基調講演のまとめ: NVIDIA CEO が、データセンターを「AI ファクトリー」に変容させるためのものとして、Hopper アーキテクチャ、H100 GPU、新しいスーパーコンピューター、ソフトウェアを紹介

投稿者: Brian Caulfield

NVIDIA GTC の幕開けとして、ジェンスン フアンが AI の驚異的な発展を称賛し、AI と Omniverse が現実世界と仮想世界をいかに融合させるかを力説

NVIDIA の創業者/CEO であるジェンスン フアン (Jensen Huang) が今週、数兆ドル規模の産業を変革し、現代の「グランド チャレンジ」に取り組むという約束とともに、インテリジェンスが産業規模で生み出され、現実世界と仮想世界が共存する時代に向けてのビジョンを明らかにしました。

NVIDIA の GTC カンファレンスの冒頭で、フアンは新しい Hopper GPU アーキテクチャと新しい H100 GPU を含む半導体、新しい AI およびアクセラレーテッド コンピューティング向けソフトウェア、ならびにパワフルなデータセンター規模の新しいシステムを発表しました。

フアンは、コラボレーションおよびシミュレーションのためのリアルタイム 3D プラットフォームである NVIDIA Omniverse の仮想環境で講演を行い、AI が「あらゆる方面」で急速に進化していると、次のように話しました。「企業はデータを処理、改良し、AI ソフトウェアを作り、インテリジェンスを製造するメーカーになりつつあります」

そして、このような事柄のすべてが、Omniverse によって集約され、人と AI のコラボレーション、より良いモデルの構築ならびに現実世界の理解を高速化させ、「AI の次なる波」となる、新しい種類のロボットを生み出すための基盤となります。

フアンは、世界で最も重要な AI カンファレンスの 1 つとなっている、このイベントで自らのビジョンを明らかにし、トップクラスの開発者、科学者および研究者たちを結びつけました。

このカンファレンスでは、American ExpressDoorDashLinkedInPinterestSalesforceServiceNowSnap および Visa といった企業からの参加者を含む、1,600 人以上が講演を行い、登録参加者は 20 万人にもなりました。

フアンのプレゼンテーションは、NVIDIA の新キャンパスの見応え十分なフライスルーで始まりました。これは Omniverse でレンダリングされており、先進のロボット プロジェクトに取り組んでいる、活気に溢れたラボのシーンも含まれていました。

フアンは、NVIDIA と広範なエコシステムとの連携が、先進のヘルスケアと創薬によって人々の生命を救っており、さらに地球の保護にも役立っていると語りました。

また、フアンは次のように話しました。「科学者は、地域の気候変動を効果的にシミュレートするには、現在の 10億倍の規模を持つスーパーコンピューターが必要になると予測しています」

「NVIDIA は、世界初の AI デジタルツイン スーパーコンピューターとなる Earth-2 でこの壮大な挑戦に取り組み、手遅れになる前に、10億倍の性能を私たちにもたらす、新しい AI とコンピューティングのテクノロジを発明します」

新たな半導体 — NVIDIA H100: 「世界の AI インフラストラクチャの新エンジン」

このような野心的な取り組みを加速するものとして、フアンは Hopper アーキテクチャをベースに構築した NVIDIA H100 を紹介し、これを「世界の AI インフラストラクチャの新エンジン」と表現しました。

音声、対話、カスタマー サービスおよびレコメンデーションのような AI アプリケーションは、データセンターの設計を根本から覆そうとしている、とフアンは言います。

「AI データセンターは、次々とやって来る膨大な量のデータを処理して、AI モデルのトレーニングおよび改良を行います。生データが送られて来て、改良され、それからインテリジェンスが出ていきます。つまり、企業はインテリジェンスを製造する、巨大な AI ファクトリーを運営するようになるのです」

この工場は、年中無休で運営され、休む間もなく稼働する、とフアンは言います。品質面での少しの改善があれば、カスタマー エンゲージメントが大幅に向上するようになり、それが企業の利益となる、とフアンは説明しています。

