ファースト・レスポンダー(緊急時の初期対応者)が煙の充満した部屋や化学物質の流出現場に進入する前に、あるいは、兵士が敵の軍事施設に突入する前にもっとも役立つものといえば、内部の様子を確認できる写真です。安全な距離から、安全対策が取られていない場所を3Dで探索できるかどうかは、生死に関わる問題となり得るでしょう。
米国防総省DARPA(国防高等研究計画局)のチームは、その実現を支援するため、優れた3Dイメージング・ソフトウェア、GPU、およびあらゆるカメラを組み合わせて、危険な状況が発生し得る環境のVRビューを生成する活動に資金を投じています。
「Virtual Eye」と呼ばれるそのシステムの目的は、兵士や、消防士、捜索救助隊員が、部屋などの閉ざされた空間に進入する前にその内部を「バーチャル」に歩き回り、危険に遭う可能性を避けながら状況を詳しく調べられるようにすることです。
DARPAのマイクロシステム技術研究室のVirtual Eye開発を率いるプログラム・マネージャであるトラング・トラン(Trung Tran)氏は、次のように述べています。「私たちが知りたいのは、既存の情報をさらに活用できるかどうか、つまり、現在使用しているカメラからより多くの情報を得ることができるか、ということです」
その答えは、間違いなく「Yes」です。さらにすばらしいのは、どのようなカメラでも構わないという点です。トラン氏は、このシステムは「カメラに依存しない」と言います。
Virtual Eyeのしくみ
たとえば、もっと多くの情報がなければ危険すぎて室内に進入できないと緊急対応者が判断した場合は、ドローンまたはロボットを投入します。ドローンやロボットは、2つのカメラを操作するか、室内の異なる場所に配置します。そして、Virtual Eyeソフトウェアが、空白部を埋めるのに必要なデータを外挿して、各画像をリアルタイムで3Dバーチャル・リアリティ・ビューへと合成します。
このシステムを消火活動に応用すれば、消防士が室内を確認して、危険な状況にある子供がどこにいるか(ベッドや他の家具の後ろなど)を判断したり、炎が激しい場所を予想したり、突入方法を計画したりすることができるでしょう。
また、戦場の場合なら、兵士がVirtual Eyeを使用して、敵に待ち伏せされている恐れがないかどうかを確認することや、室内に爆薬がないか、偽装爆弾が仕掛けられていないかどうかを見抜くことができるでしょう。
トラン氏は、次のように説明します。「目の前の状況を把握することは、戦場において正しい判断を下すうえで非常に重要です。2つの画像の違いに目を向け、違いを把握し、それらを合成することで、3D画像を作成できるわけです」
リアルタイムの3Dビデオ体験
開発中のVirtual Eyeシステムでは、NVIDIAのモバイルGPUであるQuadroおよびGeForce GTXを利用して、画像をつなぎ合わせると同時に、カメラで撮った画像から3Dデータを外挿します。トラン氏は、NVIDIAのGPUを選んだ理由に、「ラップトップへの搭載に適した小型サイズ」を挙げます。
このシステムの機能は、スポーツ放送で用いられる3Dテクノロジに少し似ています。そのテクノロジは、360度のリプレイ・ビューを視聴者に見せることが可能ですが、表示できるのは静止画のみです。それに、スタジアムや競技場のあちこちに多数のカメラを配置する必要があります。
Virtual Eyeは、最終的にはるかに少ないカメラでスポーツ・イベントをリアルタイムで放送できるようになると、トラン氏は話します。
今後、このテクノロジは急速に進化するでしょう。現在のところ、Virtual Eyeでは、2台のカメラからの画像しか合成できません。トラン氏のチームは、このソフトウェアでさらに多くのカメラを連携させる取り組みを進めています。来年の初めに5台のカメラからの画像を合成できるバージョンを発表することが、トラン氏の目標です。
また、ゆくゆくはこのテクノロジによって、エベレストの山頂など、人々が本来なら目にすることもなかった場所を訪問できるようになるだろうと、トラン氏は予測しています。