NVIDIA GPU Cloud コンテナーが低コストの超音波テクノロジの普及を目指す研究を加速
ヴィクシット クマール (Viksit Kumar) 氏の母親が卵巣がんに侵されていることが判明したのは、「ステージ 3」と呼ばれる段階。化学療法の効果を期待するにはもはや手遅れの状態でした。
母親は 2006 年にインドのムンバイにある病院で亡くなりましたが、早期にがんが見つかっていれば何年も長生きできた可能性がありました。
機械工学専攻の学生だったクマール氏はそれを知って苦悩し、別の道に進むことを決意します。
「私が医療分野を志すようになった理由の 1 つです」と、現在ミネソタ州ロチェスターの Mayo Clinic で上級研究員を務める同氏は言います。母親の死をきっかけに始めた研究を人の命をつなぐことに役立てたいというのが彼の願いです。
同氏はここ数年、GPU を利用したディープラーニングによって超音波画像に基づく早期がん診断の精度を高める研究の先頭に立ってきました。
この研究は (卵巣がんよりもはるかに一般的で、資金を調達しやすい) 乳がんを対象とし、マンモグラムが普及していない発展途上国での早期診断を実現することを主眼としたものでした。
ディープラーニングの真価に迫る
クマール氏がこの研究に着手したのは、Mayo Clinic のスタッフになってすぐのことです。当初は超音波画像による早産時の合併症診断の研究に取り組んでいましたが、超音波が別の物体をとらえていることに気付いた同氏は、乳がんの画像分類に役立つ可能性があると考えました。
この問題を追求するなかでディープラーニングが適しているという推論に至るものの、当時のクマール氏はディープラーニングに関する知識をほとんど持ち合わせていませんでした。そこで、知識を深めるため、ディープラーニング モデルの構築と操作について 6 か月以上にわたりひたすら独学を進めました。
「学習を投げ出さなかったのは、それが真の救済策となり得るツールだったからです」と同氏。
そして、救済策は実際に必要とされています。乳がんはごく一般的ながんの一種で、比較的発見しやすいがんでもありますが、発展途上国では、主にコストの関係上、マンモグラム撮影装置を大都市以外で見つけることは困難です。多くの場合、医療提供者は保守的な方法を取り、不要な生検を行うことになります。
一方、超音波なら遠隔地の施設にとってはるかに低コストな選択肢となり、ひいては大都市でのマンモグラム検診を紹介される女性の増加も見込まれます。
また、40 歳以上のほとんどの女性が定期的にマンモグラム検診を受ける先進国でも、超音波は妊婦や妊娠を予定している女性のほか、マンモグラムの X 線検査を受けられない女性を診断するうえで重要な役割を果たすことが期待できる、とクマール氏は言います。
手動で引かれたがん腫の境界線が赤線、ディープラーニングによって予測された境界線が青、緑、青緑の各線で示されています。(写真提供: © 2018 Kumar et al.、クリエイティブ コモンズ帰属ライセンス)
常に上を目指して
クマール氏にとって、ディープラーニング ツールは驚くべき発展を遂げています。かつては 2 ~ 3 日かかっていたディープラーニング システムの構成が、今では数時間あればできるのです。
同氏のチームは、NVIDIA GPU Cloud (NGC) の TensorFlow ディープラーニング フレームワーク コンテナーを利用して、NVIDIA TITAN と GeForce GPU 上でローカル処理を行っています。きわめて負荷の高い処理については、NGC の同じコンテナーを使って Amazon Web Services の NVIDIA Tesla V100 GPU に処理が移されます。
NGC コンテナーは、オンプレミスとクラウドの NVIDIA Volta アーキテクチャ GPU や Pascal アーキテクチャ GPU で最高のパフォーマンスを引き出せるよう最適化されており、GPU アクセラレーテッド ソフトウェアの実行に必要な機能をすべて備えています。両環境で同じコンテナーを使用するため、コンピューティング リソースさえあればどこででも作業を行うことができます。
「アーキテクチャを開発したら、プロセスを繰り返したいときに AWS にアクセスします」と言うクマール氏は、高度な GPU をより多く採用することで、大規模な作業をローカルで処理するよりも作業が 8 倍以上高速化されると見積もります。
チームは現在、同じ GPU でトレーニングと推論を行っていますが、同氏は超音波装置で推論をライブ モードで行えるようにしたいと言います。
さらなる進化へ
クマール氏は、来年中にも患者に対する臨床試験にこの手法を採用することを目指しています。
そしてゆくゆくは、チームの研究によって、卵巣がんはもちろんのこと、甲状腺がんなど他のがんの早期発見にも超音波画像を利用できるようにしたいと考えています。
自身の研究と同じくらい革新的なクマール氏ですが、医療分野への AI とディープラーニングの応用に関しては忍耐を呼びかけ、「放射線科医や音波検査者に臨床上の標準として受け入れられるようになるには、テクノロジとして成熟する必要がある」と述べています。
クマール氏の研究のような取り組みがその進化に役立っていることは間違いありません。
乳がんに関するクマール氏の研究については、論文「Automated and real-time segmentation of suspicious breast masses using convolutional neural network」をご覧ください。