H100 は、このような工場の動きを速くします。TSMC の 4N プロセスを使い、800 億トランジスタという、「巨大な」チップです。

「Hopper H100 は、これまでで最大の世代間の飛躍です。大規模なトレーニング性能が A100 の 9 倍になり、大規模言語モデルの推論スループットは 30 倍になります」

Hopper には、精度を損なうことなくネットワークを 6 倍高速化する、新しい Transformer Engine など、技術的なブレイクスルーがたくさん実装されています。

「Transformer モデルのトレーニングは、数週間から数日に短縮することができます」

H100 はすでに生産過程に入っており、第 3 四半期より入手可能になる、とフアンは発表しています。

フアンはさらに、NVIDIA 初のハイパフォーマンス コンピューティング向けのディスクリート データセンター CPU となる、Grace CPU Superchipの発表を行いました。

Grace CPU Superchip は、900 ギガバイト/秒の NVLink チップ間インターコネクトで接続された、2 基の CPU チップで構成されており、144 コアの CPU が 1 テラバイト/秒のメモリ帯域幅を持つように構成されている、とフアンは説明しています。

「Grace は、世界の AI インフラストラクチャにとって、理想的な CPU です」と語った。

フアンはまた、Hopper GPU をベースにした、新しい AI スーパーコンピューターである、DGX H100、H100 DGX POD および DGX SuperPOD の発表も行いました。

すべてを接続するために、NVIDIA の新しい NVLink 高速インターコネクト テクノロジが、今後の NVIDIA のすべてのチップ、つまり CPU、GPU、DPU および SOC に実装されるようになる、とフアンは言っています。

フアンはさらに、NVLink をお客様およびパートナーに提供し、コンパニオン チップを作れるようにすると発表しました。

「NVLinkによって、NVIDIA のプラットフォームとエコシステムを活用して、セミカスタムのチップとシステムを作れるようなり、顧客にとって新しい世界が開きます」

新ソフトウェア — AI が「根本から覆した」ソフトウェア

アクセラレーテッド コンピューティングがもたらした AI の発展は、「驚異的」であるとフアンは表現しています。

「AI は、ソフトウェアでできること、また、ソフトウェアを作る方法を根本から覆しています」

フアンによると、Transformer は自己教師あり学習の扉を開き、人間がラベル付けするデータの必要性を取り除きました。その結果、Transformer は、多様な分野で積極的に導入されるようになっています。

「Transformer は、自己教師あり学習を可能にし、AI の進化速度を飛躍的に高めました」

言語理解の Google BERT、創薬の NVIDIA MegaMolBART、および DeepMind AlphaFold2 はいずれも、Transformer がもたらしたブレイクスルーである、とフアンは言っています。

フアンは、自然言語理解、物理学、クリエイティブ デザイン、キャラクター アニメーション、そしてチップ レイアウトのための NVCell などの新しいディープラーニング モデルについても紹介しました。

「AI は、新しいアーキテクチャ、新しい学習戦略、より大規模でより堅牢なモデル、新しい科学、新しいアプリケーション、新しい産業などのあらゆる方面で、同時に急速に進化しています」

NVIDIA は「総力を挙げて」、AI の新たなブレイクスルーを加速し、あらゆる業界への AI と機械学習の導入を早めるために取り組んでいる、とフアンは言います。

NVIDIA AI プラットフォームは大幅にアップデートされていると、フアンは語っています。これには、Triton Inference Server、大規模言語モデルのトレーニングに使われる NeMo Megatron 0.9 フレームワーク、ならびにオーディオとビデオの品質を向上する Maxine が含まれています。

そのなかに含まれるプラットフォームには、AI とデータ解析用のツールおよびフレームワークで構成された、エンドツーエンドで、クラウドネイティブなスイートである NVIDIA AI Enterprise 2.0 が含まれています。このプラットフォームは、NVIDIA によって最適化および認証されているほか、現在はすべての主要なデータセンターおよびクラウド プラットフォームに対応しています。

「NVIDIA は、今回の GTC で、60 の SDK をアップデートしました。300 万人の開発者、科学者および AI 研究者、ならびに数万のスタートアップ企業およびエンタープライズは、既存の NVIDIA システムをさらに高速化できるようになります」

