ソブリン AI とは、国が自国のインフラ、データ、労働力、ビジネス ネットワークを用いて人工知能を生み出すことができる能力を指します。

各国は、経済を発展させ、自国のデータを管理し、そして交通、通信、商業、エンターテインメント、ヘルスケアといった分野でテクノロジの機会を活用するために、長年にわたり国内のインフラに投資してきました。

現代の最も重要なテクノロジである AI は、社会のあらゆる面でイノベーションを加速させています。AI が生み出す経済的利益と生産性向上は、数兆ドル規模に達すると見込まれています。

各国は、そうした便益を自国で生み出し自国のために利用できるよう、ソブリン AI に投資しています。ソブリン AI とは、国が自国のインフラ、データ、労働力、ビジネス ネットワークを用いて人工知能を生み出すことができる能力を指します。

ソブリン AI が重要な理由

生成 AI の台頭以来、国家がソブリン AI 能力に投資することは、世界的にますます必須の取り組みになっています。生成 AI は市場を再形成し、ガバナンス モデルに一石を投じ、新しい産業を刺激しており、ゲーミングからバイオ医薬品に至るまでの産業に変革をもたらしています。また、仕事のあり方にも大きな変化をもたらしており、さまざまな分野の人々が、AI を搭載した「コパイロット」を使い始めています。

ソブリン AI には、物理インフラとデータ インフラという 2 つの面があり、後者にはソブリン基盤モデルが含まれます。ソブリン基盤モデルの例としては、特定の方言、文化、慣習への対応を強化できるよう現地のチームが開発して現地のデータセットでトレーニングさせた大規模言語モデル (LLM) などが挙げられます。

例えば、音声 AI モデルは、先住民言語の保護、振興、活性化に役立ちます。また、LLM は AI に人間の言語を教えるためだけでなく、プログラミング コードを作成する、金融詐欺から消費者を守る、ロボットに物理的スキルを教えるなど、さまざまな用途に使用されています。

さらに、気候変動との戦い、エネルギー効率の向上、サイバーセキュリティ脅威からの保護の手段として人工知能とアクセラレーテッド コンピューティングの重要性が高まる中、各国が持続可能性への取り組みを促進する体制を整える上でも、ソブリン AI は極めて重要な役割を担っています。

AI ファクトリーの重要性

AI の生産に不可欠な新しいインフラが、データが入力され、インテリジェンスが出力される「AI ファクトリー」です。AI ファクトリーは次世代のデータセンターであり、フルスタックの高度なアクセラレーテッド コンピューティング プラットフォームをホストすることにより、極めて計算量の多いタスクを処理します。

各国は自国内のコンピューティング能力の向上をさまざまなモデルで進めています。国有の通信事業者や公益事業会社と協力してソブリン AI クラウドを調達、運用している国もあれば、公共部門と民間部門で使用するための共有 AI コンピューティング プラットフォームを提供するために現地のクラウド パートナーを支援している国もあります。

NVIDIA の創業者/CEO であるジェンスン フアン (Jensen Huang) は最近、メディアからの質問に対し、「AI ファクトリーは世界中の現代経済の基盤になっていくでしょう」と答えています。

ソブリン AI の取り組みは進行中

世界中の国々がすでにソブリン AI に投資しています。

2019 年以来、NVIDIA の AI Nation イニシアティブは、地球上のあらゆる地域の国々が、エコシステムの実現や人材育成を含むソブリン AI 能力を構築できるよう支援し、エンジニア、開発者、科学者、起業家、クリエイター、公共部門の職員が、AI に関わる目標を自国で追求できる環境を作り出してきました。

iliad Group の子会社でフランスに本拠を置く Scaleway は、ヨーロッパで最も強力なクラウドネイティブ AI スーパーコンピューターの構築に取り組んでいます。その NVIDIA DGX SuperPOD は、127 台の DGX H100 システムで構成されおり、そこでは 1,016 基の NVIDIA H100 Tensor コア GPU が NVIDIA NVLink テクノロジと NVIDIA Quantum-2 InfiniBand プラットフォームによって相互接続されています。また NVIDIA DGX システムには、AI の開発と展開を安全かつ安定して行うことができサポートも付属している、NVIDIA AI Enterprise ソフトウェアも含まれています。

スイス政府が主要株主となっている Swisscom Group は最近、イタリアにある子会社の Fastweb がイタリア初の最も強力な NVIDIA DGX ベースのスーパーコンピューターを構築し、NVIDIA AI Enterprise ソフトウェアも使用して、イタリア語でネイティブに学習された初の LLM を開発すると発表しました。

Fastweb は、これらの NVIDIA テクノロジと独自のクラウドおよびサイバーセキュリティ インフラを利用して、イタリアの企業、行政機関、スタートアップ企業があらゆる業界向けの生成 AI アプリケーションを開発できるエンドツーエンドのシステムを立ち上げる予定です。

またインド政府も、人材開発と持続可能なコンピューティングを推進するとともに国内のコンピューティング能力に対する民間投資を促進する、ソブリン AI イニシアティブを発表しました。例えば、インドに本拠を置く Tata Group は、NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip を活用した大規模な AI インフラを構築しています。一方、Reliance Industries は、世界で最も人口の多いインドの多様な言語でトレーニングされた生成 AI 向けの基盤 LLM を開発する予定です。NVIDIA も、現地の研究者や開発者のコミュニティをサポートし拡大させるために、インドの一流大学と連携しています。

日本もソブリン AI に大いに注力しており、NVIDIA との協業のもと、人材のスキル向上や日本語モデル開発の支援のほか、自然災害対応や気候レジリエンスを実現する AI の導入拡大などに取り組んでいます。こうした取り組みには、ソフトバンク株式会社のような大手企業が NVIDIA と協業して 5G / 6G アプリケーション用の生成 AI プラットフォームや分散型 AI ファクトリーのネットワークを構築できるよう奨励する官民パートナーシップも含まれています。

そして最後に、シンガポールは NVIDIA と提携して国立スーパーコンピューター センター (NSCC) のコンピューターを NVIDIA H100 GPU でアップグレードするなど、さまざまなソブリン AI プログラムを進めています。さらに、東南アジア全域でエネルギー効率の高い AI ファクトリーを構築している大手通信サービス事業者 Singtel は、NVIDIA Hopper アーキテクチャ GPU と NVIDIA AI リファレンス アーキテクチャによる高速化を実現しています。

ソブリン AI とその変革的な可能性について、詳しくはこちらをお読みください。