さまざまな産業、スタートアップおよびクラウドサービス プロパイダーは、利益や生産性を生み出すため、ビッグデータや AI の計算要件が増加するにつれ、急速な変化に直面しています。
現在、AI は最も大きなテクノロジ フォースで、産業を変革させる可能性を最も秘めています。ヘルスケアや教育、自動車や小売り業および金融業界に新たなインテリジェンスをもたらし、何兆ドルもの新しいAI経済を作り出します。
2021 年のビジネスの未来を考えるにあたって、今こそ世界でどのように AI が採用されているか振り返る絶好の機会です。
Walmart や Tesco のような小売業者は、商品予測やサプライチェーン管理、インテリジェント ストアの導入および消費者の購買傾向の予測に AI を用いる機会を見つけ出しています。コロナ禍の現在、医療従事者たちは、研究やワクチン開発を加速させようとしています。
その一方で教育者たちは、データに精通した人材を育成するためにAI を活用しています。また多くの企業では、リモート ワークや遠隔地での共同作業にAIがどれほど役立つか検証しています。
しかしながら、世界の約 2,000 の企業を対象とした 2019 年の McKinsey の調査によると、AI を採用する主な企業は、大手テクノロジ企業や自動車メーカー、および小売業者に偏っており、それらは研究や開発に投資するというよりも自社の規模を広げようとしている企業です。
企業がビッグデータを解析して、新たな収益を得る機会を探す際に、AI によりどのような大きな変化が次に起きると考えているか NVIDIA のトップエキスパートに尋ねました。NVIDIA は AI に焦点を当てた数千ものスタートアップ企業や ISV、ハードウェア ベンダーおよびクラウド企業ならびに世界中のさまざまな企業や研究機関と連携しています。このように幅広く協業をしているので、どこで何が起こっているか俯瞰的に見ることができます。
以下がエクゼクティブの言葉です:
クレメント ファラベット (Clement Farabet)
NVIDIA、AI インフラストラクチャ バイスプレジデント
コンパイラとしての AI: AI トレーニングのアルゴリズムが速くなり、より安定し、ツールが豊富になるにつれて、AI はコンパイラと同等の存在になります。開発者は、データセットをコードとして用意し、AI を使ってモデルにコンパイルします。最終的には、ツールの構築およびプラットフォーム (通常のソフトウェアのツールのように) の大規模なエコシステムとなり、エキスパートでなくても AI を「プログラム」できるようになります。部分的には達成していますが、最終段階では、現状とはかなり異なるものだと考えています。何日間もトレーニングしなくても、数秒から数分でコンパイルできるようになることを考えてみてください。現在、Git を使ってコードを管理しているように、データを整理するのにとても効率的なツールを使うことができるようになるでしょう。
運転手としての AI: AI は、ほとんどの自動車が実世界を移動するのを支援し、環境や (人間の運転手の) コパイロットから継続的に学習して改善し、完全に独立した運転手になるまでの道のりを歩むことになるでしょう。その価値は現在もありますが、将来はさらに大きくなるでしょう。最終的な状態は、十分に安価なセンサープラットフォームに依拠するレベル 4 の自律走行車の商品化です。
ジョッシュ パターソン (Josh Patterson)
NVIDIA、RAPIDS 設計部門 シニア ディレクター
データサイエンティストの能力を高める: 非常に長い間、企業のデータサイエンティストは、データのサンプリング、もしくは製造前の開発だけを任されていました。データ エンジニアや機械学習エンジニアといった肩書きを持つ人々が、ワークフローをスケールして本番稼働へとつなげ、ときにはコードを Python から Java へと変換しています。2021 年には、データサイエンティストは RAPIDS や Dask、その他のオープンソースのデータ サイエンス ライブラリおよび NVIDIA GPU といったツールを使って、1 からスケールアップすることが可能になるでしょう。また膨大なデータをすばやく処理できるようになり、コード変換の必要性も劇的に減少します。Python で開発されたコードは、本番稼働可能で最適なものとなるでしょう。なぜならば、RAPIDS のコアとなる機能はCUDA C++ で実装されており、自然と演算が並列化されるからです。これにより、本番稼働に入る前に余計な作業(多くの場合は Python を Java に変換する作業)を行う必要がなくなります。NVIDIA のお客様の中にも、既にこれを実現されている企業があり、創薬やゲノミクスの速度を上げたり、HPC や金融の問題をすばやく解決したりしています。
