ビル脇に止められた車が融けたら、なにかがおかしいと思うのが当たり前ですよね。
昨年、ロンドンに20フェンチャーチ・ストリートという高層ビルができました。独特のカーブを描く全面ガラス張りのビルで、昔の携帯無線機を彷彿とさせることから「ザ・ウォーキートーキー」という愛称で親しまれるすばらしい建物です。ところが、このガラス、太陽光線を集める集光器の役割も果たしてしまうのです。
その結果、近くに止められていた黒いジャガーXJが一部融けてしまったり、近くにある理髪店のシャンプーが沸騰したりしてしまいました。なんと目玉焼きを作るのに使っている人もいます。
最近は、コンピュータで設計され、全面にガラスがはられた曲線美のビルが次々と建てられており、このような「殺人光線」の問題が増えています。曲線を描くガラスがどう光を反射するのか――集めるのか――は、デザイナーにもエンジニアにも予測が難しいからです。少なくともいままではそうでした。
NVIDIAがシリコンバレーで毎年開催しているGPU Technology Conferenceで、先日、ロンドンで5番目に高いザ・ウォーキートーキーが一部で「フライスクレーパー」という不名誉な呼び方をされるようになった理由をGPUの力で解明するデモが行われました。
Irayを活用
レンダリングというのはデジタル・モデルをスクリーン上に画像として表示する処理のことで、ご存じのように、別に新しい技術ではありません。オブジェクトや周囲の環境と光線がどのように作用し合うのかを追跡するレイトレーシングという技術も、新しいものではありません。新しいのは、GPUを活用して精巧なモデルをリアルタイムにレンダリングできるNVIDIAのIrayレイトレーシング・テクノロジです。
その効果は驚くばかりです。スナップショットなどと呼ばれる動かない画像ひとつを作るのに、いままでは何時間もかかっていたのが、Irayなら、デザイナーが変更を加えるたびにリッチなデジタル画像が得られます。つまり、いままでのように太陽の位置をひとつふたつ仮定して確認するのではなく、季節によって変わる太陽の動きを日の出から日の入りまで追跡し、太陽光線がビルでどう反射するのかを確認できるのです。
NVIDIAは、このツールをプラグインという形で提供し、主なデザイン・ツールで使えるようにしようとしています。この機能を使えるデザイナが増えれば、まちがいなく、時間の節約になります。トラブルが防止できる可能性もあります。
危険な殺人光線を回避
この技術でザ・ウォーキートーキーを確認してみたところ、もっとひどい事態になっていた可能性があることがわかりました。ビルの曲がり具合がほんの少し違っていたら、舗装が融けるほどのホット・スポットができていたはずなのです。
このパワフルなシミュレーションは、昨年のGTCで我々が発表したテクノロジを基礎としています。ホンダと共同で行った、自動車全体をインタラクティブに可視化するデモで使ったテクノロジです。
あのデモは、デジタル・プロトタイプをぐるぐる回して見せるだけのものではありません。シルバーのアコードから車両の一部を切り取ったり、内部を見ることもできました。配線やシート・スプリングまで確認することできました。
このようなテクノロジがあれば、設計でよく遭遇するさまざまな問題を解決することができます。もちろん、めったに遭遇しない問題も。
光のモデリングにまつわる課題
90℃前後もの高温を生みだす20フェンチャーチ・ストリートについて少し考えてみましょう。ストリップと呼ばれるラスベガスの大通りにほど近いヴィダラ・ホテルでも構いません。ここは前面が凹型のガラス張りで、プールサイドに置かれたプラスチック製品が融けるほどの高温を生みだしてしまいます。ユニークな形で有名なロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサート・ホールも同じ問題を抱えており、近くのマンションの住民が、サンシェードを下ろしてエアコンを使わなければならない状況に追いこまれています。
いずれも、マッドサイエンティストの仕業でもなければジェームズ・ボンドのお話に出てくる悪漢の仕業でもありません。ただ、ビルを作ったアーキテクトとエンジニアが適切なツールを持っておらず、自分たちが作ろうとしているものが周囲にどういう影響を及ぼすのかを予測できなかっただけのことなのです。
いままで、反射光のモデリングは時間がとてもかかる処理でした。だから、デザインが固まった最終段階のプレゼンテーションまで、普通は行われません。しかも、ごく限られたライティング条件でしか行われません。あくまでスナップショットであってシミュレーションではないのです。
Quadro M6000グラフィックス・カード
この状況を変えるのが、NVIDIAの新しいIray 2015レンダリング技術です。世界一パワフルなNVIDIAの新製品、Quadro M6000グラフィックス・カードとIray 2015を組み合わせると、デザインを変更するたびに、光がどう反射するのか確認することが可能になります。
顧客に見せられるレベルのフォトリアリスティックな画像を作るには、いままで何時間もかかっていましたが、新しいシステムなら、GPUの増設で瞬間的に高解像度のモデルを得ることができます。
先日新型が発表されたQuadroビジュアル・コンピューティング・アプライアンス(VCA)に用意された8個のQuadro M6000 GPUを使えば、驚くほどフォトリアリスティックな画像をインタラクティブに得ることができます。
このVCAをデータセンターに設置すれば、必要なときに必要なところで望みのレンダリング・パワーが使えるようになります。NVIDIA Iray製品はIrayサーバ・ソフトウェアが走るマシンからレンダリング結果をストリーミングすることができるからです。
同じツール、新たなルール
このテクノロジは、いずれも、デザイナーのみなさんがすでに使われているツールで利用することができます。Autodeskの3ds Max、Maya、Revit、McNeel Rhinoceros、Maxon Cinema 4Dなど、主な3D制作アプリケーション用アドインとして提供し、何百万人もの人々に使っていただけるようにしたいとNVIDIAでは考えているからです。このソフトウェアは、NVIDIA Quadro K1200以上の製品を購入いただいた方には無償でお使いいただけます。
この新世代のプロトタイプ作成ツールがあれば、精密な模型を作る必要がなくなります。オブジェクトをレンダリングして動画を作る必要もありません。デザイン中、リアルタイムに作品が確認できるようになるからです。
何カ月もの時間が節約できる可能性があります。場合によっては何年も。「フライスクレーパー」をまた作ってジャガーを犠牲にすることも、防止できるかもしれません。
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