NVIDIA アクセラレーテッド コンピューティングが、材料発見の科学的進歩をもたらす

NVIDIA Holoscan がリアルタイム ナノイメージングの画期的な進歩を推進し、NVIDIA ALCHEMI が先進材料と冷却技術の発見を促進
投稿者: Kibibi Moseley

液冷データ センター、高解像度デジタル ディスプレイ、長寿命バッテリーなどの将来技術を強化するために、科学者はエネルギー使用、耐久性、効力などの要素に最適化された新しい化学物質や材料を探索しています。

セントルイスで開催された SC25 カンファレンスでは、新しい NVIDIA アクセラレーテッド データ処理パイプラインと AI マイクロサービスが発表されました。上記の研究を支援する化学と材料科学を推進し、航空宇宙、エネルギー、製造業などの産業への応用が期待されています。

NVIDIA ブースのデモでは、米国エネルギー省のブルックヘブン国立研究所が、NVIDIA Holoscan AI センサー処理プラットフォームを活用して、10 ナノメートル未満の解像度で材料を可視化する研究を紹介しました。

別のデモでは、NVIDIA NIM に導入される 2 つの新たなマイクロサービスに焦点を当てました。これらは、原子レベルで材料の特性を予測およびシミュレーションするために必要なバッチコンフォーマ探索とバッチ分子動力学のための、効率的な高スループット シミュレーションを提供するものです。 これらの NIM マイクロサービスは、化学および材料科学向けのマイクロサービスとツールキットのスイートである NVIDIA ALCHEMI の一部です。

日本のエネルギー企業である ENEOS と、ニュージャージー州に拠点を置く OLED ディスプレイ技術企業の Universal Display Corporation は、NVIDIA ALCHEMI NIM マイクロサービスの早期アクセス ユーザーです。

ブルックヘブン国立研究所が NVIDIA Holoscan でナノスケール イメージングを加速

ブルックヘブン国立研究所は、National Synchrotron Light Source II (NSLS-II) を活用した材料科学研究を推進しています。これは、科学者が強力な X 線源を活用して材料の特性を調査するのを支援する数十のビームラインを収容する施設です。

NSLS-II は、バッテリー、微小電子、ナノ粒子超格子などの複雑な材料システムをナノメートル解像度で画像化できます。 これらの実験は、大量のデータを生成し、科学者がそこから意味のある知見を抽出するには、先進的な計算方法を活用して処理する必要があります。

NSLS-II の研究者は、NVIDIA Holoscan プラットフォームを活用して、ストリーミング データの高帯域幅、高スループットエッジ処理をリアルタイムで行っています。 Holoscan のアクセラレーテッド 処理パイプラインにより、研究者は実験についてほぼ瞬時にフィードバックを受け取ることが可能になり、画像ワークフローをより効率的に実行できます。

NSLS-II ハード X 線ナノプローブの主任ビームライン科学者である Hanfei Yan 氏は次のように述べています。「NVIDIA と協力して Holoscan を NSLS-II のパイプラインに統合することで、各スキャンが終了するのを待つ必要なく、スキャンを実行したときにすぐに結果を確認できるようになりました。この機能により、関心領域を即座に特定し、測定中の特性の進化を観察することができ、実験における意思決定において重要な役割を果たします」

画像処理効率を向上させることは、研究者にとって時間を節約するだけではありません。NSLS-II などの高価な機器の運用コストを最適化するのにも役立ちます。

NSLS-II のデータ エンジニアリングのグループ リーダーである Daniel Allan 氏は次のように述べています。「実験をより効率的に実施できれば、より多くのユーザーをサポートできます。つまり、より多くの科学を実現できることを意味します。私たちはまた、このパイプラインを AI 支援運用に活用し、画像タスクと制御の両方に AI モデルを統合した、自律実験の実施も検討しています」

ENEOS、液浸冷却用流体とエネルギー変換触媒の研究を NVIDIA ALCHEMI NIM で加速

ENEOS は、次世代データセンター向けの液浸冷却(immersion cooling)用の新しい流体開発と、水素燃料製造プロセスなどに利用される触媒材料の探索という 2 つの重要なテーマに対して、NVIDIA ALCHEMI NIM マイクロサービスを活用しています。

