AIを活用した内視鏡で医師が腸の健康状態を詳しく観察

投稿者: Isha Salian

グローバル・メドテックカンパニーであるオリンパスのグループ企業傘下にあるOdin Vision (英国オディン・ビジョン)は、現在、大腸内視鏡検査におけるポリープの分類分けとがん検出を支援するクラウド接続型 AI モデルを構築しています。

大学のスピンオフから始まり、この分野をリードするグローバル・メドテックカンパニーであるオリンパスによる買収まで、Odin Visionは創業以来、5 年経たずして目覚ましい速度で成長を遂げました。

最先端のスタートアップ企業を対象とした NVIDIA Inception プログラムのメンバーであったOdin Visionは、クラウドに接続された AI ソフトウェアを開発し、内視鏡検査中にポリープやがんなどの病変候補を医師が検出し、分類分けをサポートします。内視鏡検査とは、先端に小さなカメラを内蔵した管を消化器内に挿入する検査のことです。

内視鏡検査室のネットワーク接続されたデバイスが、リアルタイムのビデオデータをキャプチャしてクラウドにストリーミングし、そこで強力な NVIDIA GPU が AI 推論を実行します。そのAIモデルの結果は内視鏡検査室にストリーミングされ、医師は最小限の待ち時間でライブビデオ映像に重ねられたAIの分析を確認できます。

このスタートアップ企業は 2022 年に日本のグローバル・メドテックカンパニーであるオリンパスに買収されました。オリンパスは消化器内視鏡機器の世界シェア 70% を占めています。

Odin Vision の共同設立者で最高技術責任者(CTO)の Daniel Toth (ダニエル トース)氏は次のように述べています。「今回の買収により、AI とクラウド技術を活用して内視鏡検査を変革するという当社のビジョンの実現に大きく近づくことができると確信しています。当社のソフトウェアはオリンパスの世界的な顧客基盤に展開されることで、より多くの患者さんにソリューションを提供することが可能になります」

また、オリンパスは、NVIDIAのアドバイザリープログラムであるOlympus Office Hoursでも NVIDIA と協力しています。このプログラムは、スタートアップ企業と医療機器メーカーの専門家を繋ぐものです。スタートアップ企業が消化器科、泌尿器科、外科などの主要分野でAIソリューションを構築することを支援するための深い業界専門知識とガイダンスを提供します。

また、このプログラムは、医療AIスタートアップ企業とNVIDIAおよびそのヘルスケア業界のパートナーを結びつける取り組みであるNVIDIA Inception Alliance for Healthcareの一環であり、製品開発と市場投入の目標達成を加速させるために、8つの主要なAIスタートアップ企業がこのプログラムの初期グループとして参加しました。

臨床医のための AI 追加オプション

下部消化管を観察する内視鏡手技の一つである大腸内視鏡検査では、発がん前のポリープの約4分の1が見逃されています

内視鏡があらゆる角度でビデオ映像を捉えられていないために見逃されるものもあれば、臨床医が発見できないものもあります。そこで AI が臨床上の意思決定を支援するための第二の目を提供することができるのです。

医療従事者が内視鏡検査中に見るビデオフィードにシームレスに AI を統合することで、医師がポリープをより早く検出、除去し、がんの発症を予防することを支援する追加のデータソースを提供します。

Toth 氏は次のように述べています。「ポリープはゆっくりと発育し、がんとして現れるまで5年から10年かかることもあります。臨床医がポリープを早期に検出して除去できれば、命を救うことができるのです」

ポリープを検出し分類する同社の AI ソフトウェア「CADDIE」は、欧州で規制当局承認の CE マークを取得し、英国、スペイン、ドイツ、ポーランド、イタリアの病院に導入されています。また、米国での導入も検討しています。

Odin Vision はまた、医師が食道に咽頭がんの兆候がないか観察する内視鏡検査を支援する CE マークを取得した AI ソフトウェアも持っています。

リアルタイム洞察のための推論の高速化

Odin Vision は、ポリープ検出のための AI 技術を開発していたユニバーシティ カレッジ ロンドン (UCL) の教授2名と博士課程の学生による研究プロジェクトからスタートしました。2019 年に、Siemens Healthineers(シーメンス ヘルシニアーズ)出身の Toth 氏と Odin Vision のCEOである Peter Mountney(ピーター マウンニー)氏と組み、この研究を商業化しました。

Toth 氏は次のように述べています。「NVIDIA GPUは、当初から我々のプロジェクトで欠かせない存在でした。我々の AI モデルをトレーニングするために不可欠であり、推論用の最初の製品プロトタイプの一部でもありました。クラウドベースの展開に移行してからは、クラウドでの動的処理のために NVIDIA Triton Inference Server を使い始めました。」

Odin Vision は、推論を高速化するために NVIDIA Tensor コア GPU を使用しており、最近では NVIDIA L4 GPU に移行しています。NVIDIA Triton Inference Server ソフトウェアと NVIDIA TensorRT ソフトウェア開発キットを採用することで、リアルタイムのビデオ処理 AI アプリケーションに必要な低遅延の基準を満たすことができました。

Odin Vision は、特定の手技を実施する医師のサポートに加え、医師が検査後に作成するカルテのドラフトを自動化できる生成AIモデルや、手技全体のデータを集約できるモデルの開発を計画しています。これらにより、内視鏡検査チームは分析結果を確認し、検査手順が臨床ガイドラインに従って適切に実施されているかどうかを評価できます。

「このような手技のさまざまな要素を追跡する AI モデルが何十個も存在するようになれば、医療従事者が消化管の特定の部位を検査するのに 6 分かかるはずなのに、わずか 3 分しかかかってないことなどが分かるようになります。その場合、このシステムは臨床医にガイドラインに従うように促すことができます」と、Toth 氏は述べています。

クラウドでつながるがん検査

NVIDIA Inception のメンバーになることで、Odin Vision チームは NVIDIA の技術的な専門知識と、主要なクラウドサービスプロバイダーによるクラウドクレジットを利用できるようになりました。

Toth 氏は次のように述べています。「クラウドクレジットのおかげで、技術開発と展開を大幅にスピードアップすることができ、当初の予定よりも数ヶ月早く製品を市場に投入することができました。また、NVIDIA の専門家は、技術的な観点から私たちの製品コンセプトを検証し、GPU とアクセラレーションソフトウェアの最適化に関する相談にも応じてくれました」

Odin Vision チームは、クラウドベースのソリューションによって、病院の顧客全体にソフトウェアのアップデートの通知が容易になることを明らかにしました。

「AI 企業の中には、臨床現場に設置され、定期的なメンテナンスが必要な装置を提供する企業もありますが、その場合、通常の臨床ワークフローが円滑に行われなくなる可能性があります。しかし、ネットワークに接続されたデバイスを使えば、1つのサーバーを更新するだけで、全てのエンドユーザーに同時に変更を提供できるのです」と、Toth 氏は述べています。

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