10年前、ハリケーン・カトリーナがニューオーリンズを襲いました。3年前には、ハリケーン・サンディでニューヨークが大変なことになりました。何百人もの人が亡くなり、何十億ドルもの被害が出ました。
どこに住んでいる人にとっても、気象の予測は命運を左右する可能性がある大事なことなのです。
このたびスイスは、GPUアクセラレーテッド・コンピューティングを導入し、嵐をはじめとする危険な気象現象の予測精度を大幅に高めることに成功しました。
日常的な天気予報の精度を高めようと、スイス気象庁MeteoSwissが国レベルの気象関係組織として初めてGPUアクセラレーテッド・スーパーコンピュータを採用したのです。
我々の予報は「スイスが最後ということにはならない」です。天気を精度よく予測するには高いコンピューティング・パフォーマンスが必要になります。それほどのコンピューティング・パワーを活用したい場合――しかも電力不足を招かずに――GPU以上に適しているものはありません。
新システムは、CPUベースの旧システムに対して40倍ものパフォーマンスを誇ります。その結果、気象モデルの分解能を2倍以上に引き上げることが可能になりました――しかも、エネルギー効率は3倍に達します。
気象モデルの分解能向上 = 予報の精度向上
コンピュータによる気象予測モデルの分解能を高めれば、天気予報の精度を高めることができます。
気象モデルというのは、ある時点における大気の状態をサンプリングし、そのデータと流体の流れおよび熱力学の式を使い、未来のある時点における大気の状態を予測するものです。
予測範囲は網目状に分割します。こうしてできた区画はセルと呼ばれるのですが、隣接するセルと整合性を取りつつセルごとに式を解くことで予測を行います。分割の網目が細かいほどモデル全体の分解能が高くなり、最終的な予測も現実に即したものとなります。
いま、世界各国は、気象モデルの分解能を1kmにしようとしのぎを削っており、今回のMeteoSwissシステムが実現したのがまさしくそれなのです。
MeteoSwissのパワフルな新システムでは、短期(24時間)予報に使う気象モデルの分解能が従来の2.2kmから1.1kmとなるので、雨や雪の量、継続時間、場所を正確に予測し、厳しい気象状況について早期に警報を出すなどが可能になります。
加えて、中期予報の分解能も3倍以上になりますし、予報期間も3日から5日に拡大します。
MeteoSwissの新システムは、現在最高レベルの密度を誇るGPUアクセラレーテッド・システム、Cray CS-Stormクラスタ・スーパーコンピュータをベースとしています。設置場所はスイスのルガノにあるスイス国立スーパーコンピューティング・センターで、来年夏にはフル稼働となる予定です。使われているGPUは、Teslaアクセラレーテッド・コンピューティング・プラットフォームのフラッグシップ、NVIDIA Tesla K80 GPUアクセラレータです。
広く普及しているCOSMO気象モデルがGPUアクセラレーテッド化
日々の天気予報は、数値予報モデルを使って高性能スーパーコンピュータで行います。
GPUアクセラレーテッド・バージョンのCOSMOモデルを採用したのは今回のMeteoSwissが最初ですが、このモデルは、ドイツ、イタリア、ギリシャ、ポーランド、ルーマニア、ロシアの国家機関でも天気予報に利用されていますし、このモデルを地域的な気象の研究に活用している研究機関は70カ所以上に上ります。
COSMOコンソーシアムでは、いま、このような天気予報を提供している機関やコンソーシアム・メンバーにGPUアクセラレーテッド・バージョンのCOSMOを提供するべく準備が進められています。
ですから、将来の予報としてこうメモしておくべきでしょう――もう何年かしたら、自分のところの天気予報もGPUアクセラレーテッドのスーパーコンピュータで処理されるようになるだろう、と。