医療 AI のスタートアップ、COVID-19 のパンデミックに対抗すべく戦略を素早く転換

投稿者: Tony Kontzer

中国の Shukun Technology が、胸部 CT スキャンの分析を加速するための AI ツール「Lung Doc」の開発に NVIDIA GPU を活用

新型コロナウイルス感染症 (以下、COVID-19) のパンデミックによって世界が未曾有の混乱に陥っています。

しかし Shukun Technology にとっては、この事態に対応するにあたって「戦略をわずかに変更するだけで済んだ」と、最高技術責任者のチャオ ジャン (Chao Zheng) 氏は述べています。

というのも、中国における AI と医療の第一人者らによって立ち上げられたスタートアップである Shukun は、この世界的パンデミックの発生当時、心臓疾患と脳卒中を診断するための AI プラットフォームの改良に励んでいたためです。

COVID-19 の患者の診断を加速するため、同社は胸部 CT スキャン分析システムの開発へとリソースを素早く振り替えました。そのシステムは「Lung Doc」 (肺炎エディション) と呼ばれ、中国ではこの数か月間ですでに 30 の病院に展開されており、より多くのデータから学習することで精度が高まることが期待されています。

NVIDIA GPU を利用するこのシステムは確実に高い効果を発揮していると、ジャン氏は言います。Shukun は現在、このシステムの導入について問い合わせのあった多くの国々での実用化に向けて強化を図っているところです。

放射線科医を強力にバックアップ

Lung Doc を開発する以前、この創業 3 年の企業は心臓疾患と脳卒中向けに 2 種類の製品スイートを発表していました。本質的に Shukun のテクノロジは、「放射線科医が 2D 画像や 3D 画像を処理して分析し、その結果に基づいて診断を行うためにかかる時間を短縮する」という非常に特殊で有益な機能を提供します。

通常これらの作業には熟練の放射線科医で 30 分程度かかりますが、使用する手法やアプローチは放射線科医によって異なるので、さらに時間がかかる場合もあります。それが Shukun の AI によって一貫性とスピードが高まることで、画像処理と診断の両方のプロセスがわずか 1 分で済むようになります。

「このツールによって効率が格段に向上することから、放射線科医はより正確な結果をより速く得られるようになります」と、ジャン氏は説明します。

生命にかかわる疾患の公開データはほとんど手に入らないため、 Shukun は独自の AI モデルの構築において、それぞれ通常 200 ~ 300 枚の画像を含む合計 10 万件を超える非公開データセットを入手するために、病院、学術機関、研究機関のパートナーによる巨大ネットワークに目を向けました。

AI モデルの構築時、同社がセグメンテーションと分類作業をサポートするために利用したのは合成画像データでした。転移学習によってある疾患から学習したことを他に適用することで、開発プロセスを加速するのに役立ちました。

GPU が結果をもたらす

NVIDIA GPU が、Shukun にとって重要な役割を果たしました。学習には NVIDIA V100 Tensor コアと P100 GPU の組み合わせ (全体で 500 基以上) が利用され、ローカルでの推論は、NVIDIA T4 データセンター GPU を使って行われました。同社は、オンプレミスでもプライベートクラウドのような環境でも、病院が完全にシステム運用できるように設定することができます。

ジャン氏によると、それらの GPU はそれぞれ旧世代の GPU や CPU の 20 倍のパフォーマンスを発揮しており、心臓疾患と脳卒中向けの各製品で人間の検出能力に匹敵する精度を達成したとのことです。

次世代の GPU によって引き続き学習プロセスが加速され、さらに精度の向上も期待されます。それと同時に、「フェデレーテッド ラーニング モデルによって、病院および Shukun のデータセンターがすべてリアルタイムでデータを交換することで、当社の目標達成が促進されるでしょう」と、ジャン氏は言います。

現時点では、 Shukun は最新データを入手するために各病院に働きかける必要がありますが、多くの場合に問題になるのが各施設での接続性です。それぞれの病院がフェデレーテッド データ モデルに接続できれば、Shukun のパートナーネットワークを流れるすべてのデータにアクセスする上で必要になるのはローカルトレーニングだけになります。

フェデレーテッド データの追求

Shukun の心臓疾患と脳卒中向けの製品は中国全土の 200 を超える病院に導入されています。それらの病院の多くはすでに院内の放射線科や画像診断部に同社の AI を完全に統合していますが、実際の患者データにこのテクノロジを適用する前に 1 ~ 2 か月の間臨床試験にかけることを選択する病院もあります。

データを拡充してフェデレーテッド モデルを構築すると同時に、Shukun はより多くの疾患や画像診断装置へと視野を広げる予定です。たとえば、MRI ソリューションを開発して、さらなる臨床の現場へと自社の AI を導入する道を開きたいと考えています。

同社はまた、独自のフェデレーテッド ラーニング機能への利用に向け、NVIDIA Clara アプリケーション フレームワークへの調査を進めており、研究者やデータ サイエンティストが、データのプライバシーとセキュリティを確保しながら AI アルゴリズムに共同で取り組めるようにすることを目指しています。

「当社は医療コミュニティ全体にAI を浸透させることを目標としています」と、ジャン氏は述べています。

その一方で、同社は引き続き世界が COVID-19 のパンデミックの抑制に近づけるよう貢献する意向も示しています。