胃腸異常の診断で GPU が活躍: まるで体内版『ミクロの決死圏』

投稿者: Tony Kontzer

1966 年の傑作 SF 映画、『ミクロの決死圏』 (原題: Fantastic Voyage)では、重体の科学者の脳内にある血塊を取り除くべく、医療チームを乗せた最新型潜航艇をミクロ化し、体内に注入しました。

今はまだミクロ化した医療チームを体内に送り込む技術は実現していませんが、AI、ディープラーニング、GPU を組み合わせれば、同様の視点が得られます。そして、その第一歩が腸の詳細な診断です。

ポーランドに拠点を置くスタートアップ企業である CTA.ai が、「GastroView」というソフトウェアを開発しました。このソフトウェアを使用すると、体内に飲み込まれたカプセル型の小型カメラによって撮影された消化管の動画を分析できます。この開発によって、結腸や小腸内の異常を診断するプロセスが大幅に加速されただけでなく、それらの診断の精度も向上しました。

そしてこれは、はるかに不快な診断法から患者を解放するという点でも重要です。

CTA.ai の共同創立者兼 CEO であるマテウシュ マルモロウスキー (Mateusz Marmolowski) 氏は、次のように指摘します。「GastroView によって、従来の内視鏡検査よりもずっと快適な消化管の検査を、患者に提供できるようになります。」

マルモロウスキー氏と共同創立者のマレック トロージャノーウィッチュ (Marek Trojanowicz) 氏が 2013 年に同社を設立した当初は、仮想現実と拡張現実に関するテクノロジを専門としていました。しかし、その後まもなく、医療画像の課題を解決するため、機械学習と画像処理の専門知識を応用する方向へと転換しました。

そうして誕生したのが「GastroView」です。ポーランドのグダニスクにある本社では機械学習の開発が行われ、マサチューセッツ州ケンブリッジの MIT では同僚たちによって画像認識の研究が進められました。

Bottoms Up!

GastroView は、患者が錠剤大のカプセルを飲み込むことで機能します。カプセルには、カメラ 2 台、照明用 LED、CMOS イメージ センサー、内蔵電池、送信機、アンテナが搭載されています。カメラはその後 8 時間にわたって消化管の動画を収集します。その動画はエンコードされ、患者が装着したデータ レコーダーに無線送信されます。

GastroView にアップロードされた動画は、5 万~ 10 万枚の連続した内視鏡画像に分割され、ポリープや出血などの異常を自動検出するディープラーニング アルゴリズムが適用されます。

結果として、従来の内視鏡検査に比べ、画像分析の所要時間を 70% 短縮、関連コストを 50% 削減、異常の検出/診断数を増加させることができたほか、患者が受ける検査の快適さを大幅に改善できました。

「自動診断をサポートするツールによって、検査における医師の労力を軽減できるだけでなく、検査の感度が高まる」と、マルモロウスキー氏は説明します。

ディープラーニングと GPU を投入

疾患や異常を検出/識別する GastroView の機能を支えるディープラーニング アルゴリズムと畳み込みニューラル ネットワークのトレーニングを行うため、CTA.ai は、4 基の NVIDIA TITAN X Pascal GPU を実行するサーバーを利用しました。これにより、CPU の 10 倍の処理速度が実現できると、マルモロウスキー氏は言います。トレーニングの大半では、オープンソース フレームワーク Caffe 専用のカスタムラッパーが使われ、CUDA と cuDNN の両ライブラリが採用されています。

同社では、医療技術企業への売り込みを視野に、ゆくゆくはこれらのコンピューティング構成を増強して柔軟性と拡張性を高めるとともに、処理量を増やして経済性を向上させる予定だと、トロージャノーウィッチュ氏は言います。

「GPU が果たす役割はきわめて重要です」と、マルモロウスキー氏。

また、CTA.ai は、GastroView の基盤テクノロジの新たな医療的応用も見据えています。マルモロウスキー氏によると、同社はディープラーニングと機械学習の能力を、脳の CT スキャン画像や腹部超音波検査に応用するプロジェクトを進めています。