、教師なし学習の場合、ラベルは存在しません。システムは、データを分類することで、自力で物事を判断する必要があります。このアプローチは非常に効果的です。なぜなら、システムは、開発者によって注目すべき対象に誘導されることなく、データ内に含まれるパターンに気付くことができるためです。
データ科学者が設定したラベルによって制約されないことで、システムは、人間が注目しないつながりを識別できます。教師なしディープラーニングは、かつて解決不能だった問題に対して特に効果を発揮することが実証されています。
世界を変える
GTCでは、DCGANがアートの制作を進めています。近い将来、同じ原理に基づくシステムによって、きわめて複雑な課題のいくつかを解決できるようになるでしょう。コンピュータ・ビジョンや、自然言語処理、医療診断にいたるまで、GPUで高速化された教師なしディープラーニングが世界を変えつつあります。