かつては、初期の入植者が「その背の上を歩いてケープコッド湾を渡ることができた」と言うほど数多く存在していた、タイセイヨウセミクジラ。それが今では、クジラの中で最も絶滅の危機に瀕した種の1つとされています。その数は捕鯨によって激減し、今や500頭ほどしか残っていません。
そんなタイセイヨウセミクジラにとって、時間は味方ではないかもしれません。しかし、ディープラーニングは違います。
今月、あるコンテストが終わりました。500頭のタイセイヨウセミクジラの各個体を、空中写真から判別するアルゴリズムの開発を目的としたものです。優勝したコードは、NOAA(米国海洋大気局)によって、タイセイヨウセミクジラを判別するための手作業を、より高速な自動化されたプロセスに変える取り組みに利用されます。
ディープラーニングとGPUが世界にもたらしている変化について詳しくは、NVIDIAのCEOであるジェン・スン・フアン(Jen-Hsun Huang)の最新のブログ記事をご覧ください。
データ科学者のコミュニティ「Kaggle」によって主催・企画されたこのコンテストは、NOAA北東水産科学センタの海洋生物学者であるクリスティン・カーン(Christin Khan)氏の発案によるものです。カーン氏をはじめとする科学者たちは、タイセイヨウセミクジラの各個体を、胼胝(たこ)と呼ばれる頭部の盛り上がった皮膚組織の大きな斑点から判別し、追跡して、各個体および種の健康状態を観察しています。
現在、その作業を行うには、飛行機や船から撮影された写真をはじめ、米国New England Aquariumの監修によるタイセイヨウセミクジラのカタログの画像まで、さまざまな写真を手作業で組み合わせる必要があります。「この作業には手間とコストがかかるので、科学者は、より生産的な研究や実地調査に進むことができません」と、カーン氏は言います。
あるとき、Facebookが写真の中から自分の画像を自動検出できることに気付いた同氏は、クジラに応用できる同様のテクノロジがないか探し始めました。
クジラの判別
当然ながら、クジラが写真用にポーズをとることはありません。画像認識では、それが厄介な問題となりました。写真は、さまざまな角度や距離から撮影されています。さらに、クジラよりも海面の割合のほうが大きい写真も多数ありました。
コンテストの優勝者であり、ディープラーニングとNVIDIA GPUに基づくソリューションを開発したビッグ・データ分析企業、deepsense.ioの最高科学責任者であるロバート・ボグツキ(Robert Bogucki)氏は、次のように述べています。「個々のクジラの判別は、たとえば犬や猫、ウォンバット、飛行機などの判別より、かなり難しくなります。クジラ用のアルゴリズムでは、対象が写真に小さく写っているだけの場合もあるので、細部まで洗い出す必要がありました。今回の場合は、それがクジラの頭部と胼胝のパターンでした。」
ディープラーニングを機能させるには、多層のシミュレートされたニューラル・ネットワーク(人間の脳をモデルにしたアルゴリズム)のトレーニングを行う必要があります。deepsense.ioは、画像認識タスクに最適な畳み込みニューラル・ネットワークを利用することで、Tesla K80 GPUとGRID K520 GPUによるトレーニングを高速化しました(当社のAccelerated Computing News Centerでは、コンテスト2位のフェリックス・ラウ(Felix Lau)氏が、自身のソリューションにNVIDIA GPUとcuDNNを利用した経緯について説明しています)。
ボグツキ氏は、次のように続けます。「このような問題に取り組む場合、短期間の実験サイクルを重ねることで、大量のアイデアをテストできるようにする必要があります。そのため、GPUを利用してトレーニングを加速させることが重要になるわけです。」
タイセイヨウセミクジラの保護を促進するうえで、deepsense.ioのソリューションをはじめとするテクノロジに大きな期待がかかっています。カーン氏と他の科学者による保護と慎重な活動があってもなお、タイセイヨウセミクジラは、船が衝突したり、漁具にからまったり、出生率が低いなど、多くの課題に直面しています。
カーン氏は、今後について次のように説明します。「NOAAは、deepsense.ioのコードを利用して、クジラ識別用のソフトウェアを開発する予定です。ゆくゆくは、ディープラーニングと画像認識によって、ザトウクジラやバンドウイルカなどの絶滅危機種や絶滅危惧種の保護も可能になるでしょう。」
ディープラーニングとGPUが世界にもたらしている変化について詳しくは、NVIDIAのCEOであるジェン・スン・フアンの最新のブログ記事をご覧ください。
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