biomy、NVIDIA GPUを活用した病理画像解析プラットフォーム、DeepPathFinderのサービス提供を開始

投稿者: NVIDIA Japan

三井物産の Tokyo-1 プロジェクトとも連携し、国内のAI創薬を促進予定

株式会社biomy(以下、biomy)は、AIを用いた病理画像解析のためのクラウドサービス、DeepPathFinder™ の提供開始を発表しました。この先進的なサービスは NVIDIA のテクノロジを最大限に活用して開発されており、三井物産株式会社が同社の戦略子会社である株式会社ゼウレカ(以下ゼウレカ)を通じて構築する製薬業界向けのスーパーコンピューター、Tokyo-1 とも今後連携する予定です。

医療者や患者さんが最善の治療を選択し、診断、治療アウトカム、薬効の向上につながる世界を目指す

biomy の創設は 2019 年。株式会社 NTT ドコモで AI の研究開発を手がけていた小西哲平氏(現職 biomy CEO)と佐野博之氏(現職 biomy CTO)が、がん治療に悩む多くの患者さんのために、研鑽してきた AI 解析のスキルを使って貢献したいという想いから、この会社を起こしました。2022 年には、NVIDIA のスタートアップ支援プログラムである NVIDIA Inception にも参画しました。

biomy がリリースした DeepPathFinder は、腫瘍の病理画像を迅速に解析し、患者さん個々のがん免疫微小環境の空間的特徴量を定量的に把握することを可能とします。

近年、ノーベル賞受賞で注目を浴びた免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を主とした薬物療法が、様々ながんの主要な治療法として開発されています。しかしながら、ICI は全ての患者さんに効果をもたらすわけではなく、治療効果の高い患者さんとそうではない患者さんが存在します。また、その薬剤費は高額かつ免疫に関連した重篤な有害事象をまれに引き起こすこともあるため、適切な患者さんを見極め治療していくことが求められています。

これまで、世界中の研究者が ICI の薬剤感受性を予測するために多くの研究を実施してきました。そして、腫瘍そのものだけではなく、がんを取り巻く免疫微小環境がICIの薬効や予後に重要な影響を与えていることが分かってきました。しかしながら、患者さん個々のがん免疫微小環境を日常診療で定量的に解析しようとすると、巨大なコストと時間を必要とします。DeepPathFinderは、AI の力を利用して病理画像を迅速に解析し、がん免疫微小環境の空間的情報を日常診療に提供することを目指しています。これらのがん免疫微小環境から検出された空間的情報は治療決定の判断材料の1つとして役立ち、適切な患者選択や薬効予測を通じて、治療アウトカムの向上につながるのではないかと考えています。

DeepPathFinder の主要な機能

DeepPathFinder は、がん細胞と取り巻くがん免疫微小環境の理解を高めることを支援する、研究用途のサービスです。

前述のように、ICI の薬効には、がん免疫微小環境が重要な因子であることが数多くの論文で報告されています。DeepPathFinder に実装されているAIは、病理画像から上皮細胞、リンパ球、マクロファージに留まらず、線維芽細胞やプラズマ細胞も検出します。組織についても、腫瘍、壊死、間質など、細かな分類を支援します。これらの情報を組み合わせることで、間質内のリンパ球や線維芽細胞の数、密度を定量的に評価し、腫瘍から特定の距離に存在する免疫細胞の数を把握することができます。さらに、形態学的な特徴を元に、一部のドライバー遺伝子変異の特有の特徴量を検出する機能も実装されています。


DeepPathFinderで細胞や遺伝子変異の推定結果を可視化した例(左:細胞抽出結果、右:ドライバー遺伝子変異の推定結果と変異ありと判定した場合の根拠になっている領域の可視化結果)
画像提供:biomy

このように DeepPathFinder では、薬剤感受性に重要ながんの空間的、形態的特徴を迅速に解析することで、研究用途だけでなく、将来的には診断から治療の現場でも貢献することを目指しています。

biomy CEO の小西氏は次のように述べています。「DeepPathFinder を用いれば、biomy 独自のアルゴリズムによって腫瘍内浸潤リンパ球(TILs)や腫瘍不均一性の理解を深めることができると考えています。例えば、TILsやドライバー遺伝子変異の特徴量を複合的に把握し、ゲノム検査等ではわからない空間的な情報を元に薬効の違いなども識別することができるでしょう。これらのがん免疫微小環境に関する情報の定量化は今後も免疫療法が進展するがん領域においてさまざまながん種に応用できます。」

さらに、biomy は、H & E 染色画像と多重免疫染色画像や連続切片の免疫染色画像を用いて、H&E 染色画像のみから免疫細胞の分布を推定する技術を開発しており、この技術を応用して、さらなるがん免疫微小環境の理解にもチャレンジしています。がん免疫微小環境に注力して解析できる AI 技術を持つ企業としては、国内有数です。

「DeepPathFinder は、患者さんや医療者のみならず、製薬企業や診断薬メーカーの研究者の方々にも、診断支援や適切な患者選定、治療アウトカムの向上を通して寄与できると考えています。特に薬剤の有効性や有害事象に紐づくバイオマーカー開発は、AI 等のテクノロジの導入による、新たな時代が到来しつつあります。がん治療に悩む患者さんをより多く救うためにも、研究者とヘルスケア産業が連携していくことが、今求められています。これこそが、biomy の DeepPathFinder がヘルスケア領域にもたらす革新的な付加価値だと信じています。」と小西氏は言います。