データサイエンティストの需要の増加: データサイエンティストの能力が高まり、生産的になったら、彼らの多くは必要なくなるというのは一見すると矛盾しているかもしれません。しかし、その逆も実際に起こることです。企業は問題をより安価に、より早く解決できるようになると、競争上の優位性と収益の大幅な増加を求め、何年も先送りしにしてきた問題に取り組むことになるでしょう。
説明可能な AI: 金融や小売りといった業界が、より複雑なモデルを使い始めるにつれ、XAI ともいわれる説明可能な AIが必要となります。データサイエンティストは、社内の利害関係者に向けて、いくつかの要因に基づいてモデルが変化した理由を説明しなければいけなくなるでしょう。企業レベルで必要とされる XAI は、AI システムに対しての信頼を構築するのにも大いに役立つでしょう。
BlazingSQL が破壊者になる: オープンソースの GPU アクセラレーション データベース分析プラットフォームは、データサイエンスとエンタープライズ SQL の世界を橋渡しをするようになるでしょう。BlazingSQL を支える RAPIDS や Dask を用いる開発者の大部分は、企業出身です。彼らは無料で使えるオープンなエコシステムに価値と機能を追加し続けるでしょう。これにより、加速されたデータサイエンスに、相互運用性という新しい波が押し寄せることになるでしょう。
ブライアン カタンザロ (Bryan Catanzaro)
NVIDIA、応用ディープラーニング リサーチ バイスプレジデント
対話型AI: 今日のコンピュータの強力な PC グラフィックスカードや CPU を活用するように設計されたビデオゲームに関していうと、チャットボットは時代遅れに感じるかもしれません。しばらく前から AI は、特にNPC (ノンプレイヤーキャラクター) が応答したり、周りと適応した賢い行動をしたりするために使われています。対話型AI は、音声によるリアルタイムの対話を可能にし、キャラクター主導のアプローチを具現化させることで、ゲームプレイをさらに進化させるでしょう。ゲーム内の敵があなたと同じように話したり、考えたりし始めたら、気をつけてください。
マルチモーダル合成: バーチャル俳優がアカデミー賞を授賞することはできるでしょうか。AI がデータから音声と顔の表情を作成するマルチモーダル合成の進歩により、見た目も声もメリル ストリープ (Meryl Streep) やドウェイン ジョンソン (Dwayne Johnson) を忠実に再現したキャラクターを作ることができるようになるでしょう。
リモートワーク: AI ソリューションは、ビデオ通話や音声品質の改善や、自動文字起こし機能を通じて、在宅ワークをより簡単に、より確かなものに(そしてたぶん、より快適に)するでしょう。
アニマ アナンドクマー (Anima Anandkumar)
NVIDIA、ML リサーチ ディレクター兼カリフォルニア工科大学ブレン プロフェッサー
具体化された AI : 心と体が一体となりつつあります。ロボットがより複雑で多様なタスクを行えるようにトレーニングされるにつれて、より高い適応力と機敏性が得られるようになるでしょう。実データの不足という問題を乗り越えるためには、忠実度が高いシミュレーションの果たす役割はとても重要です。
科学における AI : AI は大規模な科学アプリケーションに統合され続けていくでしょう。速度を 1000 倍にするために、最終的には従来のソルバーやパイプラインは、完全に AI に置き換わります。このためにはディープラーニングにドメイン固有の知識と制約を組み合わせることが必要になるでしょう。
アリソン ラウンズ (Alison Lowndes)
NVIDIA、人工知能 デベロッパー リレーション
民主化された AI: より多くの人がデータセットにアクセスし、データの発掘法を身につけたら、さらなる革新がなされるでしょう。国家は AI 戦略を強化し始め、その一方で大学は民間企業と連携してより多くのエンドユーザー向けのモバイル アプリケーションや、科学的ブレイクスルーを生み出すようになるでしょう。
