アプリケーションやデスクトップの仮想化技術が登場してから久しいとはいえ、それを取り巻く状況はその前評判とは裏腹に必ずしもかんばしいものではありませんでした。その最大の欠点は、乏しいユーザー体験です。
なぜそうなったのか。その理由は実にシンプルで、仮想化の当初の構成に、並列コンピューティングのスペシャリストともいえる GPU が含まれていなかったためです。しかし、仮想 GPU (vGPU) によってその状況は一変しました。
通常、ワークステーションや PC、ノート PC のような従来の物理コンピューティング デバイスでは、GPU が 3D アプリや動画などの複雑なタスクを遂行するため、あらゆるキャプチャ、エンコード、レンダリングを実行します。初期の仮想化では、そのすべてがデータ センター ホストの CPU によって処理されていました。CPU ベースの仮想化は、一部の基本的なアプリケーションでは機能したものの、ほとんどのユーザーが求めるレベルのネイティブな体験やパフォーマンスにはまったく対応できませんでした。
その状況が一変したのは、NVIDIA が仮想 GPU をリリースした数年前のことです。データ センター GPU を仮想化することで、複数の仮想マシン間で共有できるようになりました。その結果、アプリケーションやデスクトップのパフォーマンスが大幅に向上し、企業/組織がそのパフォーマンスをビジネス全体でコスト効率よくスケーリングできる、仮想デスクトップ インフラストラクチャ (VDI) を構築することが可能になりました。
GPU の役割
GPU には数千のコンピューティング コアが含まれているため、ワークロードを効率的に並列処理できます。3D アプリや動画、画像のレンダリングを思い浮かべてみてください。これらはすべて大規模な並列タスクです。
並列タスクを処理できる能力を備えた GPU は、コンピューター支援型のアプリケーションの高速化を得意とします。多くのエンジニアが、コンピューター支援エンジニアリング (CAE)、コンピューター支援設計 (CAD)、コンピューター支援製造 (CAM) 用のアプリケーションをはじめとする重要な処理に GPU を利用していますが、他にもさまざまな消費者向け、企業向けのアプリケーションに対応しています。
もちろん、どのプロセッサでもグラフィックスのレンダリングを行うことは可能です。時間をかけさえすれば、4 コア、8 コア、16 コアでも処理できるでしょう。しかし、GPU 上の数千の専用コアなら、長時間待たされることはありません。当然ながら、インタラクティブにアプリケーションの実行速度が高まり、アプリケーション本来のパフォーマンスを発揮できます。
仮想 GPU のしくみ
仮想 GPU の機能を支えているのは、ソフトウェアです。
NVIDIA vGPU ソフトウェアは、世界でもっともパワフルなデータ センター GPU である NVIDIA Tesla アクセラレータによって加速される、グラフィックス処理に長けた仮想デスクトップや仮想ワークステーションを実現します。
このソフトウェアは、サーバー上にインストールされた物理 GPU を変換して、複数の仮想マシン間で共有できる仮想 GPU を作成します。その結果、GPU からユーザーへの 1 対 1 の関係ではなくなり、1 対多の関係が生まれます。
また、NVIDIA の仮想 GPU ソフトウェアには、仮想マシンごとのグラフィックス ドライバーも含まれており、「サーバー サイド グラフィックス」と呼ばれることもあります。これにより、物理デスクトップと同じように、各仮想マシンで GPU のメリットを得ることができます。一方、いつもは CPU によって行われていた処理が GPU にオフロードされたことで、ユーザー体験がはるかに向上し、より多くのユーザーをサポートできるようになります。
NVIDIA の仮想 GPU ソリューションには、デジタル ワークプレースの課題に対応するよう設計された 3 つの製品が含まれています。ナレッジ ワーカー向けの NVIDIA GRID 仮想 PC (GRID vPC) と NVIDIA GRID 仮想アプリ (GRID vApps)、そして、設計者、エンジニア、アーキテクト向けの NVIDIA Quadro 仮想データ センター ワークステーション (Quadro vDWS) です。
NVIDIA GRID があらゆるユーザーにすばらしい体験を提供
グラフィックスに関してビジネス ユーザーが求める要件が高まっています。Lakeside Software, Inc. のホワイトペーパーによると、Windows 10 では、必要な CPU リソースが Windows 7 よりも最大 32% 増大しています。また、Chrome や Skype、Microsoft Office といった基本のオフィス向け業務用アプリの最新バージョンでは、これまでよりもずっと高度なコンピューター グラフィックスが求められます。
グラフィックスを多用する、高度にデジタル化されたワークプレースの実現を目指すトレンドは、加速の一途をたどるでしょう。CPU だけを利用する仮想化環境ではナレッジ ワーカーのニーズに応えることができないため、Windows 10 を使用する、仮想化されたデジタル ワークプレースや企業にとって、NVIDIA GRID の GPU によって加速されたパフォーマンスが基本要件となっています。
NVIDIA Quadro vDWS があらゆるデバイスでワークステーション クラスのパフォーマンスをセキュアに実現
毎日、あらゆるデバイスからきわめて要求の厳しいアプリケーションにアクセスして、場所を問わず作業し、大規模データセットを操作しながらも、情報のセキュリティを確保する必要のあるクリエイティブな技術専門家が、何千万人と存在します。