NVIDIA AI ソフトウェアとアクセラレーテッド コンピューティング SDK は現在、世界で最も有数な企業に採用されています。

「NVIDIA SDK は、ヘルスケア、エネルギー、輸送、小売り、金融、メディア & エンターテインメントの世界で採用されており、これらの業界は合計で 100 兆ドルの規模となります」

「次なる進化」: 仮想世界のための Omniverse

半世紀前、アポロ 13 号の月探査ミッションにトラブルが発生しました。フアンによれば、乗組員を救うため、NASA のエンジニアたちは、地球で乗員カプセルを作り、「問題に取り組んだ」そうです。

「デジタルツインとは、物理世界と結びつけられた仮想世界で、巨大な規模に拡張されます。インターネットの文脈では、これは新たな進化です」

デジタルツインを構築するための NVIDIA Omniverse ソフトウェア、および新しいデータセンター規模の NVIDIA OVX システムは、「行動指向の AI」に欠かせないものとなるでしょう。

Omniverse の新しいリリースとアップデートを発表する際、フアンはこのように言いました。「Omniverse は、NVIDIA のロボティクス プラットフォームの中心となります。NASA や Amazon と同じように、NVIDIA とロボティクスおよび産業オートメーションのお客様は、デジタルツインと Omniverse の重要さを認識しています」

OVX は、同じ時空で作動する、複数の自律システムによって、Omniverse のデジタルツインを実行し、大規模なシミュレーションを可能にする、とフアンは説明しています。

OVX のバックボーンとなっているのは、ファブリックのネットワーク システムであるとし、フアンは、NVIDIA Spectrum-4 ハイパフォーマンス データ ネットワーキング インフラストラクチャ プラットフォームを発表しました。

世界初の 400Gbps のエンドツーエンド ネットワーキング プラットフォームである NVIDIA Spectrum-4 は、Spectrum-4 スイッチ ファミリ、NVIDIA ConnectX-7 SmartNICNVIDIA BlueField-3 DPU および NVIDIA DOCA データセンター インフラストラクチャ ソフトウェアで構成されています。

また、さらに多くのユーザーが Omniverse を利用できるように、フアンは Omniverse Cloud を発表しました。わずか数クリックで、クラウド上の Omniverse に接続して共同作業をすることが可能になります。

フアンは、4 人のデザイナー (そのうちの 1 人は AI です) が、これを使ってコラボレートし、仮想世界を構築する様子を披露しました。

フアンはさらに、Amazon が Omniverse Enterprise を使って、「その圧倒的に巨大なフルフィルメント センターの運営のデザインおよび最適化を行っている」様子を示しました。

「現代のフルフィルメント センターは、技術が驚異的なレベルにまで進化しつつあり、施設は人間とロボットが協働して運営するようになっています」

AI の次なる波: ロボットと自律走行車

新しい半導体、新しいソフトウェアおよび新しいシミュレーション機能が、「AI の次なる波」を巻き起こし、ロボットが「立案、計画および実行」をできるようになる、とフアンは言います。

NVIDIA Avatar、DRIVE, Metropolis、Isaac および Holoscan は、グラウンドトゥルース データ生成、AI モデル トレーニング、ロボティクス スタックおよび Omniverse デジタルツインという、「4 本の柱」を中心に据えた、エンドツーエンドでフルスタックのロボティクス プラットフォームだと、フアンは言います。

NVIDIA DRIVE 自律走行車システムは、欠かすことのできない、「AI chauffeur (お抱え運転手)」とフアンは表現しています。

また、NVIDIA DRIVE をベースとした NVIDIA の自動運転車向けハードウェア アーキテクチャである Hyperion 8 は、全方位のカメラ、レーダー、LiDAR および超音波のセンサー スイートによって、完全な自動運転を可能にします。

Hyperion 8 は、2024 年より Mercedes-Benz の自動車に搭載されるようになり、さらに 2025 年には Jaguar Land Rover の車にも搭載されるとフアンは言いました。

フアンは、新たな世代の EV、ロボタクシー、シャトルおよびトラックの AV と AI の集中型コンピューターである NVIDIA Orin の出荷が、今月より開始すると発表しました。