シミュレーション AI: AI は何を考えるでしょうか。AI をベースとしたシミュレーションは、さらに人間の知能を模倣し、論理的に考えたり、問題を解決したり、意志決定したりできるようになります。AI の研究、デザインやエンジニアリングでの活用が増えることが予想されます。
地球保護のための AI (AI4EO): 世界は小さいかもしれませんが、母なる地球に関して私たちがまだ知らないことがたくさんあります。世界規模の AI フレームワークは、軌道内および地上の衛星データをリアルタイムでないにせよ、すばやく処理し、実用的な知識を得ることができます。それにより、気候変動や災害対応、生物の多様性の損失などに対する新しい監視ソリューションを作ることができるかもしれません。
キンバリー パウエル (Kimberly Powell)
NVIDIA ヘルスケア バイスプレジデント兼ジェネラル マネージャー
フェデレーテッド ラーニング : 臨床の現場では、様々な機関や地域、患者の統計および医療スキャナーにまたがる堅牢な AI モデルを構築するためにフェデレーテッド ラーニングのアプローチの活用が増えていくでしょう。これらのモデルの感度や選択性は、膨大なトレーニング データがある場合でも、単一の機関で構築された AI モデルより優れています。加えて、研究者は患者の個人情報を共有することなく、AI モデルの作成を他者と共同で行うことができます。フェデレーテッド ラーニングは小児学や稀な疾患など、データが不足している分野において、AI モデルを構築するのにも役立ちます。
AI による創薬: COVID-19の世界的流行により、創薬にスポットライトが当たりました。それには、顕微鏡での分子やタンパク質の観察や何百万もの化学構造の分類、インシリコ スクリーニング、タンパク質とリガンドの相互作用、ゲノム分析および構造化されたソースや非構造化されたソースからのデータ収集を含みます。医薬品の開発には 通常10 年以上かかります。しかし、COVID-19の発生により、製薬会社やバイオテクノロジ企業、および研究者は、従来方法の迅速化が最も重要だと感じています。新しく作られたAI を活用した開発ラボには、GPU アクセラレーションや AI モデルが実装されており、洞察の時間を短縮するコンピューティング タイム マシンが作られるでしょう。
スマート ホスピタル: これほどまでにスマート ホスピタルが緊急で必要になったことは今までにありません。家庭での体験と同じように、スマート スピーカーやスマート カメラが自動化と通知に役立っています。病院でその技術が使われると、最前線の看護師の仕事の調整や作業効率の向上および患者に悪影響を及ぼす出来事の予知や予防をするためのバーチャルでのモニタリングに役立ちます。
チャーリー ボイル(Charlie Boyle)
NVIDIA、DGX システムズ バイスプレジデント兼ジェネラル マネージャー
シャドウ AI : もしデータサイエンス チームが、独自の AI プラットフォームおよびインフラストラクチャを IT部門の関与なしに実装するなら、組織全体で AI を管理することが社内での重要な課題となるでしょう。シャドウ AI を回避するためには、企業がインフラストラクチャやツールよびワークフローへの IT アプローチを一元化させる必要がありますが、最終的には AI アプリケーションの展開をより迅速に成功させることができます。
AI CoE (Center of Excellence): 企業は過去 10 年間、高給のデータサイエンティストを獲得するのに奮闘していますが、データサイエンティストの生産性は、支えとなるインフラストラクチャの不足のせいで、予想よりも下回っています。より多くの組織が、スーパーコンピュータ規模で一元管理された、共有するインフラストラクチャを構築することで AI への投資をすばやく回収できるでしょう。これにより、データサイエンスの人材育成とスケーリング、ベストプラクティスの共有が容易になり、複雑な AI 問題の解決を加速することができるでしょう。
ハイブリッド インフラストラクチャ: IoTにより、意志決定者はさまざまな AI を採用し、パブリック クラウド (AWS、Azure、Oracle Cloud、Google Cloud) やプライベート クラウド (オンプレミスのサーバー) を使い、より速く (業界用語で言うと、より低いレイテンシで) アプリケーションを顧客やパートナーに向けて展開できるようになります。その一方、ネットワークで共有する機密データの量を減らすことで、セキュリティの管理を行っています。政府が、個人情報の使用を管理する厳しいデータ保護法を採択するようにあると、ハイブリッドなアプローチはより普及するでしょう。
