クール便、でしょうかね。
来年には、わずか1キロあたり120万ドルで荷物を月まで送れるようになりそうです。この輸送費を、月面で車を走らせるレースで必要となる資金の足しにしようという話が背景にあります。
カーネギーメロン大学から生まれたピッツバーグのスタートアップ企業、Astrobotic社が、開発中のGriffin Landerを2016年末ごろには月に送りたいと考えているのです。
Astrobotic社は、GoogleのLunar XPRIZEコンペティションに参加している会社のひとつで、総額3000万ドルの賞金をかけ、民間のチームが、ロボットを月面に降ろし、そのロボットを500メートル走らせてHDTV映像を月から地球に送ることを競うコンペティションです。
目的は、宇宙旅行の費用を多少なりとも引き下げることで、実際に成果も出ています。対象が人間ではなく荷物なのです。
このAstroboticが、月面に機器を送りたいと考える企業や大学、政府機関などに着陸船の荷室スペースを販売することを計画しているのです。そして、この宇宙旅行を適切にモデル化し、着陸船が月面まで安全に到達できるように支えているのが、GPUです。
AstroboticではGPUの活用によって着陸船を月面に送ろうとしています。
今年のGPU Technology Conferenceで、AstroboticのCTO(最高技術責任者)、ケビン・ピーターソン(Kevin Peterson)氏は、満員の会場に向かい、このミッションには1億ドルの費用がかかるが、そのかなりの部分を荷室スペースの販売で得る考えを示しました。
「自分好みの月行きミッションが構築できるウェブサイトを提供しているのは、我々くらいのものだと思います」とピーターソン氏は胸を張りました。
もちろん、月への宅配事業を展開しているわけではありません。Astroboticそのもののミッションは、月面探査車を月面に降ろして走らせ、XPRIZEのグランド・プライズ、2000万ドルを獲得することが目的です。
GPUは、Griffin Lander発射時の動きや加わる圧力をシミュレーションし、振動で着陸船が壊れたり過剰な高周波振動が着陸船に加わったりしないかを確認するために使われています。
ピーターソン氏によると、GPUは着陸のシミュレーションにも使われているそうです。月面のレイトレーシングにより、フットボール競技場くらいの範囲を目標に着陸ができるようにしたいというのです。ちなみに、昔NASAがアポロ宇宙船を月に送った際には、直径5kmほどの平地を着陸目標地域としていました。
Astroboticとしては高精度の着陸を可能にしたいと考えており、そのため、このミッションを実行する前に、100万回は着陸・離陸を経験しておきたいとピーターソン氏は語りました。
月面着陸では平らで安全なところに降りるのがセオリーですが、これほど高精度の着陸が行えるようになればその必要はなくなるのではないかとAstrobotic社では考えているそうです。Griffin Landerは、大昔に溶岩流で形成されたピットと呼ばれる部分やクレーター外周の盛りあがったところにも着陸できるようになるのではないかというのです。これも、GPUがなければできないことです。
会場に詰めかけたGTCの参加者、数百人を前に、ピーターソン氏は、こう語りました。「太陽系には、行ってはみたいけどいままで行けなかったところがたくさんあります。我々は、そのようなところに行ってみたいと思うのです。その鍵を握るのは計算処理です。」
地上からの通信は、着陸船が月面軌道上にいるときが最後になります。降下開始後は、すべて自動運転で処理しなければならないのです。GTC会場に展示されている着陸船も、現在開発中の自律走行自動車と同じ原理で動く月面探査車も、です。