また、フアンは Hyperion 9 を発表しました。Hyperion 9 は、現在の DRIVE Orin ベースのアーキテクチャの 2 倍の性能を実現する、新登場の DRIVE Atlan SoC を搭載し、2026 年より出荷が開始される予定となっています。

世界第 2 位の EV メーカーである BYD が、2023 年より生産が開始される自動車に DRIVE Orin コンピューターを搭載する、とフアンは発表しました。

また、Lucid Motors が、同社の DreamDrive Pro の先進運転支援システムが NVIDIA DRIVE 上で構築されていることを明らかにしました

全体として見れば、NVIDIA のオートモーティブ関連企業との取引見込み額は増加を続けており、次の 6 年間で 110 億ドル規模に達する見込みとなっています。

Clara Holoscan は、DRIVE で使用されているリアルタイム コンピューティング性能の多くを活用することで、RF 超音波、4K の手術動画、ハイスループットのカメラとレーザーといった、医療機器およびリアルタイム センサーをサポートしています。

フアンは、Holoscan がライトシート顕微鏡からの画像を高速化する様子をビデオで紹介しました。これは、細胞の移動および分裂する様子の「動画」を作成することができます。

これらの機器が生成した 3TB のデータを処理するには通常丸 1 日かかっています。

しかし、カリフォルニア大学バークレー校の Advanced Bioimaging Center では、研究員が Holoscan を使って、このデータをリアルタイムで処理できるようになっており、実験中に顕微鏡をオートフォーカスすることも可能です。

Holoscan 開発プラットフォームは、早期アクセスのお客様は今週から入手可能で、5 月には一般利用ができ、医療グレードへの対応は 2023 年の第 1 四半期からの予定です。

NVIDIA は、製造、小売り、ヘルスケア、農業、建設、空港および都市計画のためのロボットを構築している、数千のお客様および開発者とも連携しています。

NVIDIA のロボティクス プラットフォームは、Metropolis と Isaac で構成されています。Metropolis は動くものを追跡する固定型のロボットで、Isaac は動くもののためのプラットフォームだと、フアンは説明しています。

NVIDIAは、ロボットが工場や倉庫といった屋内空間を移動できるようにするために、自律移動ロボットの開発と展開を加速する、コンピューティングおよびセンサー リファレンスの最先端プラットフォームである Jetson AGX Orin 上に構築されたIsaac Nova Orin を発表しました。

動画では、フアンは PepsiCo が Metropolis と Omniverse のデジタルツインを同時に活用している様子を紹介しました。

4 つのレイヤー、5 つのダイナミクス

基調講演の締めくくりとして、フアンはすべてのテクノロジ、製品発表およびデモについて、NVIDIAがどのように次世代コンピューティングを主導するかというビジョンを説明しました。

NVIDIA は、ハードウェア、システム ソフトウェアとライブラリ、ソフトウェア プラットフォームの NVIDIA HPC、NVIDIA AI と NVIDIA Omniverse、ならびに AI とロボティックスのアプリケーション フレームワークという、4 つのレイヤー スタックすべてで新製品を発表しました。

フアンはさらに、コンピューティングを 百万倍高速化させること、Transformerで AI を加速させること、データセンターを AI ファクトリーにすること、その結果、ロボティクス システムの需要が飛躍的に増大すること、ならびに次の時代の AI を見据えたデジタルツインを構築すること、産業を変革させる 5 つのダイナミクスについて説明しました。

「フルスタック、およびデータセンター規模の高速化を実現するために、NVIDIA は次の 10 年でさらに 100 万倍の高速化を実現するための取り組みを続けていきます。次の 100 万倍のスピードアップを見るのが楽しみでなりません」と言い、フアンは基調講演を締めくくりました。

Omniverse が「現在のあらゆるレンダリングとシミュレーションを可能にした」と告げたあとで、フアンは、NVIDIA のクリエイティブ チームが編集した、驚異的な動画を披露しました。この動画では、視聴者は「Omniverse へのもう 1 つの旅」に誘われ、NVIDIA のキャンパスですばらしいミュージカル ジャズ ナンバーが演奏され、フアンのデジタル パートナーであるトイ ジェンスン (Toy Jensen) が出演しました。