ALCHEMI が提供する コンフォーマー探索や分子動力学(MD)向けのマイクロサービスを用いることで、ENEOSの研究者は計算実験を通じて候補分子を事前にスクリーニングし、実験に進めるべき有望材料を効率的に絞り込むことができます。これにより、研究開発コストを削減しつつ、実用化までの期間を大幅に短縮することが可能になります。

ALCHEMI を導入したことで、ENEOS の研究チームは、液浸冷却液の候補約 1,000 万種、酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction: OER)向け触媒候補約 1 億種を、わずか数週間で評価できるようになりました。これは従来の手法と比べて、少なくとも 10 倍以上のスループットを達成しています。

ENEOS ホールディングス株式会社 AI イノベーション部長の井深丈氏は、次のように述べています。「これまで 1,000 万〜1 億候補規模の大規模探索は想定していませんでしたが、NVIDIA ALCHEMI を活用することで、広範囲のサンプリングを非常に簡便に行うことができ、より物理的に妥当な結果を得られるようになりました。計算が驚くほど短時間で完了するため、単なる計算作業ではなく、結果の分析と考察により多くの時間を使えるようになりました。」

Universal Display Corporation が次世代 OLED スクリーンを開発

Universal Display Corporation (UDC) は、時計、スマートフォン、ノート PC、コンピューター モニター、テレビ、自動車、仮想現実ヘッドセットなどの日用製品に搭載されるディスプレイ向けのエネルギー効率の高い有機発光ダイオード (OLED) 材料を発明、開発、商品化しています。

UDC の科学者は、NVIDIA ALCHEMI を活用することで、より優れた性能、より高いエネルギー効率、そしてより正確な色調整が可能なディスプレイを実現する可能性のある新しい OLED 材料の特性を予測しています。

OLED パネル画像 (UDC 提供)

適切な OLED 材料を見つけるには、無限の可能性を探求する必要があります。UDC が OLED 用に作り得る分子の数は、約 10 の 100 乗という膨大な数に上ります。 AI アクセラレーテッド コンフォーマー探索向けの ALCHEMI NIM マイクロサービスを活用することで、UDC は従来の計算方法と比較して最大 1万倍の速度で数十億の候補分子を評価できます。

UDC の執行副社長兼最高技術責任者である Julie Brown 氏は次のように述べています。「当初、UDC の研究は従来の CPU マシンに依存していました。そのため、同時に探索できる範囲が制限され、専門知識と化学的直感を活用して最も有望な化学分野を優先しなければなりませんでした」

「GPU アクセラレーテッド コンピューティングと NVIDIA ALCHEMI を UDC の専門知識と組み合わせて活用することで、発見の規模と速度を完全に変えることができます。これにより、これまで以上に迅速に機会を発見し、新材料の開発を推進できるようになります」

この初期探索で発見された最も有望な化合物は、次に分子動力学向けの ALCHEMI NIM を活用してシミュレーションされます。これにより、単一のシミュレーションでプロセスを最大 10 倍に高速化します。 複数の NVIDIA GPU 上でワークロードを並列に実行することで、UDC チームは処理速度をさらに向上させ、シミュレーション時間を数日から数秒に短縮しています。

画像提供:UDC

UDC は、エネルギー効率とデバイスのパフォーマンスを大幅に向上させる可能性のある、青色リン光 OLED の開発を含む研究プロジェクトに NVIDIA ALCHEMI NIM マイクロサービスを活用しています。

「NVIDIA ALCHEMI マイクロサービスは、容量やスループットの制限に関する懸念を解消し、新しい化学物質に関するフィードバックを迅速に得られるようにするため、個々の科学者の創造性をさらに高めます」と、Brown 氏は述べています。 「NVIDIA とのコラボレーションにより、私たちの科学的洞察の影響力を高め、新材料の発見と開発のスピードを大幅に向上させることができます。 これらの取り組みは、OLED の可能性の限界を押し広げるだけでなく、世界的により持続可能でエネルギー効率の高いディスプレイの基盤を構築します」

NVIDIA ALCHEMI は、科学およびエンジニアリング分野における実世界の問題解決を加速する、150 以上の NVIDIA CUDA-X ライブラリおよびフレームワークの 1 つです。

NVIDIA HoloscanNVIDIA ALCHEMI の詳細については、NVIDIA のハイパースケールおよびハイパフォーマンス コンピューティング担当バイス プレジデント、イアン バック (Ian Buck) による SC25 の対談をご覧ください。

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