たとえば、リモートからの相談に応じたり、会議で質の高い画像にアクセスしたりする心臓専門医や、シミュレートされた没入型のトレーニング体験を提供する政府機関のほか、データ センターで知的財産や独自のデザインのセキュリティを確保しながら、顧客のオフィスで他の人と連携する必要のある、新車の設計を手掛ける研究開発エンジニアなどが考えられます。
このようなグラフィックスを多用する高度なニーズを持つ人々のために、Quadro vDWS は、データ センターやクラウドから、デバイスや場所を問わずもっとも優れた仮想ワークステーションを提供します。
仮想 GPU で IT 管理を簡素化
IT 管理者は VDI を利用することで、従業員のロケーションごとにワークステーションを個別にサポートする代わりに、リソースを一元的に管理できるようになります。さらに、プロジェクトやアプリケーションのニーズに応じてユーザーの数を増減することもできます。
NVIDIA の仮想 GPU の監視機能が提供するツールと洞察によって、IT 部門は、トラブルシューティングの時間を短縮し、戦略的なプロジェクトに集中する時間を増やすことができます。IT 管理者は、インフラストラクチャをアプリケーション レベルまで把握できるようになり、問題が存在する場所を未然に特定できるようになります。その結果、チケットやエスカレーションの件数を減らし、問題の解決にかかる時間を短縮できます。
また、VDI によって、IT 担当者はユーザーの要求事項への理解を深め、リソースの配分を調整できるようにもなります。これにより、運用コストを節約しながら、ユーザー体験を向上させることができます。他にも、NVIDIA GPU アクセラレーテッド仮想マシンのライブ マイグレーション機能によって、ワークロードの平準化や、インフラストラクチャの復元、サーバー ソフトウェアのアップグレードなどの重要な作業を、仮想マシンのダウンタイムを発生させずに実行できます。その結果、可用性が高まり、上質のユーザー体験を実際に提供できるようになります。
さまざまな企業で活躍する仮想 GPU
ここで、NVIDIA の仮想 GPU ソリューションを導入した組織での成功事例をいくつかご紹介します。
- CannonDesign (建築、エンジニアリング、建設): CannonDesign は、設計者からエンジニアまで、Revit を使用する自社の全ユーザーに仮想化を提供するとともに、オフィス向け生産性アプリを使用するナレッジ ワーカーにハイエンド アプリを提供しました。その結果、より高いユーザー密度を、2 倍のパフォーマンスで実現しながら、セキュリティを向上させました。これにより、同社の IT チームは、新しいユーザーに対して仮想ワークステーションを 10 分以内にプロビジョニングできるようになりました。
- Cornerstone Home Lending (金融サービス): Cornerstone Home Lending は、支店 100 か所とユーザー 1,000 人にわたる自社のデスクトップ展開を、単一の仮想化環境へと合理化しました。その結果、レイテンシが低下し、動画の編集や再生といった最新のビジネス アプリケーションで高いパフォーマンスを実現しました。
- DigitalGlobe (衛星画像): DigitalGlobe では、開発者とオフィス スタッフがグラフィックスを多用するアプリケーションを任意のデバイスで利用して、PC のようなネイティブ体験が得られるようにしました。NVIDIA Tesla M10 GPU アクセラレータと NVIDIA GRID ソフトウェアへの移行によって、ユーザー密度が 2 倍になり、大幅にコストを削減したほか、IT 担当者の業務を合理化して、ユーザー対 IT 担当者の比率を 500 対 1 にしました。
- ホンダ (自動車): ホンダは、仮想 GPU 技術を利用して、スケーラビリティの向上と投資コストの削減を図りました。その結果、パフォーマンスが向上し、3D CAD や、さらにはシン クライアントといった、グラフィックスを多用するアプリケーションでのレイテンシが低下しました。現在、ホンダとアキュラの車両は、NVIDIA の仮想 GPU ソフトウェアによる VDI を使って設計されています。
- Seyfarth Shaw (法務): Seyfarth Shaw は、自社の弁護士にあらゆるデバイスですばらしい Web 閲覧体験を提供するため、Tesla M10 GPU と NVIDIA GRID vPC を使って、Windows 10 VDI へのアップグレードを行いました。イントラネットを読み込むだけで以前は 8 ~ 10 秒かかっていたのが、今ではわずか 2 ~ 3 秒で済むようになりました。大きな PDF も難なくスクロールできるようになり、ユーザーから IT への苦情が激減しました。
- Holstebro Kommune (政府): Holstelbro Kommune は、NVIDIA GRID によって CPU 使用率を最大 70% 向上させました。リッチ マルチメディア コンテンツ、ビデオ会議、動画の編集/再生といった機能を備えた最新のアプリケーションや Web ブラウザーを、デバイスを問わず、物理デスクトップに匹敵するパフォーマンスで実行できるようになりました。
- UMass Lowell (教育): マサチューセッツ大学ローエル校は、自校の学生にワークステーション レベルの体験を提供し、SOLIDWORKS や完全な Autodesk スイート、Moldflow、Mastercam といったアプリを、任意のデバイスで使用できるようにしました。同校では、同等のパフォーマンスを維持しながら、ワークステーションのシートあたりのコストを 9 分の 1 に抑えて、VDI 環境を運用しています。NVIDIA の仮想化ソフトウェアの更新だけで、20 ~ 30% のパフォーマンス向上を達成しました。
ぜひ @NVIDIAVirt をフォローして、NVIDIA の仮想 GPU ソリューションの詳細をご確認ください