クラウド サービスと GPU に支えられ、対話型 AI やレコメンデーション システムが増加中。
金融テクノロジにおける AI をテーマにした討論会は、今月ニューヨークで中止となった多くのイベントのひとつですが、議題に関するパネリストの楽観が消えることはありませんでした。
いわゆるフィンテックの 3 企業が、それぞれ AI を使ってどのようにカスタマー サポートを強化したり、融資を受ける手続きを高速化したりしているかについて語りました。金融の未来を開く鍵と見られているのは、対話型 AI やレコメンデーション システムなどの技術です。
Enigma の最高責任者であるヒシャム オウジリ (Hicham Oudghiri) 氏は次のように述べています。「経済を素早く再起動させるには、中小企業への融資を審査し、不正がないことを確認し、経済の 44% にあたるこのセクターの概観を提供しなければなりません」
Enigma は、AI を使ってそのような企業の約 3,000 万社に関するデータベースを精製し、同社の顧客にその情報へのオンラインアクセスを提供して、融資の手続きなどの仕事を高速化できるようにしています。このサービスは、American Express や PayPal をはじめ、Fortune 500 に含まれる十数社をも魅了しています。
オウジリ氏は述べています。「私たちは中小企業に関するグラウンド トゥルースを提供するというビジネスをしています。おそらく最も打撃を被ることになるのはこの部門です。融資を受けてビジネスの急場をしのげるようにするという救済策を超えて、これらのビジネスをどのように行うかが、きわめて重要になるでしょう」
AI で書類業務を削減
一方 Ocrolus は、自然言語処理 (NLP) を使って、融資手続きの文書、領収書、新しい口座などを分析し、Behalf や BlueVine などの企業にサービスを提供しています。
今回の危機は、このように時間のかかるタスクを AI が高速化することで得られる価値を思い出させてくれる、と Ocrolus の CTO であるピーター ネル (Pieter Nel) 氏は言います。「今回のことで、ビジネスにとって重要なタスクの自動化が加速するのではないかと予想しています。ますます多くの人が在宅で仕事をするようになる中、それは避けられません」
同社はコンピューター ビジョンと NLP のアルゴリズムを human-in-the-loop (人間参加型) 検証と組み合わせて実装し、財務書類を解釈して実用的な洞察を提供しています。現在目指しているのは、ここ数年でテキストを人間のように読解できることを示してきた複雑な BERT モデルの活用です。
「NLP の最新技術には力を入れて取り組んでいます」とネル氏は語っています。
良い AI による良いアドバイス
NVIDIA でフィンテック担当の産業リーダーを務めるケビン レビット (Kevin Levitt) は次のように述べています。「多くの従来型のカスタマー サービスに人が殺到する中、NerdWallet のような企業のレコメンデーション システムと対話型 AI は、最も打撃を被った消費者がより良い金銭的決定を下せるよう支援するでしょう」
NerdWallet は、AI と、一流ライターによる消費者金融関連のコンテンツを組み合わせて、毎月 1,000 万人以上のユーザーに、クレジットカードや住宅ローン金利で最良の選択ができるよう個別のガイダンスを提供しています。
NerdWallet のシニア エンジニアリング マネージャーで、同社のレコメンデーション システムを支えるチームを主導するライアン カークマン (Ryan Kirkman) 氏は次のように述べています。「ユーザーの金銭的生活を向上させることは、私にとって活気が出る使命です」
数年前、このオーストラリア生まれのソフトウェア エンジニアがスタートアップ コミュニティに参加するためサンフランシスコに引っ越してきたとき、そのようなサービスはありませんでした。「初めて米国でクレジットカードを申請したとき、信用格付けは良かったのに落とされてしまったんです。いい気持ちはしませんでしたね」
AI で経済の回復を加速
Amazon Web Services (AWS) でフィンテック スタートアップ ビジネス開発の責任者を務めるキャスリン バン ナイズ (Kathryn Van Nuys) 氏は次のように述べています。「AI は、ビジネスをより効率的に支援し、顧客に効果的なサービスを提供するのに役立ち、どんなときもそれが重要です」
融資の手続きと不正の検出は、金融部門における AI の初期のユースケースでした。今では、Enigma、NerdWallet、Ocrolus のほかに、Kasisto、nCino、Personetics などのフィンテックも、レコメンデーション システムや対話型 AI を採用しています。
AWS サービス上で動く、(NVIDIA GPU を搭載していることも多い) SageMaker のような技術は、金融関連の支援やカスタマー サポートをパーソナライズして顧客体験を向上させます。しかしそれは、ファイナンス分野の AI で可能になるとナイズ氏が考えている広範な変革の、ほんの始まりにすぎません。
中国最大の保険会社である中国平安は、すでに保険の販売に対話型 AI を使用していると、NVIDIA でフィンテック デベロッパー リレーションズの責任者を務めるアレックス チー (Alex Qi) は指摘します。チーによれば、「対話相手の気分や感情を正確に測定するには多くのインテリジェンスが求められる」ため、アプリは要件の厳しいものになるそうです。
とはいえ、AI は大規模なパーソナライゼーションという新たな段階を約束します。NerdWallet のカークマン氏は言っています。「人間に、すべての顧客を十分に理解して個別にガイダンスを提供するよう求めるのは困難ですが、AI ならそのガイダンスを提供できるのです」
GPU 付きの豊富なパフォーマンスを好きなときに
McKinsey で以前 AI アナリストを務めた Ocrolus のネル氏は、AI を導入する企業は従来 3 つの困難に直面すると語ります。一流のデータ サイエンティストを雇うこと、ラベル付けされた大規模なデータセットにアクセスできること、十分な処理能力を持つコンピューターを確保すること、の 3 つです。
最後の点はほぼ解消されていると語るのは、Amazon SageMaker、Redshift、ECS、その他の AWS サービスを利用している NerdWallet のカークマン氏です。
「2008 年、IBM はペタスケールのスーパーコンピューターである Roadrunner を、1 億ドルで作りました。今日、私は GPU を搭載した AWS の 1 ペタフロップスを、好きなときに 1 時間 34 ドルで借りることができます。こうしたコンピューティングの進化には本当に驚かされます」
多くのフィンテック企業が、最も要求の厳しいジョブの実行には、NVIDIA V100 や AWS サービスで利用できる T4 Tensor コア GPU を頼りにしていると述べています。
NerdWallet と同じく、Enigma も AI コンピューティングのすべてを AWS に依存しています。オウジリ氏は言います。「AWS でそのまま使える機能のおかげで、気恥ずかしくなるほどインフラストラクチャの構築が簡単なのです」