世界最大の自動車部品メーカーである Bosch は 3 月 17 日、NVIDIA の CEO であるジェンスン・フアン (Jen-Hsun Huang) のために、自動運転車向けの新しい AI プラットフォームを華々しく紹介する場を用意しました。
フアンは、ベルリンの中心で、IoT 専門の年次カンファレンスである Bosch コネクテッド ワールドに集まった数千人の観衆を前に、ディープラーニングが自動車業界において、いかに AI 革命を巻き起こしているかを詳しく語りました。
その前日、Bosch の CEO であるフォルクマル・デナー (Volkmar Denner) 博士によるオープニングの基調講演において、小型の AI カー スーパーコンピューターが発表されました。博士は、昨年 730 億ユーロ (776 億ドル) の収益を上げた Bosch が、センサー、ソフトウェア、およびサービスの分野でいかに攻勢をかけているかを強調しました。
フアンは、エキシビション センターのメイン シアターにおいて、以下のように述べました。
「世界をリードするティア 1 自動車サプライヤー、それも世界中の全自動車メーカーを支える唯一のティア 1 が、量産車市場向けの AI カー コンピューターを開発していることを発表できて非常に光栄です。」
Bosch のモビリティー ソリューション担当役員であるディルク・ホーアイゼル (Dirk Hoheisel) 博士は、「この業界の向かう先、この戦略の向かう先を考えると胸が躍ります」と述べました。
Xavier テクノロジを初採用
Bosch とのコラボレーションを象徴するのは、NVIDIA の次期 Xavier テクノロジを搭載する DRIVE PX プラットフォームが初めて発表されたことです。Xavier は、1 秒間に最大 30 兆回のディープラーニング演算を処理可能であると同時に、消費電力をわずか 30W に抑えています。
この性能は、自動車が人間の介入なしに自ら運転可能である「レベル 4 の自律性」と自動車業界が呼ぶレベルを実現するために必要です。さまざまなレベルの自律性を備えた自動車の数は、2025 年までに全体で 1 億 5,000 万台に達するとアナリストは予測しています。
NVIDIA のフアンは、今年末までにレベル 3 の自律能力 (自動車が自ら運転可能であるが、さまざまな状況でドライバーの介入が必要) を、2018 年末までにレベル 4 の自律能力を実現するテクノロジを提供する計画であると語りました。
また、Audi、Ford、BMW といった従来の自動車メーカーから、Tesla のような新規参入企業、さらには Waymo、Uber、Baidu のような技術革新企業に至るまで、さまざまな主要ブランドが自律ソリューションに取り組んでいるとフアンは指摘しました。
自動運転がもたらす極度の複雑性のため、そうした自動車には、かつてないレベルのコンピューティング パワーが必要です。フアンは基調講演の中で、路上で起こり得るほぼ無限の事態を予期してソフトウェアをコーディングすることは恐らく不可能であると述べました。
そうした事態の例は、車線から外れる車両、路上の落下物、天候状況の急激な変化、道路を横切る鹿など、枚挙にいとまがありません。前方の車両を検知し、必要に応じてブレーキを作動させることが可能な自動車はすでに実用化されていますが、自律運転の要件は格段に厳しいとフアンは言います。
それに対し、ディープラーニングなら、自動車に運転のトレーニングを行い、最終的に人間がハンドルを握る場合よりもはるかにうまく、しかも安全に運転できるようにすることが可能です。
「当社は、自律走行車に向けたロードマップを実際に推進し、エンド ツー エンドのディープラーニング ソリューションの開発に全力を傾けてきました。現在、ディープラーニングを利用するほぼすべての人が当社のプラットフォームを使用しています」とフアンは語りました。
フアンは、NVIDIA が AI 革命の柱の 1 つとなることができた背景には、5 年前に始まり、数千人年に及ぶエンジニアリングの努力に支えられた大々的な取り組みがあると話しました。また、すべての主要クラウド サービス プロバイダー、世界中の研究者、そしてほぼすべての分野の幅広い企業との協力もあります。
AI パイプラインを高速化
ディープラーニングは、自動運転車が経験に基づいて次第に賢くなることを可能にするための計算パイプライン全体にわたり、極めて重要な役割を果たします。これには以下が含まれます。
- 検知 – 車両周囲の環境の理解
- 自己位置特定 – 理解した内容に基づく詳細なローカル マップの作成
- 占有グリッド – 車両周囲のリアルタイム 3D 環境の構築
- 経路計画 – マップした経路に沿った進路の決定
- 車両力学 – スムーズに運転する方法の計算
カメラ、レーダー、LIDAR、超音波をはじめ、さまざまな車載センサーから流れてくる大量のデータの意味を理解するために必要な処理能力を考えてみてください。そこで欠かせないのがディープラーニングです。NVIDIA DRIVE PX システムは、まずデータセンターでディープ ニューラル ネットワークを開発し、トレーニングすることにより、車両周囲で起こるすべてのことをリアルタイムで理解できるようになります。
クラウドから車両へ
企業は、クラウドでも GPU の力を利用しています。NVIDIA HGX-1 は、データ センターでのディープラーニング向けに、すべての主要業種にわたり使用できるよう設計された AI スーパーコンピューターの新たな標準です。
AI カー革命
現在市販されている多くの自動車は、先進運転支援システム (ADAS) と呼ばれる基本的な安全機能を備えています。これらのシステムは、多くの場合、スマート カメラをベースにしており、基本的な障害物検出や車線識別が可能です。これらの機能は、自動車メーカーが自動車アセスメントでより高い安全性評価を受ける助けとなります。
ADAS システムは、自動車をより安全にするための足掛かりではあるものの、自動運転車には程遠いものです。また、自律走行車に必要な処理量の方がはるかに多く、少なく見積もっても 50 倍はくだらないとフアンは指摘しました。
しかも、それは AI Co-Pilot の追加を含んでいません。2 か月前の CES で発表された NVIDIA の AI Co-Pilot テクノロジは、車内の AI アシスタントの役割を果たすだけでなく、車外の潜在的危険性に関する安全警告も行います。さらに、ドライバーおよび車両の周囲 360 度を監視することにより、乗員の安全確保に役立ちます。
「もちろん、いつかすべての自動車を自律走行車にすることが目標ですが、その実現までの間、コパイロットとなり、ガーディアンとなり、ドライバーに目配りをする AI を提供していきます」とフアンは語りました。
ディープラーニングによる AI Co-Pilot は、顔認識により、ドライバーに応じた固有の基本設定を自動的に行うことができます。また、ドライバーの視線の先を理解したり、表情を検出してドライバーの心理状態を理解することも可能です。AI Co-Pilot は、このような情報と車両の周囲で起きていることを組み合わせることにより、目に見えない潜在的危険性をドライバーに警告できるのです。
さらに、このシステムは、唇の動きを読み取ることも可能です。そのため、ラジオの音量が大きすぎる場合でも、自動車は、ドライバーの指示を理解することができます。
Bosch Connected World でのジェンスン・フアンの講演の模様は以下でご覧になれます。