GPU の力で病理画像解析を加速

DeepPathFinder は、NVIDA A100 TensorコアGPU を活用し、高速に病理画像解析を処理します。病理画像ファイルのフォーマットとしては、スライドガラス標本全体をデジタル化したWhole Slide Imaging (WSI) が用いられることが一般的です。WSIには、数万ピクセル x 数万ピクセルを持つ超高倍率、超高解像度の画像から低倍率、低解像度の画像まで、複数の倍率画像が一つのファイルに含まれます。その結果、一つのファイルは数GBにのぼります。「膨大な量の高解像度画像を使ってディープラーニング モデルをトレーニングし推論するには、80 GB のメモリを有する NVIDIA のコンピューティング リソースの導入が不可欠でした。」と小西氏は述べています。

病理組織には、1 検体当たり数十万にも及ぶ細胞が存在しており、それぞれの免疫細胞の空間的分布や位置関係を把握することが重要です。DeepPathFinder 上ではこれらを把握するだけでなく、形態学的特徴から遺伝子変異を推定し、それらの結果を組み合わせることも可能です。これにより、取り扱うデータの次元数が増加するため、GPU の持つ高速演算の重要性がより一層増してくると小西氏は指摘します。biomy では創業当初から NVIDIA の GPU や CUDA などのソフトウェアを活用していますが、小西氏は今後も biomy の研究開発において NVIDIA の製品を活用し続ける予定です。

病理画像解析アルゴリズムの開発は非常に難しい作業ですが、biomy では病理学の高度な知識に加えて、GPU のメモリ効率を最適化する工夫、計算量を削減するアルゴリズムの構築など、さまざまな知識や技術を融合して、高精度かつ高速のアルゴリズムを実現しています。その技術力は国際的にも広く認められており、研究成果は 2023 年 6 月に開催された ASCO (American Society of Clinical Oncology:米国臨床腫瘍学会)という世界トップレベルの国際会議でも演題が2本採択され、医療分野でも高い評価を得ています。

DeepPathFinder の提供形態: Tokyo-1 との連携も視野に

biomy は、DeepPathFinder をクラウドサービスとして提供しており、現在、研究機関や製薬業界の新規ユーザーを積極的に募集中です。アカウント発行後、ユーザーは即座に DeepPathFinder を利用することが可能です。AI の知識がなくても問題ありません。ユーザーは病理画像ファイルをアップロードし、必要に応じて基本情報を入力するだけです。そうすれば、システムは病理画像に対して自動的に biomy の各種 AI モデルを適用し、可視化、定量化した結果を出力します。各種解析機能については、ユーザーの要望に応じたカスタマイズにも対応しています。ユーザーの要望に応じて、AI モデルを一から共同で学習・研究開発する体制も提供します。

また、今後はゼウレカが NVIDIA DGX H100 をベースに構築する製薬業界のためのスーパーコンピューター、Tokyo-1 とも連携予定です。今年の 12 月に Tokyo-1 が稼働開始後、DeepPathFinder の活用を希望するユーザー企業は、契約しているスーパーコンピューターの専用サーバーにDeepPathFinder をインストールし、クローズド ネットワークのなかで実行することができるようになる予定です。biomy のこの新たな試みにより、医療 AI のフィールドを更に広げ、より多くのユーザーにその恩恵を及ぼすことが期待されます。


Tokyo-1 イメージ画像

NVIDIA とのコラボレーションで病理画像解析AI技術を啓蒙

biomy は、将来的にはグローバル展開を視野に入れつつも、まずは国内の医療機関や製薬会社との提携を深め、国内での土台作りに注力しています。その一環として biomy は、NVIDIA が主催するハンズオン形式のワークショップに協力し、病理画像解析 AI 技術の基礎を広める活動に力を入れています。

NVIDIA がこのワークショップを開催する目的は、製薬業界の AI 活用の推進とエコシステムの活性化です。昨年から開催が始まり、これまでに 20 社以上の製薬企業から 520 人以上が参加し、無償でこのワークショップを受講しました。biomy の技術者を含む各先端企業から講師が参加し、実践的なハンズオントレーニングを提供しています。

biomy 提供のトレーニングコースでは、まずは WSI の基本的な取り扱いから学びます。トレーニング終了後には、医用画像向けのオープンソース フレームワークである MONAI を利用したAIモデルの構築や、病理画像内の腫瘍有無の分類、細胞領域の抽出などを行うことができるようになります。「一から病理画像を扱うのはとても難しいですが、MONAI を使うことで病理画像解析のイロハを学ぶことができます。」と小西氏は語ります。

このような一連の取り組みを通じて、biomy は製薬業界の生産性向上に貢献し、病理画像解析AI の普及を目指しています。

DeepPathFinderは現在、株式会社マクニカ クラビス カンパニーのサポートプログラム、「AI TRY NOW PROGRAM」を通じて無償で検証可能となっており、活用にご関心のある方はNVIDIAの最新のAI開発環境上でお気軽にDeepPathFinderをご体験いただけます。

DeepPathFinderの詳細、およびお問い合わせについてはこちらをご覧ください。

トップ画像の提供:biomy