インテリジェントな車載 AI が移動手段を変える
『ナイトライダー』の「KITT (キット)」や『アイアンマン』の「JARVIS (ジャービス)」など、インテリジェント コクピットは近未来的ポップ カルチャーにおいて不可欠な要素を担ってきました。
そして今、AI やハイパフォーマンス プロセッサの進歩が、このような SF の概念を現実のものに変えようとしています。とはいえ、AI コクピットとはいったいどのようなものでしょうか。また、AI コクピットによって私たちの移動手段はどのように変わるのでしょうか。
輸送業界では、AI によって幅広いソフトウェアデファインドの車載機能が実現されようとしています。セントラル化されたハイパフォーマンス コンピューティングを利用することで、自動車メーカーは時間と共に賢くなっていく車を開発できるようになりました。
通常、車両のコクピットには、オーディオやビデオの電源を入れたり、温度を調整したりといった基本的機能を操作するためのスイッチや電子制御装置がつきものですが、これらの要素を NVIDIA DRIVE AGX などの AI プラットフォームに集約することで、構造がシンプルになると同時に、新たな機能を加えるための余裕が生まれます。さらに、NVIDIA DRIVE IX が提供するオープンで拡張性の高いソフトウェア フレームワークによって、ソフトウェアデファインドによるコクピット体験を提供します。
Mercedes-Benz は、NVIDIA のテクノロジを利用した初のインテリジェント コクピット、MBUX AI システムを 2018 年にリリースしました。このシステムは現在、20 を超える Mercedes-Benz モデルに展開されており、近日発表される S クラスでは第 2 世代がデビューする予定です。
MBUX をはじめとするAI コクピットは、安全性と利便性をもたらす不可欠な機能を従来の車両構造よりもはるかにスムーズに統合できます。コンピューティングをセントラル化して機能を合理化するだけでなく、絶えず学習を続け、新機能を定期的に拡充することで、車両の生涯にわたり所有する喜びを継続させることができます。
常に警戒を怠らない
もっとも、車両に AI を搭載する一番のメリットは安全性です。AI は車両を取り巻く 360 度の環境に対するもう一組の目のはたらきをするとともに、車内のドライバーや乗員を守るインテリジェントなガーディアン(守護神)の役割を果たします。
ドライバーモニタリングはその重要な機能の 1 つです。車両における運転機能の自動化がますます普及する中、ハンドルを握る人が警戒を怠らず注意を払っていることを確認する機能が極めて重要になっています。
AI を利用したドライバーの監視では、車内に向けられたカメラを使用することで、ドライバーの動作や、頭の位置、顔の動きなどを追跡して、ドライバーが注意を払っているか、眠気を催していたり、注意散漫になっていたりしないかどうかを分析できます。道路に注意を戻すために、システムがドライバーに警告を発する機能もあります。
このシステムは、車両の中や外にいる人の安全を守り、警戒を呼び掛ける場合にも役立ちます。車から降りようとする乗員を感知した際に、車外に搭載されたセンサーで外の環境を確認することで、AI が開くドアにぶつかる可能性のある対向車や歩行者、自転車への注意を促すことができます。
緊急時にはガーディアン(守護神)としての役割も果たします。乗員がしっかりと席に着いていない場合は、かえって乗員を傷つける可能性が高いためエアバッグが展開しないようにしたり、車内に取り残され熱中症にかかったりしないように、AIが子どもやペットを検知する機能なども挙げられます。
AI コクピットは常に車内の乗員に目を光らせて、車両をくまなく監視することで安全のレベルをさらに引き上げ、乗員が更に移動を楽しめるようにします。
日常の利便性を提供
安全性のほかにも、AI は日常の運転を楽しく、快適なものにする上でも役立ちます。
非常に明確なグラフィックによって、ドライバーは走行経路に関する情報や、車載センサーが検出している状況を素早く簡単に確認できます。車両の周辺環境を示す拡張現実ヘッドアップ ディスプレイや、仮想現実ビューによって、ドライバーの視線を妨げずにもっとも重要なデータ (駐車支援、方向、速度、向かってくる障害物などの情報) が提供されます。
こうした可視化機能により、ドライバーは運転支援システムを信頼し、その機能や制約を正しく理解し、その結果、より安全で効果的な運転体験につながります。
また、自然言語処理を使用することで、ドライバーは道路から目を離さずに車の設定や制御を行えます。対話型 AI によって、経路上で一番人気の喫茶店や寿司屋を見つけるなど、検索機能がより利用しやすくなります。また、ドライバーの注意を監視するのと同じシステムが、ジェスチャー認識による制御を行うことも可能です。これは、ドライバーが視線をそらさずにコクピットと対話できるもう 1 つの手段となります。
これらのテクノロジは、運転体験をパーソナライズする際にも役立ちます。ユーザーの生体認証や音声認識を利用することで、車両が運転している人物を特定し、それに応じて設定や嗜好を調整することが可能になります。
AI コクピットを取り入れるモデルは年々増え続けています。その結果、安全性が高まり、スマート化が進むとともに、新機能が絶えず追加されています。優れたパフォーマンスとエネルギー効率を備えた AI コンピューティング プラットフォームによって車載システムを一元化された構造に集約することで、オープンな NVIDIA DRIVE IX ソフトウェア プラットフォームは将来のコクピット ニーズに対応できるようになります。
かつては非現実的なフィクションだったものが、日常の運転の一部となる日も近いでしょう。