コンコルドジェット機のいかにも速そうなラインとシドニー・オペラ・ハウスの舞い上がるような空間、鳥の巣の入り組んだ雰囲気を組み合わせたようなものだと言えば、ダグハン・カムというアーキテクトの変幻自在な作品がどのようなものか、少しはわかってもらえるでしょうか。
カムは現在、ロンドン大学バートレット校建築学部のティーチング・フェローを務めており、栄えあるプリツカー建築賞を獲得したアーキテクトのザハ・ハディドと仕事をした経験も有しています。彼は、現在、GPUコンピューティングにより、目を見はる抽象的な3Dデザインをレンダリングしたり、複雑な構造物が構築できるように画像処理ロボットをトレーニングしたりといった研究をしています。
芸術の域に達したアーキテクチャ:ロンドン大学ティーチング・フェローのダグハン・カムがデザインし、3Dプリンタで出力したプロトタイプイスタンブールで教育を受けた後、6年前にロンドンへ移住したカムは、いま、数値物理学とさまざまなアルゴリズムを駆使して物質の構造をシミュレーションしています。
利用しているのはCUDA並列プログラミング・モデルです。また、前々からNVIDIA GPUを使ってきました。大規模な3Dプリンティングとディープラーニングを組み合わせ、ロボットによる生産を確立しようという最新プロジェクトでも、このふたつを活用しています。
まず、Quadro K6000グラフィックス・カードとTesla K40 GPUアクセラレータを使って3Dモデルを作成します。次に、Boston Limited社およびMaterialise社の協力を得て、光造形方式の巨大な3Dプリンタで高解像度シミュレーションの結果を出力します。この方法なら、大きく複雑な部品を一体成形することが可能です。
こうして、抽象的で美しいプロトタイプが完成します。現代美術館に飾られていてもおかしくないと感じる作品なのです。ところが、このデザインにはきわめて現実的な側面――建築物の強度を犠牲にすることなく、使用する建材を最小限に抑えて建設コストを削減する――もあります。
カムは、いま、大規模な3Dプリンティングとロボットによる生産に注目しています。
今回紹介したプロトタイプは、今年の春に開催されたミラノ・デザイン・ウィーク2015で大変な評判となりました。その結果、カムが進めている大規模3Dプリンティングとロボットによる生産がバートレット校建築学部の支援を受けられるようになりました。いま、カムらは、ロボットによる生産で利用するリアルタイムの画像処理とフィードバックを実現するため、コンピュータビジョンとディープラーニングのアルゴリズムについて研究を進めています。
プロジェクトが新たな段階に入ったわけですが、この段階では、ロボットによる高度な生産手法を確立し、複雑な構造物を効率的に製作できるようにすることを目標としています。そのため、NVIDIA cuDNNディープ・ニューラル・ネットワーク・ライブラリを使って産業用ロボットをトレーニングし、ロボットが自律的に意思決定できるようにしたいとカムらは考えています。このとき、ロボットのセンサが集めた画像データは、NVIDIA GPUで処理します。
今月初め、このような成果やプロトタイプがロンドン大学のB-Pro Showに出展されました。以下に、カムが行ったシミュレーションの一部を動画でご紹介しましょう。