25年前に地球の軌道に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙に対する我々の認識を大きく変えました。
E-ELT(European-Extremely Large Telescope)なら、ハッブル望遠鏡から地球に送られてくるすばらしい画像の15倍も鮮明な画像が得られます。それを支える技術のひとつがGPUです。
E-ELTは長さがサッカーコートの半分近くもあり、そのドームは高さ100メートルで2,800トンもある回転構造の上に据えられます。パリ・ディドロ大学とパリ天文台(LESIA)で働くダミアン・グラタドゥール准教授は、「これはエジプトのピラミッドに肩を並べる大きさ」だ、と今年のNVIDIA GPU Technology Conferenceで表現しました。
E-ELTは、2024年に完成が予定されており、設置場所はチリのアタカマ砂漠のセロ・アマゾネスとなっています。望遠鏡の直径は40メートルで、2.4メートルのハッブルがおもちゃに見えるほどの大きさです。ただ、地上設置の望遠鏡であるため、大気乱流の影響をもろに受けるのが頭痛の種となります。
地球の大気圏というのは、部分によって温度が異なる、すなわち屈折率の異なる空気が混じり合い、動き続けています。そのため、天文学者が波面と呼ぶもの(星から届く光)がゆがみ、画質が落ちて望遠鏡の感度も下がってしまいます。
つまり、望遠鏡をどれほど大きくしても、画像の分解能は大気圏によって制限されてしまいます。完全に透明で安定した空というのはあり得ないわけで、どうしたら補正できるのかに天文学者は頭を悩ませることになります。ここでGPUが役に立つのです。
E-ELTはGPUの力を借りることで大気乱流を「通して見る」ことができ、いままで見られなかった宇宙の映像を天文学者に届けることができます。
史上最大の目
グラタドゥール准教授は、GPUを活用した「マルチオブジェクト適応光学系」のリアルタイムに近いシミュレーションをかつてない規模で行うプロジェクトを推進しています。この手法で画質を改善し、波面形状の変化を補正しようというわけです。
このプロジェクト・チームの目標は、MOSAICという巨大な装置を開発し、E-ELTに組み込んで
史上最大の宇宙を見る目を天文学者に提供することです。
MOSAICでは、星や銀河から届き、大気圏を通過してゆがんだ波面を適応光学的手法で「再構築」します。これは多くの計算処理が必要なプロセスで、乱流量を測定し、断層像再構成装置を使って望遠鏡に用意された可変ミラーの形状を調整することでゆがみを補正しようというわけです。
このMOSAICの性能について、先日、NVIDIA Tesla K20c GPU搭載システムによるシミュレーションが行われました。その結果、はるかな銀河の観測でいままで不可能だったほどリアルなスナップショットがE-ELTなら得られることがわかりました。
この成功を踏まえ、プロジェクト・チームではいま、E-ELTに組み込んだMOSAICをGPUでリアルタイムに駆動することを考えています。実現すれば、かつてない宇宙の映像を天文学者に届けられるのです。
グラタドゥール准教授の仕事について詳しく知りたい方は、GTCにおけるプレゼンテーションをご覧ください。