離島に渡り、断崖をよじ登ってターゲットを追い、その動きをすべて感知する音響センサを取り付ける――そのような鳥類学者の姿は、まるでジェームズ・ボンドさながらです。
SM2自動デジタル・オーディオ・レコーダのモデル(写真提供:MNSRP、
Jay Penniman氏)
また、彼らは、ボンドのガジェット好きな仲間“Q”が大喜びするようなテクノロジを、鳥の巣の位置の把握や、鳴き声の記録、個体数の観測などに積極的に取り入れています。
絶えず野外にさらされる音響センサやカメラは、たくさんのデータを取り込みますが、量が膨大すぎてとても手作業では分析しきれません。
そうしたデータを高速で処理して保護活動に活かそうと、米国カリフォルニア州サンタクルーズに拠点を置くConservation Metricsは、NVIDIA GPUによって加速されるディープラーニングを利用してソフトウェアに学習させています。
Conservation MetricsのCEOであるマシュー・マッカウン(Matthew McKown)氏は、次のように述べています。「この作業では多くの推論を行い、数多くの膨大なデータ・セットにも向き合わなければなりません」
同社の最近の成功事例には、南カリフォルニアの沖合にあるチャネル諸島国立公園への貢献があります。そこでは、かつて齧歯動物の脅威にさらされていた鳥類の個体数の観測を可能にしました。
最新の自動調査と従来の手法を組み合わせることで、同社は、希少種の1つであるハイイロウミツバメの生息地を突き止めました。ハイイロウミツバメは灰色の小さな鳥で、「孤立した環境に生息し、地面に掘った穴に卵を産み、夜間にしかコミュニケーションをとりません」と、マッカウン氏は言います。
ハワイ・レイサン島のオナガミズナギドリのひな
(写真提供:U.S. Fish and Wildlife Service、
Abram B. Fleishman氏)
これまでは、生物学者が暗闇の中、荒々しい不安定な岩場を這って調査を行っていました。それが今では、センサを設置すれば、24時間いつでも鳥の鳴き声を記録できます。センサは自動分析によって鳴き声を感知し、研究者に巣の位置を知らせます。これは、カリフォルニア州アナカパ島にあるハイイロウミツバメの巣の初の記録となりました。
GeForce GTX TITAN Xを自らのワークホース(便利で頑強な戦力)だと表現するマッカウン氏は、次のように続けます。「GPUによって作業スピードが22倍になり、90,000時間分のデータを処理できるようになりました。これを手作業で聞くとなると、おそらく10年はかかるでしょう。そして、当社のアルゴリズムを利用して、まれにしかない出来事を検知し、絶滅危惧種の生息地を見つけ、保護活動の前後の個体数を調べて、その推移の予測につなげています。」
また、同社で人工知能の取り組みを指揮するデイビッド・クライン(David Klein)氏は、次のように述べています。「これはまさに、ディープラーニングの最適な応用例といえるでしょう。生物学者は、自動ソフトウェアに学習させることで、自分たちの活動が及ぼす影響を測定できるようになりました。」
ミズナギドリの生存調査
Conservation Metricsは、一度は絶滅したと考えられていた海鳥の発見にも貢献しました。
レイサン島のオナガミズナギドリ(写真提供:USFWS、Abram B. Fleishman氏)
2011年、博物館に保管されていたミズナギドリの標本が別の種であることが判明し、オガサワラヒメミズナギドリと名付けられました。
ポケットサイズの白黒の鳥が定期的に目撃されたことから、日本の研究者たちは、東京の南約1000kmに位置する小笠原群島のいずれかの島で、この鳥が繁殖しているのではないかと推測しました。
マッカウン氏は言います。「この岩だらけの環礁は、近づくのがとても困難なため、研究者は泳いで上陸してセンサを設置し、9カ月後にまた泳いで戻ってセンサを回収しました。そして、センサからは、すばらしい音が聞こえてきました。長期間にわたって鳴き声が記録されていたのです。つまり、探していた鳥がそこに生息し、繁殖している可能性が高いことがわかったわけです。」
この実験的調査は繰り返し行われ、2015年、ついに研究者たちは最初の巣を発見しました。自然保護活動家たちは今や、生存が確認されたこの鳥を保護するうえで何に注力すべきかを知っています。また、自動化された手法を利用して、絶滅の脅威と個体数の回復についてより多くのことを学べるようになりました。