ケヴィン ディアリング(Kevin Deierling)
NVIDIA、ネットワーキング シニア バイスプレジデント
データセンター内の変化を加速する: セキュリティや管理機能は、CPU から GPU や SmartNIC、およびプログラマブルなデータ プロセッシング ユニットにオフロードされるでしょう。すべてのエンタープライズ ワークロードに拡張されたアプリケーション高速化を提供し、またセキュリティにさらなるレイヤーを追加します。仮想化やスケーラビリティはより速くなり、その一方で CPU は、アプリケーションをより速く実行し、加速されたサービスを提供します。
AI as a Service: 経済的な理由であれ何であれ、AI を投入するのに時間やリソースを費やすのに消極的な企業は、実験のためにサードパーティーのプロバイダーに目を向け始めるでしょう。AI プラットフォーム企業やスタートアップは、ソフトウェアやインフラストラクチャおよび潜在的なパートナーへのアクセスを提供することで、重要なパートナーとなるでしょう。
5G による変革: 企業は「エッジ」とは何か定義し始めるでしょう。自律走行は、実質的には車に搭載されたデータセンターで AI が瞬時に意志決定するのを可能にし、トレーニングのために報告することができるようになります。倉庫や職場のロボットに関しても同じことが言えます。それらは結果をエッジで学習し、コアでトレーニングを行います。4G が Lyft や Uber で交通機関の姿を変えたように、5G は取引や能力に変革をもたらすでしょう。すべてが一度には実現できるわけではありませんが、AI や 5G および新しいコンピューティング プラットフォームの融合を活用しようと模索する企業の動きが見えてくるでしょう。
サーニャ フィドラー(Sanja Fidler)
NVIDIA、AI ディレクター兼Vector Institute for Artificial Intelligence教授
3D コンテンツ制作のための AI: AI は平凡な作業を減らし、創造性を高めるスマートなツールを提供し、コンテンツ制作のプロセスに革命を起こすでしょう。特に建築やゲーム、映画や VR/AR に使う 3D コンテンツを作るのは非常に手間のかかる作業です。たとえば『Call of Duty』のようなゲームの制作には、何百人という人が制作に携わり、何百万ドルというお金がかけられても、最低でも 1 年はかかります。
AI を使えば、言葉で説明するだけで仮想都市を作ったり、動作をハード コーディングしなくても、仮想キャラクターが生き生きと会話したり、好きなように行動させたりできるようになるでしょう。3D のアセットを作成するのは、写真を撮るのと同じくらいに簡単になり、たった 1 回のクリックで、古いゲームを現代的にしたり、スタイルを変更したりできるようになるでしょう。
ロボットのシミュレーションのための AI: シミュレーションされた環境でロボットをテストすることは、自動運転車や作業用ロボットのように安全性が必須のアプリケーションにとって大切なことです。ディープラーニングにより、データから世界を模倣することを学習し、3D 環境の作成、さまざまな動作のシミュレーション、新しい道路もしくは新しく観測された道路のシミュレーションもしくは再シミュレーションおよびセンサーのシミュレーションといったものがより現実に近づき、シミュレーションが次のレベルに引き上がるでしょう。
改革の機会
これらのいくつか、もしくはすべてのタスクを達成するためには、組織内の調整をより迅速に行う必要があります。McKinsey の調査では、大規模の AI を採用していると答えた企業の 72% は、AI 戦略が企業の戦略と一致していると回答しているのに対し、大規模の AI をまだ採用していない企業の回答は29%でした。同様に、大規模の AI を採用している企業の 65% は、AI をサポートし、可能にする明確なデータ戦略があると回答していますが、大規模の AI をまだ採用していない企業の回答は20%でした。
世界的なパンデミックにより不安定な世界となっていますが、2021 年は大小様々な企業がAI を活用し、ビジネス モデルを改善させる、改革の年になるでしょう。早期の結果が十分に有望であることが証明されれば、より多くの会社がAI を運用することになるでしょう。