NVIDIA のキンバリー パウエルが J.P. Morgan ヘルスケア カンファレンスにて、医学的発見および医療業務が AI やアクセラレーテッド コンピューティングによっていかに発展しているかを説明
「私たちは創薬および医学において、AI によって加速された新時代を切り拓いていくための極めて重要な局面を迎えています」こう話すのは、NVIDIAのヘルスケア担当バイス プレジデントであるキンバリー パウエル (Kimberly Powell) です。
パウエルは今月、オンラインで開催されたJ.P. Morgan ヘルスケア カンファレンスで講演を行いました。その中で、今、AIやアクセラレーテッド コンピューティングによって科学者は急増するバイオメディカル データを活用できるようになり、さらに飛躍的スピードで研究が進歩し患者ケアを改善できるようになったことについて概説しました。
疾患を理解して治療法を発見することは、人類にとって最も努力を要することである、と彼女は言います。ですが、創薬にかかわるコストは今や数兆ドル規模に及ぶため、それがどれほど困難なことであるか想像に難くありません。
AI が創薬コストを削減する仕組み
一般的に創薬プロセスは、約 10 年の期間と、20 億ドルのコストがかかり、臨床開発中の失敗率は 90% であると言われています。しかし近年、ヘルスケアにおいてデジタル データが台頭してきており、AI を使用してこれらの数字が改善される可能性が出てきました。
パウエルはこう言います。「これまでのヘルスケアの歴史300年間において培われたデータ量よりも、現在約 3 か月間で生成できるデータ量の方が多いのです。そのため、もはや人間が実際に取り扱うことができるデータ量のレベルを超えているという問題が起きつつあります。ですから、人工知能が必要になってきます。」
パウエルは AI について、「私たちの時代の最も強力なテクノロジであり、人間が書くことのできないソフトウェアを書けるソフトウェア」であると述べています。
ただし AI は、放射線医学、病理学、患者モニタリングといった特定の分野に合わせてデータやアルゴリズムを組み合わせた、特定の領域に特化した場合に最大限に機能します。NVIDIA Clara アプリケーション フレームワークでは、臨床画像処理、ゲノミクス、創薬、スマート ホスピタルにおいて GPU で高速化する AI ツールを研究者や臨床医に提供することで、このギャップを解消しています。
NVIDIA Clara のダウンロード数は昨年 5 倍に増加し、開発者は対話型 AI やフェデレーテッド ラーニング向けのNVIDIAの新しいプラットフォームを採用している、とパウエルは述べます。
AI を中心としたヘルスケア エコシステム
COVID-19 のパンデミックの中でヘルスケア向けの AI を取り巻く勢いが加速し、2020 年にスタートアップ企業は 50 億ドルをはるかに超える資金を調達したと推定されています、と彼女は指摘しています。NVIDIA Inception アクセラレータ プログラムに参加しているヘルスケア スタートアップ企業は1,000社を超えており、2017 年と比べて 4 倍に増加しています。また、PubMed に提出された論文の中で AI 関連のヘルスケアを扱った論文は昨年だけで 20,000 件を超え、この 10 年間で急増しています。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校などの大手研究機関は NVIDIA GPU を使用して、COVID-19 ウイルスのスパイク タンパク質などの分子構造研究に使用されている低温電子顕微鏡法の研究を進め医薬品やワクチンの発見を加速させています。
また、GlaxoSmithKline などの製薬会社や、英国の国民保健サービスなどの大手医療システムは、NVIDIA DGX SuperPODを採用した英国最速のAIスーパーコンピューターであるCambridge-1 スーパーコンピューターシステムを利用して、大規模な問題の解決や、患者ケアの改善、重要な医薬品およびワクチンの診断、提供を行っていく予定です。
ソフトウェア デファインドの機器が AI イノベーションと医療業務をつなぐ
ソフトウェア デファインドの機器 (定期的にアップデートすることにより最新の科学的理解と AI アルゴリズムが反映されるデバイス) が、最新研究の進歩と医療現場とを結び付ける鍵である、とパウエルは考えています。
「医療現場と同じく、人工知能は常に学習しています。私たちはデータから学ぶこと、変化を続ける環境から学ぶことを望んでいます。」
「医療機器をソフトウェア デファインドにすることで、患者モニタリング用のスマートカメラや AI による超音波システムといったツールを一から開発できるだけでなく、その価値を維持し、継続的に改善していくことができます。」
英国を拠点とするシーケンシング会社である Oxford Nanopore Technologies は、ソフトウェア デファインドの機器におけるトップ企業であり、電子機器ベースのプラットフォーム全体に新世代の DNA シーケンシング テクノロジを展開しています。同社のナノポア シーケンシング デバイスは 50 か国以上で使用されており、がんの生物学の研究に使用する大規模なゲノム解析だけでなく、COVID-19 を引き起こすウイルスの新たな変異種のシーケンシングや追跡も可能です。
同社では、ハンドヘルド MinION Mk1C デバイスから、1 回の操作でヒトゲノムの3倍以上に相当するシークエンスデータを生成できる超ハイ スループットの PromethION まで、複数の機器に NVIDIA GPU を搭載しています。次世代の PromethION を強化するために、 Oxford Nanopore は NVIDIA DGX Station を採用しました。これにより、同社のリアルタイム シーケンス テクノロジを迅速で高精度のゲノム解析と合わせることができます。
同社は何年もの間、ナノポア (ナノメートル単位の穴) を通過する小さな電気信号から分子の DNA 塩基配列を決定するプロセスである、ベースコールの精度を向上させるために AI を使用してきました。
COVID-19に関する疫学においても、もしくはヒト遺伝学およびロング リード シーケンシングにおいても、この技術は「実に医療現場に関連している」とパウエル氏は言います。「ディープラーニングを通じて、同社のベースコール モデルは総じて 98.3% の精度に達することができ、AI 駆動の一塩基バリアントのコールは 99.9% の精度に到達しています。」
AI を活用したヘルスケアが今後辿る道
上記のような AI による画期的な進歩は、パンデミックの中でその重要性がますます高まっている、とパウエルは述べます。
「2020 年は、COVID-19 という 1 つの問題に対してとてつもなく AI が利用された年でした。このことから私たちは、人工知能が利益をもたらすあらゆることを残さず知ることができたように思います。この 12 か月間に私たちが発見したことが、今後の私たちをさらに前進させてくれます。私たちが学んだことはすべて、現在進行中のあらゆる創薬プログラムに今後適用することができるのです。」
ゲノム分析、コンピューティングによる創薬、臨床診断などさまざまな分野において、ヘルスケア業界の大手企業は GPU によって高速化された AI を利用して進歩を遂げています。
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