脳腫瘍というのは、要するに遺伝子の問題です。
がんは遺伝子変異により、制御できない状態で細胞が増殖することから始まります。ある種の変異を特定することで、病気治療の最も効果的な方向性が分かります。
医師は現在これを、手術の際に採取した組織標本を検査することで行っています。しかし Mayo Clinic の神経放射線科医であるブラッドリー エリクソン医師 (Dr. Bradley Erickson) が選んだのは、MRI を使用し、AI の力で脳腫瘍を予測することです。
Radiogenomics へ
エリクソン医師の手法ならば、医師は非常に有益な遺伝情報をより容易に得られ、腫瘍がどの程度の速さで進行するか、また特定の医薬品やその他の治療に反応するかを、予測することができます。
この取り組みは Radiogenomics と呼ばれ、「画像の見た目だけではほとんど考えつかないような考え方が反映され、腫瘍のゲノム特性を解明することができます」と、エリクソン医師は述べています。
この成果によりエリクソン医師と Mayo Clinic の研究者チームは 2017 年の NVIDIA グローバル インパクト アワードの最終候補 5 組の 1 つに選ばれました。NVIDIA は毎年、社会的な問題、人道的な問題、環境問題に対処するための革新的な研究を NVIDIA の技術を利用して行った 2 つの研究チームに、合計で賞金 15 万ドルを授与しています。
MRI が組織検査を上回る
脳腫瘍の摘出には手術が必要なことは変わらないとしても、エリクソン医師の GPU アクセラレーテッド ディープラーニング テクノロジは、より早期かつより正確な脳腫瘍の診断、治療へとつながるものです。また手術することなく、腫瘍の進行や治療への反応を追跡することにもなります。(エリクソン医師には、5 月 8 ~ 11日にシリコンバレーで開催される GPU テクノロジ カンファレンスでお話をいただきます)。
「組織検査は 100% 正確だとお考えになるかもしれませんが、そうではありません」と、エリクソン医師は述べています。Johns Hopkins Medicine の調査によれば、ゲノム検査を受けた腫瘍患者のおよそ半数について、誤った結論に導く可能性がある結果が出ています。
その組織に腫瘍が存在しない場合に、組織検査で染色体損傷が示される場合もあります。ある種の変異の検査には、検査に適した組織が大量に必要であり、生体検査の後には確保できない場合も多くあります。医師が十分な量の組織を得られた場合でも、その特定の標本に、変異が現れるという保証はありません。
AI が脳腫瘍ゲノミクスを予測
一連の実験を行い、研究者は多形性膠芽腫に伴う遺伝子の変性を特定しました。これは最もよく見られ、かつ最も致死率の高い脳腫瘍の型で、DNA の修復を妨げます。エリクソン医師は、このような MGMT 遺伝子への変化(メチル化と呼ばれる)が起こっているがんの場合、放射線療法単独よりも化学療法と放射線療法を併用する方が、反応がよいのが一般的だと述べています。腫瘍にこのような変性がない場合、医師はより副作用の少ない治療を選択できます。
チームはまた、悪性度が低い脳腫瘍患者が、どの程度化学療法と放射線療法に反応するかを予測する上で重要な、染色体損傷の型を特定しました。
エリクソン医師のチームは、遺伝子変異を伴うものと伴わないもの両方の腫瘍の MRI を利用して、ニューラル ネットワークに学習させました。使用したのは、CUDA 並列コンピューティング プラットフォームと、cuDNN を使用する NVIDIA の GPU の数々です。アルゴリズムの展開には、NVIDIA の Tesla P40 GPU アクセラレータと、その他の GPU を使用しました。
「コンピューターを活用して腫瘍の画像解釈を行うことはずっと夢でしたが、テクノロジが存在しなかったのです」と、エリクソン医師は語りました。
2017 年のグローバル インパクト アワードの受賞者は、5 月 8 ~ 11日にシリコンバレーで開催される GPU テクノロジ カンファレンスで発表されます。カンファレンスへの登録は、GTC 登録ページで行うことができます。