NVIDIA Clara、Google DeepVariant、Oxford Nanopore Technologies を使ったシーケンシングにより、スタンフォード大学医学部の主導によるイニシアチブが、遺伝性疾患をわずか 7.5 時間で特定
患者の全ゲノムのシーケンシングと解析にかかる時間を数日から数時間に短縮することは、単に臨床効率を高めるだけでなく、命を救うことにもつながります。
スタンフォード大学が率いる研究チームは、血液サンプルの収集からゲノム全体のシーケンシング、疾患を引き起こすバリアントの特定まで、このプロセスのすべての工程を短縮し、発作を引き起こす遺伝性の希少難病を患う生後 3 か月の乳児に対して、わずか数時間で病原性バリアントを発見して診断確定を行いました。従来の遺伝子パネル検査にも同時に依頼していましたが、こちらは診断結果が返されるまでに 2 週間かかりました。
1月12日付で『New England Journal of Medicine』に詳細な説明が掲載されたこの超高速なシーケンシング法により、この乳児の発作の種類と抗てんかん薬に対する治療反応についての洞察を得ることができ、医師はてんかんの症状に対処することができました。
このシーケンシング法は 5 時間 2 分という記録を叩き出し、世界最速の DNA シーケンシング技術として世界で初めてギネス世界記録に認定されました。この方法を開発したのが、スタンフォード大学、NVIDIA、Oxford Nanopore Technologies、Google、ベイラー医科大学、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究者たちです。
この研究者たちは、Google Cloud 上で NVIDIA GPU を使用して、ベース コーリングとバリアント コーリングの両方を高速化しました。ゲノム内の数百万のバリアントを解析するプロセスであるバリアント コーリングでは、ゲノミクス計算アプリケーション フレームワークである NVIDIA Clara Parabricksによる高速化も行われました。
この論文の責任著者であり、スタンフォード大学医学部の遺伝学および生物医学データ サイエンス科の教授であるユアン アシュレイ (Euan Ashley、MB ChB、DPhil) 医師が、3 月 21~24 日にオンラインで開催される NVIDIA GTC にて講演を行います。
時間との戦い、臨床現場へのメリット
特定の病気に関連する遺伝的バリアントを特定することは元来至難の業であり、多くの場合、研究者は病気を引き起こす変異を 1 つ見つけるのに 30 億塩基対のヒトゲノムを調べなければなりません。
これは時間のかかる作業です。一般的にヒトの全ゲノムのシーケンシング診断テストには 6~8 週間かかります。所要時間が短い検査でさえ 2、3 日かかります。多くの場合これでは時間がかかりすぎて、重症患者の治療に有効であるとは言えません。
診断パイプラインを最適化してわずか 7~10 時間で診断できるようになると、臨床医は遺伝レベルの手がかりをより速く特定でき、患者の治療計画に情報を盛り込むことができます。Stanford Health Care と Lucile Packard Children’s Hospital Stanford で実施されたこの試験プロジェクトでは、12 人の患者 (ほとんどが小児) のゲノム シーケンシングが行われました。
チームは 5 例において診断を要するバリアントを発見し、医師による再検査を経て、心臓移植や薬の処方などの臨床決定に活用されました。
Oxford Nanopore Technologies の CEO であるゴードン サンゲーラ (Gordon Sanghera) 氏は次のように述べています。「ゲノム情報は豊富な洞察を提供するため、実際の状態をより明確に理解すること可能になります。ゲノム情報をほぼリアルタイムで入手することができるワークフローは、情報をいち早く知ることが重要となるさまざまな状況で有意義なメリットをもたらすことでしょう」
Clara Parabricks でバリアントを特定
研究者たちは、サンプル調製を迅速に行い、Oxford Nanopore の PromethION Flow Cells でのナノポア シーケンシングを使用することで、パイプラインの工程すべての最適化を実現し、1 時間あたり 100 ギガベースを超える塩基対データの生成が可能になりました。
このシーケンシング データは、Google Cloud コンピューティング環境の NVIDIA Tensor コア GPU に送られ、ベース コーリング (デバイスからの生の信号を A、T、G、C のヌクレオチドから成る列に変換するプロセス) とアライメントがほぼリアルタイムで行われました。クラウドの GPU インスタンスにデータを分散させることで、遅延を最小限に抑えることができました。
次に研究者たちは、DNA シーケンスの中から遺伝性疾患を引き起こす可能性のある微小な変異を見つけなければなりませんでした。バリアント コーリングと呼ばれるこのステージは、Google とカリフォルニア大学サンタクルーズ校の Computational Genomics Laboratory が共同で開発したパイプラインである PEPPER-Margin-DeepVariant の GPU アクセラレーテッド版を使用して Clara Parabricks で高速化されました。
DeepVariant は、畳み込みニューラルネットワークを用いて非常に精度の高いバリアント コーリングを行います。Clara Parabricks 内の、 GPUで高速化された DeepVariant Germline パイプライン ソフトウェアを使うことで、ネイティブの DeepVariant インスタンスの 10 倍の速度で検査結果を得られ、病気の原因となるバリアントが特定されるまでの時間が短縮されます。
Parabricks の共同開発者で、New England Journal of Medicine 掲載記事の共同執筆者でもある NVIDIA のメルツァード サマディ (Mehrzad Samadi) は次のように述べています。「共同研究者やゲノミクスにおける世界的権威のある数人の協力のもと、私たちは高速シーケンシング解析ワークフローを開発することができ、すでに臨床的な成果が具体的に現れています。私たちは今後も、このようなインパクトのある課題解決のために取り組みを続けていきます」
『New England Journal of Medicine』に掲載の論文をぜひご一読ください。また、30 分以内にヒトの全ゲノム解析が可能な NVIDIA Clara Parabricks は、90 日間の無料トライアル版をお試しいただけます。